ナカジマレーシング、黄金期再来へのカウントダウン。『速いドライバーがチームを変える』モータースポーツの不文律

 3月の公式テスト時からは気温も路面温度も大きく上がったスーパーフォーミュラ第1戦鈴鹿の予選。公式テスト最終日のトップはアレックス・パロウ(TCS NAKAJIMA RACING)が獲得したが、そのパロウは開幕戦の予選では2番手となり、チームメイトの牧野任祐(TCS NAKAJIMA RACING)がスーパーフォーミュラデビュー戦でポールポジション獲得という偉業を成し遂げた。オフのテストからパロウが速さを見せていたが、この開幕戦予選では最終的に牧野が逆転。ナカジマレーシオングのふたりのフロントロウ独占に、名門復活の兆しが見えた。

「いやもう、感想はうれしいだけ(笑)。(9年ぶりの予選ポール)あの時はいつもこのような景色だったけど、久しぶりですね」と話すのは、TCS NAKAJIMA RACINGの中嶋悟監督。

 今年はホンダの前モータースポーツ部長の山本雅史(現ホンダF1マネージングディレクター)の提案でドライバーふたりを入れ替え、ルーキードライバーふたりを揃えるという大胆なラインアップ変更を敢行したが、それがいきなり奏功した形となった。

「今のドライバーふたりは歳が若い(牧野21歳、パロウ22歳)けど、キャリアは豊富でエンジニアにもどんどん聞いてきて、いいんじゃないですかね。何年か前のロイック(デュバル)と小暮(卓史)を思い出します」と、ルーキーのふたりを手放しで称える中嶋監督。

 ホンダのSFプロジェクトリーダーの佐伯昌浩氏も、今年のナカジマレーシングの変化、そして牧野&パロウのコンビのポテンシャルの高さに期待する。「このオフ、まずはパロウが速かったことが大きいですよね。そのパロウの速さに引っ張られる形でチーム、そして牧野も本来の速さを見せ始めた」と佐伯氏。

 モータースポーツでは昔から、『速いドライバーがチームを変える』という格言にも近いレースの不文律がある。使う道具が多いモーターレーシングながら、常勝チームへと駆け上がる過程には、必ずといっていいほど絶対的に速いドライバーが存在する。

 もちろん、チーム側でもそれなりの体制が整っていなければならないが、低迷するチームが速いマシンを手に入れるよりも、速いドライバーを迎え入れた方が常勝チームへの近道となるのは、2台体制のフォーミュラではよくある事例だ。フォーミュラレースはやはり、マシンよりもドライバーがもっとも重要なコンポーネントなのだ。

「パロウと牧野はそれこそ、デュバルと小暮の関係に似てきていますね」と話す佐伯リーダー。ナカジマレーシングが以前ポールを獲得した2009年のフォーミュラ・ニッポン時代は、それこそデュバルと小暮が競い合うように予選でポールを奪い合い、そのままどちらかが決勝を制する展開で敵なしの状態になっていた。

 今回の予選でも牧野とパロウは3番手の昨年王者、そして鈴鹿マイスターの山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)にコンマ3秒差を付ける速さを見せ、「今日は完敗です」と山本に言わしめる速さを見せた。牧野のデビュー戦ポール獲得というインパクトと、ナカジマレーシングのフロントロウ独占は、9年前の黄金時代の再来を予感させる、完全復活へのカウントダウンのようにも見える。

「明日はもう、いやもうね、無事に終わってくれることを願うだけです」と話す中嶋監督の緊張が痛いほど伝わってくるが、その決勝を乗り切って結果を出すことができれば、その時は誰もが名門復活を認めざるを得ないだろう。

スーパーフォーミュラ第1戦鈴鹿予選でフロントロウを独占したTCS NAKAJIMA RACINGのパロウ(左)、中嶋監督(中)、牧野(右)

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