平和願う表現者 ロサンゼルスで暮らす人々-vol.782

By Yukiko Sumi

坂本 祐祈 / Yuki Sakamoto 俳優

Photo credit: Masaaki Tomitori 「平和のために何かしたい」という思いから表現することで人々に伝え、共鳴してもらいたいという俳優・坂本祐祈さん。2017年から活動の場をLAに移した(公式サイト:https://yuki-sakamoto.amebaownd.com/)

 坂本祐祈さんの心を突き動かすのは「平和への祈り」。広島出身の坂本さんにとって、平和のために何かしたいと思うのはごく自然なことだった。人々にこの思いを伝えたい。そんな気持ちが坂本さんを〝表現者〟の道へと向かわせた。

 アナウンサーを経て俳優業へ転じたのは「自分で言葉を選び発信するアナウンサーはそこに表現の自由がある。でも私は、その発言によって喜ぶ人も悲しむ人もいる現実と葛藤しつつ言葉を選ぶことに表現の限界を感じていた。俳優は、限られたセリフの中でも役の心に負った傷や時代など深いところまで突き詰めるから、役を生きているときのほうが表現する自由と喜びを感じられる」と説明する。その役と同じ思いや苦しみを持つ人は世界中にいる。自分の表現が映像を通し、彼らにとって少しでも前向きに生きる力になれば。そんな願いを抱きながら自分を通して表現する。

 ロサンゼルスへ来たのは2年前。「日本の伝統文化や、日本女性の優しさの中にある凛とした強さのようなものを海外に伝えたい」という気持ちは漠然とあった。ハリウッドで活躍する俳優の「米国は努力したぶん自分に返ってくる」という言葉も後押しとなった。ゼロからスタートしてみたいという思いに駆られ、渡米を決めた。

 最初に決まった仕事は『Rapid Eye』の日本人大学生役だった。2人の日系人とともに最終オーディションまで残り、見事役を勝ち取った。「受かったのはやっぱりパッションと、自分の日本人としての説得力だと思う」。坂本さんが伝えたい、真の日本人らしさが認められたからこその合格だった。その後は『Me gan』のオーディションに受かり、再び役を獲得。『Rapid Eye』と同監督の『Dead Wax』は、オーディションではなくオファーによる出演だった。後になって、監督から「前作で、君の演技の後にみんながシーンとなった。それが今回も起こると思った」と、早い段階から起用を決めていたことを聞いた。「本当にうれしかったし、米国でやっていける可能性、光が見えた」と振り返る。

Photo credit: Markus Förderer 『MEGAN』では日本人の母親役をオーディションで獲得。「母親にしては若すぎる」などの声もあったというが、「パッションと日本人としての説得力」が認められた

 渡米以降、順調にキャリアを積み重ねるが、「自信があったことなんて一度もない。役を獲ってこられたのは、日本人らしさを大事にして、日本人であることに誇りを持ってやってきたからだと思う」と謙虚な姿勢は崩さない。表現が異国の地で伝わっている感触はある。「満足はしていない。でも手応えはあるし、がんばろうと思う」。表現することが自己満足でよければ、メジャーになる必要はない。しかし表舞台に表現者として立っていくことで、世の中のためになる何かをしたい。その強い思いが彼女を突き動かしている。

© Weekly LALALA, LLC