ライバルひしめく軽自動車ジャンルに日産・三菱の新型モデルが登場
今は軽自動車の人気が高く、特に注目されているのは、全高が1700mmを超えるスライドドアを備えた車種だ。2018年度(2018年4月~2019年3月)の国内販売ランキングを見ると、総合1位がホンダ N-BOX、2位はスズキ スペーシア、3位はダイハツ タントで、いずれも全高が1700mmを超える軽自動車で占められた。小型/普通車の1位は日産 ノートだが、総合順位は6位であった。
このように今は背の高い軽自動車が人気だが、機能のバランスと価格の割安感で選ぶなら、全高が1600~1700mmの車種が良い。2WDであれば車両重量は900kg以下に収まり、価格はスライドドアを備えた軽自動車に比べて15万円ほど安い。
そして2019年3月28日には、日産 デイズと三菱 eKシリーズがフルモデルチェンジを受けた。両車ともに全高が1600~1700mmに収まる基本部分を共通化した姉妹車だ。ライバル車には、スズキ ワゴンR、ダイハツ ムーヴ、ホンダ N-WGNなどが挙げられる。
デイズ&eKシリーズは、日産と三菱の合弁会社となるNMKVが開発しており、先代型は開発と製造を主に三菱が担当した。新型は役割分担が変わり、開発は日産、製造は三菱が行う。開発と製造でメーカーが異なるのは珍しく、相当に苦労したようだが、開発者は「互いに分かり合えたところも多かった」という。
今回は日産ブランドのデイズを試乗した。ボディはノーマルタイプとエアロパーツを備えた上級のハイウェイスターがある。試乗車はハイウェイスターXプロパイロットエディションと、ハイウェイスターGターボプロパイロットエディションだ。
斜め後方の視界には注意が必要
日産 新型デイズのフロントマスクは今の日産車に共通するV字型グリルを備え、上質に造り込んだ。
運転席に座ると、サイドウインドウの下端が少し高く感じられ、後ろに向けて持ち上げた。外観に躍動感を与えるためだが、後席側のサイドウインドウは面積が狭まり、斜め後方の視界は良くない。
軽自動車は買い物などに使われ、駐車場での後退も頻繁に行うから、後方視界に配慮すべきだ。バックビューモニターは幅広いグレードに備わるが、これに頼って後退すると、左右方向から急速に接近する自転車などを見落としやすい。
最小回転半径は、14インチタイヤ装着車が4.5m、15インチは4.8mで、おおむね満足できる。
ミドルサイズカー並みに高い内装の質感
インパネなど内装の造りは、上質になった軽自動車の中でも特に優れている。オートエアコンはタッチパネル式で、光沢のあるブラックのパネルを装着した。
メーカーオプションのプレミアムコンビネーションインテリア(3万2400円)を加えると、インパネに柔らかい合成皮革の表皮が備わり、本物のステッチ(縫い目)も施される。質感はコンパクトカーを飛び越して、ミドルサイズカー並みに高い。
快適な前席ながら、後席は向上の余地あり
前席はシートのサイズに余裕があり、肩まわりのサポート性も良い。背中から大腿部にかけて、乗員の体重をしっかりと受け止めるから、疲れにくく着座姿勢も乱れにくい。座り心地は快適だ。
運転席の着座位置を上下調節する機能は、シート全体が動かず、座面だけの上下にとどまる。調節した位置によって座り心地が微妙に変わるので、背もたれまで含めてシート全体が上下する方式が好ましい。
後席は床と座面の間隔が乏しく、足を前方に投げ出す座り方になりやすい。座面の柔軟性も乏しく、体がシートに沈みにくいから、サポート性も良くない。座面の形状により、奥行寸法も短く感じる。シートアレンジは後述するように単純だから、座り心地はもっと向上させて欲しい。大人が4名で乗車する機会のあるユーザーは、座り心地を確かめたい。
後席の頭上と足元の空間は広い。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先には、握りコブシ3つ以上が収まる。Lサイズセダンでも2つ半だから、デイズの前後方向の足元空間はかなり広い。頭上にも握りコブシ1つが収まる。
豊富な収納設備だがシートアレンジはシンプル
収納設備は豊富で、助手席の前側には、スズキ アルトラパンのようなボックスティッシュが収まる引き出し式の収納設備を設けた。インパネの中央には、N-WGNのような引き出し式のトレイが備わる。車検証はドアポケットに収まり、グローブボックスを有効活用できる。
荷室は軽自動車として十分な容量を確保した。後席にチャイルドシートを装着した時は、スライド位置を前方に寄せると便利だ。信号待ちの時などに親が子供のケアをしやすく、車内の最後部には相応の荷室が確保され、ベビーカーなどを積みやすい。
ただしシートアレンジはライバル車に比べて単純だ。例えばワゴンRは、後席の背もたれを前方に倒すと座面も連動して下がり、フラットな荷室に変更できる。この機能は前後スライドと併せて左右独立式だ。後席の左側に子供、右側に大人が座る時など、足元空間と最後部の荷室を調節しやすい。
