熊本地震3年 悩み抜いて「前に」 店舗全壊、移転決めた矢野さん(益城町) 県道拡幅で代替地へ

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店があった場所で、今でも「益城プリン」を売る岡本商店の矢野好治さん=益城町

 「これ以上、店の再建は延ばせない」。熊本県益城町福富にあった「岡本商店」を切り盛りする矢野好治さん(50)は、不安を抱えながら新しい土地での再建を決断した。店を失った熊本地震から3年。明治時代に創業した店を守り続けるための、苦渋の決断だった。

 妻の祐子さん(48)の実家が代々営む岡本商店は、食料品や総菜、酒、たばこなどを販売する地元の老舗店。地震前は義母の岡本和子さん(79)が店番をし、矢野さんは料理人の経験を生かし、阿蘇小国ジャージー牛乳を使ったプリンの製造を担っていた。

 一家の暮らしは前震が襲った日を境に一変した。熊本市東区の矢野さん夫婦の家は無事だったが、益城町の店舗は全壊。解体を余儀なくされ、店の2階で暮らしていた義母たちも住まいを失った。

 それでも「元の場所で必ず再建する」という思いを持ち続けていた矢野さん。2016年9月からは同町小谷のテクノ仮設団地にある「益城テクノ笑店街7[しょうてんがいなな]」で、プリンと駄菓子を中心に営業を再開。町の復興の起爆剤になればという願いを込めて「益城プリン」と新たに名付けた。「益城の現状を知ってほしい」という思いで、移動販売車で県内だけでなく、遠くは福岡市にまでも出向いた。

 新聞で県道熊本高森線を拡幅する計画を知ったのは、再建に向けてようやく歩み始めた同年11月。岡本商店があった場所は拡幅の対象用地になっていた。しかも、完成予定は早くて約10年後。「うちはどうなるのかと、頭の中が真っ白になった」と振り返る。

 県が提示した補償は土地の価格のみ。「地震でやむを得ず解体した建物は補償から外れた。明治時代から代々営業してきた過去もかき消されたような気持ちだった」。県や町に何度も掛け合い、やり場のない気持ちを訴え続けた。

 昨年6月、県が矢野さんに提示してきたのは、同町木山の代替地。元の土地より広く、購入価格は売却額を300万円以上も上回る。新しい土地で店を始めるには初期費用もいくらになるか予想がつかず、新たな借金も重くのしかかる。

 「でも、このまま県ともめても時間の無駄。妥協しても、前に進むしかない」。先行きが見えない状況に変わりはないが、矢野さんは県が提示した代替地で店を再開することを決めた。

 店の再建を急ぐのはいまも熊本市内のみなし仮設で暮らす義母のためでもある。「元気が無くなった義母を一日も早く益城に戻して、また店に立たせてあげたい」と矢野さん。週に一度は必ず県道沿いの店があった更地に移動販売車を出し、「益城プリン」を売り続ける。

 「『岡本商店』の看板はまだ残っているから、この場所が道路になる最後の日まで、地域の人と触れ合いたい」(文化生活部・豊田宏美)

(2019年4月17日付 熊本日日新聞朝刊掲載)