全国「平成創業の企業」調査

 2019年5月1日、元号が『令和』に変わる。10日を残すだけとなった「平成」は、日本経済の節目が重なる30年だった。バブル終焉から崩壊で幕を開け、「金融ビッグバン」、そして未曾有の世界同時不況の「リーマン・ショック」を経験した。
 その間、戦後最長の景気拡大も出現したほか、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など大災害は経済や社会、そして企業活動にも大きなインパクトを残した。
 東京商工リサーチ(TSR)は、保有する企業データベース(約345万社)から元号ごとの創業企業を抽出し、「平成」創業の企業(以下、平成企業)を分析した。
 平成企業は全国で207万4,902社だった。昭和に創業された「昭和」企業(108万3,383社)の約2倍で、企業全体の約6割を占めた。地区別では、関東が98万4,210社(構成比47.4%)とほぼ半数、都道府県別では東京都が55万9,116社(同26.9%)と4分の1を占めた。東京都は平成創業率が73.5%と唯一7割を越え、「平成」は経済活動が東京に一極集中したことを示した。
 産業別で、サービス業他が80万439社(構成比38.5%)と約4割を占め、産業構造が重厚長大から転換したことがわかった。業種別で、「経営コンサルタント,純粋持株会社」などのサービス関連がトップ10に軒並みランクインし、建設関連が上位を連ねた「昭和」と対照的だった。

  • ※本調査は東京商工リサーチが保有する倒産や休廃業・解散を除く企業データ約345万社から、各元号ごとに創業された企業を抽出し、分析した。平成は1989年(平成元年)1月以降とした。

平成企業は全体の約6割、「昭和」の約2倍

 平成30年間に創業された企業(平成企業)は全国で207万4,902社で、全体(345万社)の約6割(60.1%)を占めた。年数では平成の約2倍で、63年余り続いた昭和(1926-1988年)の創業企業(108万3,383社)の約2倍に達した。平成は起業ブームに加え、新会社法が2006年に施行され資本金ゼロなど企業の設立が容易になったことが背景にあるとみられる。

元号別 創業企業数

平成企業数、創業率ともトップは首都圏

 地区別の平成企業は、最多が関東の98万4,210社(構成比47.4%)で約半数を占めた。以下、近畿34万644社(同16.4%)、中部20万8,770社(同10.0%)と大都市圏が続き、最も少なかったのは北陸で3万5,542社(同1.7%)だった。
 各地区の企業数を母数として算出した「平成創業率」は、トップが関東の66.9%。以下、近畿61.7%、北海道57.6%、九州55.9%、中部51.5%、東北51.2%と続き、四国49.6%、中国49.5%、北陸47.3%の3地区は50%を下回った。
 関東と北陸では平成創業率に19.6ポイントの開きがあり、企業の創業や新規設立が加速した首都圏と、伝統的な地場産業が根強く、老舗企業率が高い地域との対比が鮮明に出た。

都道府県別の最多は東京都、平成企業の4社に1社が東京に集中

 都道府県別の平成企業は、最多が東京都の55万9,116社(構成比26.9%)。2位の大阪府18万8,820社(同9.1%)の約3倍と圧倒的で、平成に創業した企業の4社に1社が東京都に集中したことになる。
 次いで、3位は神奈川県13万9,235社(同6.7%)、4位愛知県10万5,778社(同5.1%)、5位埼玉県9万7,374社(同4.6%)と大都市圏が上位に並び、上位5都府県(109万323社)だけで全体の半数を占めた。

平成創業率トップも東京都、唯一の70%超 「地方創成」は道半ばで「令和」に引き継ぐ

 平成創業率が最も高かったのは東京都の73.5%で、全国平均(60.1%)を大きく上回った。都道府県別で唯一70%台に達した。以下、2位は神奈川県(67.8%)、3位大阪府(65.5%)、4位千葉県(65.0%)、5位埼玉県(64.0%)と、大阪府を除き東京都を取り巻く首都圏が上位を占めた。
 一方、平成創業率が最も低いのは山形県の40.8%。山形県は明治創業率、大正創業率が全国トップ、昭和創業率も全国2位だっただけに、平成創業率の低さが際立つ。鋳物や家具などの伝統工芸に加え、明治期はヨーロッパから近代的な製糸技術を取り入れ繊維工業が発達した。このほか、山梨県(46位、41.1%)、福井県(45位、42.6%)、群馬県(44位、42.9%)、山口県(43位、43.6%)なども平成創業率が低かった。
 伝統的な地場産業が根付く地域ほど、相対的に平成創業率が低くなる傾向にあることがわかった。ただ、地方ほど平成創業率が低いことは、換言すると平成は地方経済が停滞や衰退し、東京一極集中が強まったとみることもできる。起業・創業では、政府が目標とする「地方創生」は道半ばにとどまり、「令和」に引き継いだ課題といえそうだ。

