2018年「手形・でんさい」動向調査

 2018年(1-12月)の全国の手形交換高は、261兆2,755億円(前年比30.1%減)で、2年連続で減少した。手形交換高がピークだった1990年の4,797兆2,906億円に比べ94.5%減と大幅に減少、約5%の水準に縮小した。また、手形交換所は2017年に2カ所廃止されて全国で107カ所となったが、2018年は廃止等の増減がなく、107カ所を維持している。
 一方、2013年2月にスタートした全国銀行協会の電子記録債権(以下、でんさい)は、 2018年の発生記録請求金額(以下、でんさい額)が18兆4,630億9,000万円(前年比23.8%増)だった。伸長しているとはいえ、手形交換高の7.0%にとどまっている。利用者登録数も2015年1月に40万台に乗せたが、2018年12月末は45万7,033社(前年比0.9%増)と、増加ペースは鈍化している。
 手形は、中小企業の資金決済の主役として、経済成長に伴い右肩上がりで増加してきたが、1990年を境に急減している。
 大企業が手形印紙税や管理にかかる人件費などのコスト削減に取り組み、現金決済の広がりは急速に中小企業まで波及している。
 ただ、手形の減少は、中小企業の資金繰りにも微妙な変化をもたらしている。受取手形を手形割引や裏書譲渡に使えず、資金余力に乏しい企業は借入依存度を高めることになりやすい。
 また、手形交換高は激減とはいえ、まだ261兆円にのぼる。中小企業の資金繰りに手形が果たす役割は決して小さくない。

  • ※本調査は、一般社団法人全国銀行協会の全国手形交換高・不渡手形実数・取引停止処分と、でんさいネット請求等取扱高を基に分析した。「でんさいネット」は、全国銀行協会が設立した電子債権記録機関「株式会社全銀電子債権ネットワーク」の通称で、「でんさい」は同社の登録商標である。

手形交換高は過去最低、ピーク時の5.4%

 2018年の手形交換高は、261兆2,755億円。前年比30.1%減と2年連続で前年を下回り、過去最低となった。前年に全体の約5割(49.5%)を占めた大阪手形交換所の交換高が、2018年は半減した(185兆5,250億円→85兆8,775億円)ことが影響した。
 手形交換枚数は5,136万枚で、過去最低だった前年(5,549万枚)から7.4%減少し、最低記録を塗り替えた。
 手形交換高は、ピークの1990年に4,797兆2,906億円を記録したが、バブル崩壊の91年以降、急激に減少。2018年はピーク時の5.4%にまで縮小した。

 手形交換は、金融機関が手形や小切手などを持ち寄って交換する民間の決済制度。明治12年に大阪手形交換所が最初に開設され、手形や小切手の流通増につれて全国各地に開設された。
 高度経済成長の1968年に100カ所を超え、1987年、1988年、1997年に最多の185カ所を数えた。その後は銀行の統廃合、手形振出の減少などで廃止が続き、2017年に2カ所が廃止され107カ所となった。ピークだった1997年の185カ所に比べ、42.1%に減少(78カ所減)している。

手形交換高・交換所数推移

「でんさい額」は前年比23.8%増

 2013年2月にスタートした全国銀行協会の「でんさい」は、2018年の金額が18兆4,630億9,000万円と、前年(14兆9,128億3,700万円)から23.8%増えた。
 スタート元年の2013年(11カ月)の1兆495億1,000万円から、5年で17.5倍(1,659.2%増)に伸長している。
 2018年の「でんさい額」を業種別でみると、構成比は「卸売業・小売業」が43.5%(前年42.9%)、「製造業」が39.0%(同39.6%)と前年とほぼ変わらず、この2業種で8割を占めている。

でんさい利用者登録数・発生記録請求金額推移推移

「でんさい」利用者登録数は頭打ち

 「でんさい」の利用者登録数は、2018年12月末で45万7,033社を数え、2013年2月末(4万5,583社)の10.0倍(902.6%増)に増えている。だが、前年比は2016年3.4%増、2017年1.9%増、2018年0.9%増と頭打ち傾向が鮮明になっている。
 手形交換高は2018年に過去最低を記録したにも関わらず、でんさい額はその7.0%に過ぎない。従来の手形に代わるには、決済金額の増加と同時に、利用者の増加が急がれる。

 大手企業を中心に中小企業にも手形離れが定着し、現金決済が広がっている。
 手形や「でんさい」は半年間に2回の不渡り(決済不履行)を起こすと取引停止処分のペナルティーが科され、事実上の倒産とみなされる。一方で、現金決済の支払不履行は当事者間で解決を図ることになる。現金決済の広がりは、手形取引の基本ルールであるペナルティーを避ける動きと重なる部分でもある。
 減少の一途をたどる手形交換高と対照的に、でんさい額は増加推移をたどるが、依然として手形交換高の7.0%にとどまり、手形に取って代わるまでには至っていない。これは現金決済が手形交換高の減少分の大半を吸収しているためとみられる。また、取引先との商慣習、中小・零細企業のIT化の遅れが、「でんさい」の普及を妨げる要因になっている可能性もある。
 企業決済をめぐる動きとして、政府は2016年12月、下請事業者の保護を目的に「下請代金支払遅延等防止法」の運用基準や「下請中小企業振興法」の振興基準を改正した。支払決済の現金化や手形期日の短縮(60日以内)、手形割引料を支払元が負担するなど、これまでなかった下請中小事業者の取引条件改善を盛り込んだ。
 成長戦略の「未来投資戦略2017」では、「オールジャパンでの電子手形・小切手への移行」を掲げている。これを受けて、全国銀行協会も「手形・小切手機能の電子化に関する検討会」を2017年12月に立ち上げ、翌2018年12月の最終報告で、今後5年間で全国手形交換枚数の6割を電子化することを目標に設定した。電子化の推進に向け、周知の強化や導入支援策を打ち出していく構えだが、これを実現できるかは中小・零細企業への浸透にかかっている。
 決済方法の変化が、中小企業の経営に与える影響は小さくない。電子化が普及するまでの経営環境と、それが及ぼす影響を注視していくことが必要だろう。

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