“GTEプラス”コンセプトが再浮上。ハイパーカー規定に代わるWEC/ル・マンのトップカテゴリーに?

 WEC世界耐久選手権/ル・マン24時間の統括団体であるFIAとACOフランス西部自動車クラブが、2020/2021年に向けた車両レギュレーション策定をすみやかに締め切ろうとしているさなか、既存のGTEおよびGT3マニュファクチャラーの間で、アップグレードされたGTEマシンをWEC/ル・マンのトップカテゴリーとして参戦させるプランコンセプトが再度議論されている。

 “GTEプラス”、または“スーパーGTE”と呼ばれているこのコンセプトは、WECの2020/21年シーズンに導入予定のいわゆる“ハイパーカー規定”を補完するもの、またはその代替案として最近、ワーキンググループのミーティングで大手自動車メーカーによって再度提案されたものだ。

 詳細な情報はそう多くないが、このコンセプトは既存のLM-GTEカーのパワーを約200馬力ほど増大させるなど、そのスペックを現行規定よりも緩和させるもの。それとともにマシンには空力とボディワークの改良も施され、ACOが最近修正したサルト・サーキット1周を3分30秒で周るという目標ラップタイムを、市販車ベースのGTマシンが達成できるようになるという。

 同コンセプトはFIAやACOへ正式な提案はされておらず、まだ議論の段階にあるようだが、大多数の既存GTEマニュファクチャラーがこれを支持していると考えられている。

 あるGTEマニュファクチャラーの代表者によると、このコンセプトは既存のターボチャージャー付きマシンにとっては技術的に実現可能だが、ポルシェのように自然吸気エンジンを採用しているマニュファクチャラーは、必要とされる700馬力レベルの出力を引き出すにあたって、問題に直面する可能性があるという。

 2019年9月に更新される、次のGTE規定の下でデビュー予定の新世代ポルシェ911 RSRは、またも自然吸気エンジンが採用されと予想されている。

 マクラーレン・レーシングのCEOザック・ブラウンと、ランボルギーニ・モータースポーツの代表ジョルジョ・サナのふたりは最近、“GTEプラス”についての話し合いが行われていることを認めている。だが、ブラウンは改良版GTEマシンよりも、市販車ベースとしたハイパーカーがル・マンのトップカテゴリーを争うことをを支持している。

 一方、ランボルギーニはGTEクラスに参戦する可能性については保留にしており、レギュレーションの策定に関わる展開を見守っている状況だ。

「今後数カ月以内に、この種の新たな可能性のあるカテゴリーが、どのようなものになるかが分かるだろう」とサナ。

「まずは、我々が現在評価しているカテゴリーについて、テクニカルレギュレーションの明確なビジョンを知る必要がある」

■2020/21年規定のデッドラインは2019年5月

フォードは2019年限りでワークスによるGTプログラムを終了することが決定している

 そもそも“GTEプラス”のコンセプトは約1年前、LMP1クラスの後継となる新規定の可能性のひとつとしてメーカーからFIA、ACOに提案されていた。しかし、2018年のル・マンで発表されたように、統括団体はトップカテゴリーにプロトタイプカーをメインとする“ハイパーカー規定”を採択している。

 だが、新規定の発表から約9カ月が経過しても、2020/21年シーズンのトップカテゴリーに挑むと宣言した大手自動車メーカーはトヨタを含めて皆無。これを受けてFIAとACOは今年3月、市販ロードカーベースの車両を受け入れるなどハイパーカー規定の枠組みを広げ、マクラーレンやアストンマーティンを呼び込もうとしたが、やはり手を挙げるメーカーが現れていないのが実情だ。

 そのため2020/21年シーズンにハイパーカー規定でのレースが実現可能なのか、また準備期間について疑問が投げかけられている。

 WECのCEOを務めるジェラルド・ヌーブは先月、“スーパーシーズン”第6戦の舞台となったセブリングでメディアに対し、「仮にこのプラットフォームに関する目標が達成できなかった場合は、代替案が用意されている」と述べた。

 代替案が正確にどのようなものなのか明らかになっていない一方で、ACOはトップクラスのレギュレーションを確定させる期限を2019年5月に設定したようだ。これは新ルールの確定から同規定下で行われる予定の最初のレースまで、16カ月に満たないことを意味する。

■GTEクラスの展開はIMSAに影響を与える可能性

 GTEベースのマシンをWECのトップクラスに参戦させる決断は、IMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップのGTル・マン(GTLM)クラスに波及効果を及ぼす可能性がある。同クラスでは現在、LM-GTEレギュレーションを採用しているのだ。

 IMSAは2022年の次のレギュレーションサイクルに向けて、プロトタイプベースのトップクラスレギュレーション策定を進めている。いわゆる“DPi 2.0規定”にハイブリッドパワートレインを含む件については最近、組織内部で合意に達したと理解されている。

 このハイブリッドシステムはいかなるアップグレード版GTEプラットフォームにも採用されない可能性が高く、仮にWEC/ル・マンで“GTEプラス”のコンセプトが推進されれば、北米シリーズはクラス体制の大きな変化に直面することになるかもしれない。

IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権GTLMクラスはポルシェ、シボレー、フォード、BMWがワークス参戦している
盛況のLM-GTEクラスだが、今後の立ち位置はどう変わっていくのか

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