『救いの接吻』 監督が自分の体験を自演する、究極の「私映画」

 フランスの“ポスト・ヌーベルバーグ”を代表する監督フィリップ・ガレルの1989年の作品が日本初公開される。ガレルといえば、実人生を投影させた私小説ならぬ“私映画”で知られるが、中でも本作は究極ともいえるほどドメスティック。何せ、主人公の映画監督を演じるのは、ガレル自身。妻役は当時の妻のブリジット・シィで幼い息子役に実子のルイ、父親役も実父のモーリスなのだから。

 それだけではない。内容も、新作を準備中の映画監督が、女優の妻をモデルにしたヒロインを妻ではなく別の女優に演じさせようとして、妻の怒りを買い離婚の危機に…というもの。それを悲喜劇としては描かず(けっこう笑えるが)、けむに巻くような“映画論”にしてしまうところが、いかにもガレルらしい。

 彼のフィルモグラフィーは、ピカソのように時代ごとに区分でき、詩人で小説家の盟友マルク・ショロデンコと初めて組んだ本作からは、セリフ=会話劇の時代とされる。事故死した元妻ニコ(ベルベット・アンダーグラウンドの歌姫)に捧げられた代表作『ギターはもう聞こえない』の直前の作品であることに加え、あまりに私的な内容から、その素描的な習作と見られがちだが、会話をいかに映画的に撮るか!ということにかけては『ギター~』以上に尖鋭的で、カメラと被写体の関係性における一つの達成を見せた作品といえよう。今回『ギター~』も同時公開されるので、ぜひ併せて観てほしい。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:フィリップ・ガレル

出演:ブリジット・シィ、フィリップ・ガレル、ルイ・ガレル

4月27日(土)から全国順次公開

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