「境界線はすごく曖昧」

パラスポーツの魅力伝える大橋未歩さん

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大橋未歩さん

 民放アナウンサーとして五輪を3大会取材した大橋未歩さん(40)は、2013年に脳梗塞を発症した経験から、パラリンピックへの興味が増したという。17年にフリーアナに転向。昨夏から日本肢体不自由者卓球(パラ卓球)協会の特別アンバサダーとしても魅力を伝える。(聞き手は共同通信=三木智隆)

  -パラ卓球のアンバサダー就任のきっかけ

 テレビ東京時代に卓球にお世話になって、恩返しをしたい気持ちだった。脳梗塞になってから、パラスポーツに関わりたいと思っていたので、すぐに決めた。嬉しかったです。

 -2013年に脳梗塞を発症した

 夜寝る前、顔を洗っているとき、右手が左手に触れたとき、感覚がなく、マネキンに触っている感触だった。顔用のクリームを手に取ろうと思ったら、それが床に散乱した。それを拾おうと思ったら、ガクンとなった。家族は私の顔を見たときに「左側が垂れ下がっているような感じ」と言って、これは脳関係の病気じゃないか、ということで救急車を呼んだ。CT検査では詳しいところまで分からず、2日後にMRIを取ったら、脳系の病気ということが分かった。4カ所の脳梗塞が判明し、車いすに乗って入院した。

 -脳梗塞は素早い対処が必要となる

 倒れて実際に麻痺になったのは15分間くらい。そのあと、自然と元の症状に戻った。入院して、血栓を溶かす薬を投与し続け、なぜ脳梗塞が起きたのか検査した。退院後は、神戸の実家で療養生活を送った。なんで、この年で脳梗塞になったのかなということを考えていた。療養生活中、レギュラー番組を他のアナウンサーがやってくれて感謝しかないが、分かっていたけど、自分がいなくても会社も社会も回るよな、というのも痛感していた。完全に休んでいたのは8カ月。その間、実家療養やステントを入れるためのオピニオンを聞きに行ったりした。

  -人生観も変わったのでは

 私は脳卒中の患者さんが入院しているフロアにいた。そこで麻痺が残る方々をたくさん見た。私もわずかな時間、麻痺になったし、後遺症が残ってもおかしくなかったと思ったときに、健常者と障害者の境界線って一体何だろうと思った。実はすごく曖昧な線ではないかと思った。自分自身も当たり前のように、障害者、健常者という言葉を使っていたが、疑いを持たなかった自分が怖かった。その後復帰して、パラスポーツの選手にインタビューしたとき、みんな「優しい差別」という言葉を使っていたのが印象的だった。気を使ってくれているという行為によって、線が引かれてしまう。線を引かれることによって、私たちが訴えたいことが届かないことがある、ということを聞いた。健常者、障害者という二元論って必要だろうかということを考えていた。

 -伝えるという行為にも影響は

 テレビは分かりやすくないといけない、と言われていたが、分かりやすくするために、白・黒、正解・不正解、善悪、みたいな形でカテゴリー分けする傾向がメディアにあると思う。そういうことに抗っていきたいと思った。物事ってグラデーションなんじゃないかと思うようになった。なるべく、何かを伝えるときは、分かりにくいかも知れないが、ありのままを伝えたいと思った。わかりやすさをあえて捨てていきたいと思った。テレビで断言したりすると、一瞬分かりやすいかもしれないが、それは本質から離れることじゃないかと思うようになった。自分自身はあえて迷っていたいと思うようになった。

 パラスポーツも伝え方を皆が迷っている状態だと思う。今の時点でのパラスポーツに関しては、クラス分けとか、難しいルールとかは、一度脇に置いて、何か分からないけど、かっこいいということを、映像にして伝えたいと思う。

 -2020年東京パラリンピックで視聴者に見てほしいこと

 パラスポーツを盛り上げようとするには、環境も改善しないといけない。今、気運は高まっているとは思う。北京五輪は完全に国威発揚の五輪と感じたが、日本ではまた意味が違ってくると思う。世界に向けて、日本という国の思いやりが、目に見える形で普及するのを見せる絶好の機会だと思う。パラスポーツを盛り上げて行くことと同時に、それを加速度的に実現することが可能かと思う。

 -パラスポーツの選手が、一般選手と違うことを感じたエピソード

 障害があるところをあえて狙うこと。対人競技だと、五輪の感覚のスポーツマンシップは、けがをしている部分を狙わないという考え方があると思う。パラスポーツの場合は障害がある部分をあえて狙うことが相手へのリスペクトであり、相手選手は狙われることを前提として、それを超える戦略を立てることが選手としての矜持であると聞いて、驚いた。そして、優しさって何だろうと思った。障害をかばわないといけないというのは、私たち側だけの目線で、真剣勝負をしたいという選手の気持ちからすると、分かっているのに狙わないのは、プライドが傷つくことと知って衝撃を受けた。 

 -パラスポーツの魅力伝えるために

 選手がかっこよく見える映像をバンバン見せていくのが大事ですよね。同じような感じで、見ただけで選手のかっこよさ、思いを伝わるような映像を流して欲しいです。

 -今後取り組むべきことは

 パラスポーツはエンターテインメントとして成立しないといけないと思っている。思いやりで見に行くのであれば、それは福祉であって、そこを超えるにはどうしたらいいか、と思う。テレビ東京で担当した世界卓球は視聴率が本当に悪かった。でも、卓球は面白いと制作陣が信じてやり続けていったら、視聴率は5倍くらいになった。3%くらいから15%くらいになって、卓球ブームが起きた。そのときのことを思い出して、自分を鼓舞している。作っている人たちが、スポーツとして面白いと信じる、素直に思うことが大事。ゴールボールもブラインドサッカーも面白い、どんどん放送すればはまると思う。また、体験する場所を増やすのも大事だと思う。福祉を超えるスポーツとして見てもらえるお手伝いをしたい。

大橋 未歩(おおはし・みほ) 上智大卒業後、テレビ東京に入社。看板アナウンサーとして夏季五輪を3大会現地で取材し、バラエティー番組などでも活躍した。2013年に脳梗塞を発症し、約8カ月休職。17年に同社を退社後、フリーに転向し、国内テレビ番組で初めてパラスポーツのみを取り上げるニュース番組「アスリートプライド」(『スカパー!』で毎月最終週金曜日23時~23時半放送)のMCなどを務めている。40歳。兵庫県出身。