真備の子どもたちに「あそび場」を〜プレーカーがやってくる!〜

プレーカーがやってくる!

2018年11月から活動をスタートした「プレーカー」が3月30日、川辺小学校にやってきた。赤、青、黄色、ピンクに緑、水玉模様に動物の絵、子どもたちが思い思いに描いた色鮮やかな軽ワゴン車。遠くから見てもパッと目を引く車には、金づち・ノコギリ・クギや木切れ、絵の具やボンド、七輪・マッチ・鍋・やかん、コマやボードゲームなど、たくさんの遊び道具が詰められている。それを取り出して並べれば、「出張あそび場」のできあがり。子どもたちは、目を輝かせて飛びついてくる。

「今日はお餅の差し入れがあるよー!」と声をかける。

「よし、餅焼こう!」誰かが言う。

子どもの小さな手でマッチを擦り、七輪に火をつける。

火は、なかなか大きくならない。竹の端材や枝を入れ、うちわでパタパタと扇ぐ。

「焼けたかな?」

「まだまだ…。」

「あ、ちょっと焦げた!?」

夢中になる子どもたちの顔。

焼け上がったお餅を頬張る子どもたちからは、また笑みがこぼれる。

「出張あそび場」を始めたのは

この「出張あそび場」を運営しているのは、「遊び場を考える会」だ。同会は2001年に発足し、倉敷市にある酒津公園でプレーパークの活動をしている。プレーパークとは、子どもたちの「やってみたい」と思う気持ちを大切にし、なるべく遊びに禁止事項をなくして、自然の中で思いきり遊べる場所をつくろうというものだ。あらかじめ遊具などが揃った公園とは違い、子どもたちの創造力で遊びがつくりだされていく。別名「冒険遊び場」とも呼ばれるプレーパークの活動は、1950年代からヨーロッパを中心に広まり、日本では1970年代に東京で誕生。その後、国内に広まっていった。

そうした中で、倉敷市を拠点にする「遊び場を考える会」も、20年近く活動を続けてきた。平成30年7月豪雨の後は、酒津公園でプレーパークの活動をする中で、遊びが被災地の子どもたちのストレス発散や心のケアにつながるのではないかという思いをもつようになったという。

ペイントプレーカーはどこから

車を買い替えるスタッフから、シルバーの軽ワゴン車を譲り受けたことからプレーカーは始まった。「東日本大震災や熊本地震の被災地で、横浜のウォールペイントアーティストのロコサトシさんのペイントプレーカーを思い出し、自分たちでもやってみようと思いついた」と同会の代表・岡本和子さんは話す。NPO法人日本冒険遊び場づくり協会と連携し、日本財団の平成30年7月豪雨災害NPO・ボランティア活動支援事業の助成を受けることができ、真備町の小学校や公園へペイントしたプレーカーが出動することになった。

子どもたちが描いたもの

11月3日、真備総合公園にまだシルバー1色のプレーカーが初めて登場した。ダンボールに絵の具をたっぷり出せば、「ウンチ、ウンチ」と大騒ぎ。

「さあ、好きなように描いていいよ」

四つ葉・三つ葉のクローバーもあれば紅葉した落ち葉もある。手形をつける子もいれば、クビキリギスというバッタを描いた子もいる。いつの間にか「まび」や「笑おー!」という言葉も。色はどんどん重ねられていき、「ペンキをはがすのも楽しいぞ」と誰か気づいたら、ガリガリ引っ掻き始める。

真備町に暮らすスタッフ・原聡美さん

スタッフの一人、原聡美さんは真備町在住。自宅の1階は浸かってしまったが、2階はギリギリ床まで水がこなかったという。犬・猫・鳥とペットを飼っていた原さんは、避難所や仮設住宅には入らなかった。家族全員で、何とか2階で過ごした。

「人のいなくなった真備町は真っ暗で…。日中は復旧作業に来る人がいるけど、夕方以降は静まり返ってしまう。シーンとした街が怖くて、頭がおかしくなりそうだった。娘は突発性難聴になり、私も眠れない日々が続きました。」と被災後の苦しい日々を振り返る。

原さんは、東京の美大を卒業した後、真備町の自宅で「子どものアトリエくれよん」を主宰していた。自宅が再建した昨年12月以降、月曜から金曜までの週5日間、アトリエを子どもたちに無料開放してきた。土日は、「出張あそび場」の活動に出かけていった。忙しくしていると、気持ちが紛れたという。

真備町に戻り始めた子どもたち

「出張あそび場」に来る子どもたちの中にも、家のリフォームが終わり真備町に戻ってきた子もいる。「戻ってきても、まだ多くの人が真備町に戻れていないため、近くに友達がいない。だから外遊びもできない。やりたくなくてもゲームやテレビばかりの毎日になってしまう。我慢の多い日々の中で、自由に遊べるプレーパークに来ると、わざと悪さをしたり、ケンカしたり、羽目を外す子もいるんですよ。」と原さんはあたたかく見守りながら、話してくれる。

 

「ばんブーブー」と名付けたプレーカー

子どもたちとペイントしたプレーカーは、真備町の特産品の竹(バンブー)にちなんで「ばんブーブー」と名付けた。空に向かってぐんぐん伸びていく竹のように、強く、しなやかに。「ばんブーブー」はそんな思いをのせて、真備の町を走っていく。

「出張あそび場」は、今年度も実施することが決まった。「真備地区子育てcafe」の会議で、「子どもの居場所、子どもの自由な遊び場が必要だ」という川辺地区からの声を受け、平成31年度岡山県備中県民局提案事業でも採択された。スケジュールなどは、「遊び場を考える会」のブログやFacebookなどで発信している。

 

「遊び場を考える会」のブログ

「遊び場を考える会」のFacebookページ

 

 

いまできること取材班
文章・撮影:黒部麻子
編集:松原龍之

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