大ヒット機が “正常進化” 超えた飛躍、 マランツの手頃・小型な本格オーディオ「M-CR612」レビュー

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マランツ「M-CR612」を3つのスピーカーシステムと組み合わせて、その音を聴いた

日本が誇る老舗オーディオメーカーのマランツから、ネットワークCDレシーバー「M-CR612」が発売された(関連ニュース)。

シリーズの第5世代となるM-CR612は、30ヶ月連続シェアNo.1を獲得したヒットモデル「M-CR611」(2015年発売、関連ニュース)の後継機という意味でも注目が集まっている。M-CR611はミニコンポの範疇を超えた音質が高く評価されただけでなく、4chアンプ出力によるバイアンプ対応というミニコンポとは思えないマニアックな仕様にも脚光が当たった。

この人気モデルが約3年半ぶりにモデルチェンジしたとあっては、期待せずにはいられない。むしろ、ファンや市場の期待の大きさを考えると、開発陣のプレッシャーを察してしまう。

しかし結果として、M-CR612は期待を上回る内容をひっさげて登場した。その進化は大きく3つある。1つは音質面での大幅なベースアップ。2つめは、4chアンプ出力搭載のメリットをあらゆるスピーカーで享受できるようにした「パラレルBTL」。3つめは、HEOS対応によるネットワーク機能の大幅な進化だ。

■コンパクトサイズでも多彩な再生ソースに対応

歴代のM-CRシリーズは、小型ボディで優れた音質を実現することをコンセプトにしてきた。本機もサイズは従来機を踏襲し、280W×111H×303Dmmとかなりコンパクト。一人暮らしの部屋やリビングなど生活空間にも気軽に置けるはずだ。

マランツ「M-CR612」(70,000円・税抜)

コンパクトなのに本体の質感は高いことも好印象だ。マランツ独自の3ピースデザインを継承しているが、従来機と比較してフロントパネルはボタン配置がシンメトリー化されており、さらに落ち着いた雰囲気を湛えた。ディスプレイは有機ELで、文字も大きく視認性が高い。光沢が美しいトップパネルは、ハードコートによって極めて傷が付きにくいというアクリル素材が用いられている。初めてオーディオシステムを導入する方も、筆者のようなオーディオマニアも納得の品位あるデザインにそそられる。

本体の質感は高い。イルミネーション切り替え+消灯の機能は前作から引き続き搭載されている
天板には 「タワシで擦っても傷がつかない」というハードコート・アクリルトップパネルを採用する

オールインワン・タイプのオーディオ機器は、再生できる音源の種類もポイントになるが、本機はそこも強力で、HEOS対応によって従来機からさらに進化を果たした。CD、FM/AMラジオ(ワイドFM対応)に加え、ハイレゾを含む音楽ファイル、音楽ストリーミング、光デジタル経由でのテレビの音声までカバーしているのだ。

フロントパネルはボタンがシンメトリーに配置。ディスプレイは視認性の高い有機ELを採用
背面端子部

音楽ファイルの再生は、ネットワークおよびUSBメモリー経由での音楽ファイル再生にまで対応する。最大で192kHz/24bitのPCM、5.6MHz DSDのハイレゾ再生も可能だ。DSDファイルは従来の2.8MHzから5.6MHzへ拡大してくれたのが嬉しい。筆者としては11.2MHzのDSDにも将来的に対応してくれたら嬉しいが、現在ダウンロード販売されているハイレゾのほとんどが、192kHz/24bit PCM、5.6MHz DSD以下のファイルなので、ユーザーが不便を感じることはまずないだろう。

音楽ストリーミングサービスはAmazon Music、AWA、Spotifyなどが再生でき、HEOSアプリから快適な再生操作も行える。Appleの最新ワイヤレス再生規格「AirPlay 2」にも対応。Bluetooth経由でのワイヤレス再生も行えるなど、スマートフォン/タブレットなどとの相性も抜群だ。ちなみにネットワークは接続は、有線LANとWi-Fiの両方を搭載しており、環境に応じて使い分けることができる。

CDの再生も行える
本機のリモコン

HEOS対応は本機のユーザービリティを大きく向上させた。いくら多機能機でも、操作性が悪ければ意味がなく、操作アプリの仕上がりが製品の満足度を左右することも、もはや言わずもがな。HEOSの操作性は高く、ネットワークオーディオに慣れていないユーザーでも快適に操作が行えるはずだ。

ネットワーク基盤にはHEOSモジュールが搭載された

光デジタル入力は、信号入力を感知しての自動電源オンに新たに対応。テレビをオンにしたときにM-CR612も自動で立ち上がるので、テレビとの組合せもより便利になった。また、じわじわとお茶の間に浸透してきた音声アシスタント「Amazon Alexa」によるコントロールにも対応。このように、ただ多機能というのではなく、現代のコンテンツ事情も踏まえた仕様になっているところも評価できる。