デイズの後席は背もたれに連動して座面を下げる機能がなく、広げた荷室の床に段差ができる。前後スライドは左右一体式だから、分割調節はできない。しかも前述のように座り心地も良くないため、後席の機能はライバル車に比べて見通する。
ノーマルエンジンは上質で洗練されているが、ターボエンジンにはやや粗さも
ノーマルエンジンの動力性能は、実用回転域の駆動力が高く扱いやすい。1300回転付近から加速力がしっかりと立ち上がる。
走行性能を左右する最大トルクの数値は6.1kg-mで。ライバル車と同じだが、発生回転数は異なる。ムーヴは5200回転、ワゴンRは4000回転なのに対して、デイズは3600回転と低い。頻繁に使う回転域で最大トルクを発生するから、アクセルペダルを深く踏む必要がない。駆動力に余裕があって運転しやすく感じる。
その一方で、4500回転付近からは速度上昇が活発になり、スポーティな性格も併せ持つ。回転感覚が滑らかで、ノイズは小さく、上品なエンジンに仕上げた。
一方、ターボは最大トルクが10.2kg-mだから、ノーマルエンジンの1.7倍に増える。しかもこの数値を2400~4000回転で発生させるため、軽自動車の低いギヤ比では、走行中は常にターボが過給効果を発揮する。排気量が1リッターのノーマルエンジンを積んでいる感覚で運転できて、高速道路や峠道の登り坂でもパワー不足を感じない。
ただし自然吸気のノーマルエンジンに比べると、2000~2500回転付近の回転感覚が粗い。アクセルペダルの踏み始めは、踏み込み量に対してスロットルの開き方が大きく、加速力がやや唐突に立ち上がる印象も受けた。このあたりもノーマルエンジンが洗練されている。
ハイウェイスターは、ノーマルエンジン、ターボともに、S(スマートシンプル)ハイブリッドを搭載する。エコモーターが減速時の充電、アイドリングストップ後の再始動、エンジン駆動力の支援を行う。アイドリングストップ後の再始動音が静かだから、エンジン始動と停止を頻繁に繰り返しても、煩わしく感じない。
SハイブリッドのWLTCモード燃費は21.2km/Lだ。この数値は標準ボディのSハイブリッドを備えないエンジンと同じだが、開発者は「実用燃費には差が生じる」という。Sハイブリッドの方が燃料消費量は少ない。
バランスの良い走行性能
新型デイズの走行安定性は良好だ。峠道では少し曲がりにくいが、車幅が狭く背の高い軽自動車に機敏な操舵感を与えると、挙動変化が過度に拡大するなど不都合も生じる。その点デイズはバランスが良い。
カーブを曲がっている最中に危険を回避する時など、ボディの上側は大きめに揺り返すが、後輪はしっかりと接地しているから不安を感じない。
サスペンションのセッティングは、前輪駆動の2WDと4WDの2種類しかない。標準ボディとハイウェイスターは共通だ。タイヤサイズはノーマルエンジンが14インチ、ターボは15インチになる。15インチは操舵感が少し機敏になる代わりに、市街地では上下に揺すられる動きを意識させやすい。14インチタイヤ装着車も含めて、時速40km以下では乗り心地が硬めだが、この速度域を超えると快適になる。
充実の安全装備にプロパイロットまで装備
装備では安全面の充実が注目される。単眼カメラが歩行者や車両を検知して、衝突の危険が生じると、警報を行った後に緊急自動ブレーキを作動させる。車線から逸脱しそうになった時も、警報を発してブレーキを自動制御することで、元の車線に戻る力を与える。
また停車、あるいは徐行中に障害物に向けてアクセルペダルを踏み込むと、ペダルの踏み間違いと判断して、エンジン出力を抑えたりブレーキを作動させる機能も備わる。エンジン出力を抑制させる車種は多いが、デイズはブレーキ制御も行うからさらに安心だ。
今後の課題は緊急自動ブレーキの作動上限速度を高めることだろう。セレナなどの小型/普通車も含めて、日産の緊急自動ブレーキは、車両に対する作動上限が時速80kmにとどまる。高速道路での使用を考えると、時速130km程度まではカバーして欲しい。
このほかプロパイロットも用意され、高速道路では、全車速追従型クルーズコントロールと、パワーステアリングの操舵支援を行う。軽自動車では最も進んだ運転支援機能を備える。
日産 新型デイズの買い得グレードは!?
日産 新型デイズで最も買い得なグレードは、ハイウェイスターXプロパイロットエディション(156万7080円)だ。ハイウェイスターXに比べて9万7200円高いが、日産オリジナルナビ取付パッケージなども標準装着されるから、実質5万円でプロパイロットが装着される。
自宅の近くに登坂路が多かったり、高速道路を使うなら、ハイウェイスターGターボプロパイロットエディション(164万7000円)も検討したい。ハイウェイスターXプロパイロットエディションと乗り比べると良いだろう。
デイズは内外装が上質で、Sハイブリッドはノイズや振動も少ないから、軽自動車では快適な運転感覚を味わえる。小型車に最も近い軽自動車ともいえるだろう。後席の座り心地やシートアレンジに不満がなければ、選ぶ価値は高い。
[筆者:渡辺 陽一郎/撮影:和田 清志・茂呂 幸正]