産業別 トップは「サービス業他」、建設業の2.7倍

 平成企業の産業別は、「サービス業他」が80万439社(構成比38.5%)と最多で、約4割を占めた。次いで、建設業29万759社(同14.0%)、「小売業」22万625社(同10.6%)と続き、上位3産業で全体の6割(同63.2%)を占めた。
 昭和企業の産業別構成比は、トップが建設業(同25.6%)で4分の1を占め、次いで、サービス業他(20.7%)、製造業(同15.7%)、卸売業(同11.7%)の順だった。
 昭和と平成の比較では、建設業(25.6→14.0%)、製造業(15.7→7.5%)の構成比が大きく減少した。反面、サービス業他(20.7→38.5%)が約2倍の構成比に伸ばした。
 このほか、平成に大きく構成比を伸ばした産業は、情報通信業(1.3→6.9%)、金融・保険業(0.7→2.5%)など。情報通信業は、インターネットの普及を端緒としたIT革命を経て、IoT時代に突入。また、携帯電話が急速に普及し、スマートフォンへと進化した。
 金融業界は、金融ビッグバンを契機に規制緩和が進んだほか、決済手段も多様化、金融とITの融合がキーワードとなった。産業構造が大きく変容し、新たな産業が存在感を増すなか、すそ野を形成する企業群も広がりをみせた。

産業別 平成創業企業

業種別 トップは「経営コンサルタント業,純粋持株会社」やサービス業が上位にランクイン

 平成企業の業種別は、トップが「経営コンサルタント業,純粋持株会社」で8万6,018社(構成比4.1%)だった。起業ブームを背景に、コンサルティング業務を請け負う業態が勃興し、経営の多角化で持株会社化も増え、平成を特徴付ける業種が最も多く創業された。
 このほかトップ10は、3位に「食堂,レストラン(専門料理店を除く)」7万7,965社(同3.7%)が入ったほか、5~7位にもサービス関連業種がランクインした。また、10位には高齢化社会の本格到来で市場が大きく拡大した「老人福祉・介護事業」が3万7,749社創業され、平成企業の特徴が鮮明になった。
 建設産業が主要な経済基盤となっていた昭和は、トップ5まですべて建設関連がランクインしていた。このほか、7位「自動車整備業」、10位「一般貨物自動車運送業」などモータリゼーション社会の到来を反映し、「平成」と「昭和」の社会の大きな変化もみてとれる。

売上高別 5億円未満の小・零細企業が9割、「増収率」は昭和企業を上回る

 平成企業の売上高別は、最多が「1千万円以上1億円未満」の23万6,002社(構成比48.4%)で、零細企業が約半数を占めた。次いで、「1億円以上5億円未満」13万8,169社(同28.3%)、「1千万円未満」6万8,773社(同14.1%)と続き、売上高5億円未満の小・零細規模企業が全体の9割(同90.8%)を占めた。
 昭和企業の売上高構成比別は、平成と順位の変動はないが、100億円以上(平成:0.5%、昭和:1.5%)、50億円以上100億円未満(平成:0.5%、昭和:1.3%)、10億円以上50億円未満(平成:3.6%、昭和:7.4%)と売上高の大きいレンジで昭和企業の構成比が高かった。業歴が長いほど売上規模が大きくなる傾向を示した。

 一方、売上高伸長率では、前年比10%以上の高い伸びをみせた企業の構成比は、平成企業(構成比25.0%)が、昭和企業(同18.6%)を6.4ポイントリードした。横ばいを除く増収企業の構成比は昭和企業が構成比38.5%に対し、平成企業が同44.1%と5.6ポイント上回る。
 増減収で比較した成長性でみると、平成企業が昭和企業を上回る結果となった。

  • ※売上高は直近決算(2018年)の判明企業、売上伸長率は直近決算から2期連続で比較可能な企業を抽出した。

 平成企業の地域、産業・業種、売上高は、昭和と比較すると異なった特色が現れ、経済情勢や技術革新など社会の変化が著しかった時代を反映した結果となった。
 倒産企業の平均寿命は23.9年(2018年、東京商工リサーチ調べ)。「創業から30年」存続するかが企業の一定の尺度となるが、平成企業は最長でも業歴30年の「新興企業」だ。同業他社との競合や、景気の浮沈など、本当の試練はある程度基盤を構築したこれからが本番を迎える。
 一方、企業全体の6割を平成企業が占め、その存在感は「令和」時代に入ってもさらに増していく。平成企業は今後、順を追って創業30年を迎える「老舗」企業へと変貌していくことになるが、令和でも平成企業が日本経済を牽引する主役になれるかどうかが、日本経済の行方を左右することになるだろう。

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