横田 清一 / Seiichi Yokota 活け締め職人
魚の味や鮮度、安全性を向上させるための方法、それが活け締め。ここロサンゼルスには最高の技術を誇る職人がいる。
横田清一さんは、富山県で明治元年から続く鮮魚の業務卸会社に生まれた。高校卒業後、すぐに家業を継ぐのではなく「見知らぬ土地で何ができるか自分を試してみたい」と、フロリダに留学。帰国後に実家で働き始めた。しかしある日、「飽和状態の日本の卸業界は危機にある。安定した国力のあるところで100年以上続く会社を作りたい」と考えた。そのときふと思い出したのが、フロリダで食べた寿司。それなりにおいしかったが、「日本の技術を持っていけばもっとうまい寿司が出せる」と思い、これが海外に目を向けるきっかけとなった。
8年前に米国に来ると、複数の都市を見てから、人口と天候、捕れる魚が決め手となり、LAへの移住を決めた。会社を作るためのステップ、販売許可証や営業許可証の取得などすべて自力で行った。そしてついにビジネスを開始したのは同年の11月のことだった。
当初は客になかなか信用してもらえず、魚を買ってもらえなかった。「高い魚をサンプルのように安くしてお店に置いていったり、とにかく富山の魚を使ってもらった」。2カ月ほどで徐々に注文をもらえるようになり、起業から1年未満で固定客がつき軌道に乗り始めた。当時のメインは富山直輸入の魚の販売。しかし3年後、捕った魚を生きたまま売る米国人漁師に出会い、「ローカルの魚を活き締めにして売りたい」という本来の目的に向け着手することもできた。
活け締めにこだわる理由を、「味も鮮度も安全性も向上するし、いいことばかりだから」と説明する。大切なのは、生きのいい魚を選ぶこと。元気さ、ウロコの状態から判断するこの〝目〟は、経験を通してしか得られないが、横田さんの場合は幼少時代からの育った環境もあって自然に養われたと言える。そしてLAへ来てからもなお、その技術は向上している。4年ほど前に「魚を傷つけない方法」を見つけ出し、活け締めおよび神経締めのテクニックを駆使して新鮮でおいしく、さらに見た目もきれいな魚をレストランなどに届ける。
LAで捕れる魚はギンダラ、ロックフィッシュ、ヒラメ、オーシャンホワイトなどで、すべて天然。食感は日本のものとまったく変わらないという。「ローカルにあるおいしい魚を最高の状態で提供したい。活け締めは世界でも日本にしかない文化。米国でも人々に知ってほしい」と、昨年からは米国人調理師に活け締めを教える。心から誇る母国の伝統技術によって、最高品質第一の魚を米国でも提供し続ける。