第3回 福祉施設の防災力向上(3) 介護と災害対応の人的連携も重要

3年前の熊本地震では災害関連死が直接死を圧倒的に上回った

求められる災害時の地域包括支援システム

厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を目指しています。地域包括ケアシステムは、おおむね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域(具体的には中学校区)ごとが想定されています。

しかし、この検討項目に災害時の対応が入っていません。

2016年の熊本地震では、死者が270名(2019年4月12日、熊本県発表)に上ってしまいましたが、直接死は50名であり、関連死の方がはるかに多いのです。また、熊本県によると関連死の約9割は60歳以上の高齢者でした(2017年9月27日、産経新聞)。熊本県によれば、高齢者など配慮が必要な人が慣れない環境で長期間、避難生活を強いられたことが主な要因とされています。過酷な避難生活で、それこそ地域包括ケアシステムの目指す「住まい・医療・介護・予防・生活支援」の一体的な提供がなされなかったといえます。

超高齢社会の防災対策は、直接死を防ぐとともに関連死を防ぐことが最重要であり、それには災害時の地域包括ケアシステムの構築が有効と考えています。現状の地域包括ケアシステムには障がい者や乳幼児などが含まれていません。災害時には全ての要配慮者に必要な支援が届くように拡充することが重要です。

熊本県では災害後に各自治体に社会福祉協議会を中心に地域支え合いセンターが設置され、高齢者だけでなく全ての被災者を対象としました。その後、2018年の西日本豪雨災害の自治体においても、このセンターが設置されています。今後、この取り組みが標準化されることを期待しています。

防災と福祉の連携

近年の災害においては、ケアマネージャー等の福祉サービス提供者が中心となって献身的に担当利用者の安否、居住環境等を確認し、ケアプランの変更、緊急入所等の対応を行うなど重要な役割を果たす事例が出てきています。

福祉事業者は日常的に要配慮者と接していることから、このような活動を平常時から意識的に行うことで要配慮者の自助、共助の力が高まるのではないでしょうか。例えば、家具固定への協力、備蓄品の助言、避難支援者の調整、避難所の周知などです。そして、訪問介護計画書の中に災害時の支援方策を記載し、本人や家族、地域の支援者などと話し合って、役割分担を決めることが望ましいといえます。

この件について、2019年2月6日の参議院予算委員会で議論がなされています。山下雄平議員が「要配慮者を普段から支援している地域包括支援センターやケアマネージャーが、河川管理者と連携して避難支援してはどうか」という趣旨の質問をしたのに対し、厚生労働省は「ケアマネージャーは多忙であり、市町村の実態をよく把握して検討したい」との答弁をしています。また、山下議員が畳み込んで、「ケアマネージャーなど最もよく分かっている人が要配慮者一人ひとりの個別計画作成に関わることが重要ではないか」との質問に対しても、厚生労働省は「ケアマネージャーが能動的に地域の関係者と調整することには手間が掛かるので、さらに検討をしたい」と答弁しています。安倍晋三首相は、「政府として防災と福祉の連携が重要であると認識していて、どういうことが可能か考えていきたい」との答弁がありました。

福祉と防災との連携については、今から検討を始めるような課題ではありません。2006年度の「災害時要援護者の避難支援における福祉と防災との連携に関する検討会」から始まり、2011年の東日本大震災や、度重なる水害時の検討会でも繰り返し取り上げられてきたのです。

今年の出水期は、もうすぐです。具体的な対策をしなければ、水災害や地震時に、また要配慮者の命が危険にさらされます。急がなければなりません。福祉事業者に災害対応計画を作成するノウハウが不足しているためとすれば、河川管理者などと専門家が福祉事業者研修、ケアマネージャー研修を実施しましょう。そして、要配慮者支援の個別計画作成を能動的に地域関係者に働き掛けていくことが不可欠です。

また、介護保険のケアプラン、障害者総合支援法の個別支援計画には災害時の対応を記述する欄がありません。将来的には、要配慮者支援プランの個別計画は、通常のケアプランの一部として必須記載事項となるのが望ましいと考えています。これにより、要配慮者はもとより、作成する福祉事業者、そして地域全体の防災力向上に資することでしょう。

(了)

 

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