4ch分のスピーカー出力を備え、バイアンプ駆動に加えて、2組のスピーカーを独立して使用できるなど、従来モデルからの特長も引き継いでいる。一方、ヘッドホンアンプ回路は刷新され、3段階ゲイン切り替え機能も備えるなど、ヘッドホンへの対応力も向上した。

4ch分のスピーカー出力を搭載

パラレルBTL機能を新搭載、駆動力が2倍に

■さらに磨きをかけた音質。パラレルBTLで駆動力が2倍に

M-CR611でも徹底した作り込みが為されていたが、M-CR612ではさらに徹底した音質向上対策が施された。マランツは近年、フラグシップの「PM-10」やそれに次ぐ「PM-12」など上位のプリメインアンプでクラスD方式を採用しているが、注目したいのは、ここでで培われた技術がM-CR612にも投入されていることだ。

デジタルアンプのデバイス自体は従来から継承しており、実用最大出力は60W+60Wと同様。入力から出力まで全ステージをデジタル処理するフルデジタル構成である点も同様で、平たく言えばデジタル入力されるハイレゾファイルやストリーミング音源、CDなどは、途中でアナログ変換されることなく、アンプまでストレートにデジタル処理されるということだ。こうした仕様は、より鮮度の高いサウンドに寄与する。

M-CR612のパワーアンプ部
Class Dパワーアンプ電源用 低ESRコンデンサ

本機における新しい音質対策として、クラスD方式のパワーアンプ部におけるPWMプロセッサー用の電源を刷新。専用電源とすることでさらなるローノイズ化を実現した。また、メイン基板およびネットワーク基板では、異なるタイプの負低ESR/ESL導電性高分子電解コンデンサーを、各所に最適なものを検討して配置した。30万円クラスのSACDプレーヤー「SA-12」と同じ位相低雑音クロックを採用したことも、音質向上に大きく寄与するはずだ。

コスト度外視とも思えるパーツを豊富に投入できるのは、パーツの購買力がある総合オーディオメーカーならではのアドバンテージと言える。また、前モデルの大ヒットで生産計画にゆとりが生まれた(大量生産によるコスト・アドバンテージが発生した)であろうことも、この豪華な仕様を実現できる理由だろう。

高品位フィルムコンデンサ
無酸素(ODC)銅線・ マンガン亜鉛コアインダクタ

そして、本機のハイライトといっても過言ではないのが、新搭載された「パラレルBTL」だ。本機には4ch分のアンプ出力が搭載されているが、パラレルBTLではスピーカーケーブル1組を用いた通常接続で、4ch分のアンプをフルに使ってスピーカーを駆動できるのだ(技術的な詳細はニュース記事を参照)。これにより、通常駆動時と比べて約2倍のスピーカー駆動力を実現できるのである。

従来モデルでは、バイアンプ駆動で4chアンプをフル活用できるのは、バイワイヤリング対応のスピーカーを使うユーザーに限られていた。対してM-CR612では、シングルワイヤ仕様のスピーカーでも、4chアンプを使ったより協力な駆動が行えるようになったわけだ。

通常のBTL接続図
パラレルBTL接続図

このようにM-CR612は、前モデルから「小型・多機能・高音質」を継承しながら、さらなる音質と最新のユーザビリティを身にまとったのである。

■筆者の自宅で試聴を実施。オーディオ製品として上品な装い

試聴は自宅のリスニングルームで行った。今回はサウンドはもちろん、本機が実際どのように生活空間に溶け込んでくれるのかも確認したかったので、まずは自宅のいくつかのスペースに設置して試してみた。その後、2階の試聴室で本格的な試聴テストを行った。

使い勝手を試す土方氏

DALI「OBERON1」で通常再生をテスト

写真を見てもらうと、スピーカーと比較して、M-CR612がいかにコンパクトなのかわかるだろう。やや丸みを帯びたコンパクトなボディから、もう少し“かわいい”雰囲気をイメージしていたが、シャンパンゴールドのボディはオーディオ製品として上品な装いで、筆者宅のオーディオ環境に設置しても全く引けを取らない。また、白色の壁で冷たい部屋・暖かい雰囲気の部屋のどちらでもインテリア的にフィットしてくれる。

オーディオルームでも引けを取らないデザイン
リビングスペースに設置してみたが、インテリアに馴染んでくれる

セッティングをしていて気がついたことだが、スピーカーターミナルは金メッキされている価格以上のものが付いていたり、電源ケーブルは着脱可能なメガネ型を採用しているなど、細かい部分でも手の込んだ仕様になっている。こういうところからも、マランツがこのコンポーネントに本機で取り組んでいることが見て取れる。余談だが、M-CR612はブラックカラーもラインアップされているので、今回のようなブラックカラーのスピーカーと組み合わせれば、より高級感を演出することもできる。

カラーは、シルバーゴールドおよびブラックの2色をラインナップする

そして実際に使ってみて便利さを感じたのは、簡単に初期設定ができる「かんたん設定」機能が搭載されていること。フロントのディスプレイは3行表示で読みやすく、対話形式で初期設定ができる。ボタンひとつでWi-Fiルーターと接続設定できる「WPS」機能も備えるなど、幅広いユーザーの使いやすさが考えられていると感じた。製品がユーザーフレンドリーなのは何よりも嬉しいところだ。

■DALI「OBERON1」で通常再生をテスト

試聴では、最初にデンマークの人気スピーカーメーカー、DALI(ダリ)のエントリー・ブックシェルフモデル「OBERON1」と組み合わせ、標準設定のアンプ駆動モード「スタンダード」(それぞれのスピーカーにおいて、+/-で接続する一般的な接続方法)の設定で聴いた。

まずはCDをトレイに入れ、ムラヴィンスキーがレニングラード・フィルを指揮したクラシックの名盤「交響曲第6番 -悲愴-」を再生。第一印象は解像感の高い音だということ。オーケストラを構成する各楽器の分解能が高く、ヴァイオリンをはじめとする弦楽器のアコースティックな質感も秀逸に表現する。このクラスのアンプは、機器が備える音調が支配的になり、楽曲の表現をスポイルする時があるが(再生する楽曲がその音調にはまらないと、ひどいことになる)、M-CR612は全くそんなことはない。基本性能の高さを実感した。

DALI「OBERON1」で試聴を行う土方氏
DALI「OBERON1」で試聴を実施

次にNASのネットワーク再生を用いて、筆者が最近ジャズ・ボーカルのリファレンスにしている、ノラ・ジョーンズ「And Then There Was You」(96kHz/24bit FLAC)を試聴した。先ほどのムラヴィンスキーは録音年代も古いが、こちらは最新の録音ということで、高域から低域までのレンジも広く、イントロのピアノは透明感があり、聴感上のSN比が良く、ボーカルにはリアリティがある。明るい音色で聞きごたえも良好だ。スピーカーが安価な割に情報量も出ており、実売価格で10万円を切るであろう組み合わせとしてコストパフォーマンスの高さを感じる。

■DALI「OBERON1」でパラレルBLTをテスト

さて、OBERON1はシングルワイヤリング仕様のスピーカーシステムなので、バイアンプ駆動ができない。そこで活きるのが、今回から採用されたアンプ駆動モード「パラレル BTL」だ。モード変更は付属リモコンか本体のボタンを用い、「設定メニュー → オーディオ → スピーカー設定 → アンプモード」と進み、「標準」「バイアンプ」「パラレルBTL」から選ぶだけだ。

OBERON1の入力は1系統のみ。そこで活きるのが「パラレル BTL」だ

改めてノラ・ジョーンズを再生してみると、衝撃に近いほどの変化であった。ピアノを含む全体帯域の音の締まりが良くなり、音像のリアリティやサウンドステージの奥行き感さえ変わってくる。中でも低域の変化が特に大きく、一聴してベースの立ち上がりが早くなり力感が向上。締まりの良い音を聴かせてくれる。オーディオにおける低域再生のお手本のような音で、これをこのサイズのコンポーネントが実現しているのだから驚くほかない。

スピーカーのグレードを上げ、B&W;「707 S2」で試聴

■B&W;「707 S2」を通常→パラレルBLT→バイアンプの順でテスト

次にスピーカーのグレードをもう少しあげて、B&W;「707 S2」と組みわせた。まずアンプ駆動モード「スタンダード」で、USBメモリー内に保存した洋楽ポップス、チャーリー・プースの『Voicenotes』を聴く。本アルバムは、強力なベースが入っておりアンプの駆動力を確認するにはもってこいのタイトルだが、かなりのレベルでスピーカーを駆動しているように聴こえる。ベースのリアリティ、低域レンジの伸びの両方に優れ、押し出しの良い音が聴こえてくる。

B&W;「707 S2」で試聴を行う土方氏
B&W;「707 S2」で試聴を実施

そして次にアンプ駆動モードを「パラレルBTL」にして試聴したのだが、まず音像のリアリティが一変する。彫刻のように鋭い音像を伴いながら躍動感強く音楽を表現する。やはり、もっとも効果を感じるのは低域表現で、ベースが力強くなるのに、キレも増すという、よりオーディオファイルが好ましいと感じる音に変化する。総じて先ほどDALIで感じた以上の音質向上効果を感じたが、これは707 S2が備えるスピーカーとしての基本性能がより高く、パラレルBTLモードの音質的なアドバンテージをより表現したのだと推測できる。それにしても60Wという出力は変わらないのに、この駆動力向上は素晴らしいの一言だ。

さらに、707 S2は高域用と低域用にそれぞれ1組ずつスピーカー端子を備えているので、アンプモードを「バイアンプ」にしてバイアンプ駆動を試した。一聴してボーカルとバックミュージックのセパレーションが良好で、ボーカルの口元が小さくなった。いかにもユニットを正確に駆動しているような立ち上がりと立ち下がりの良い音である。

707 S2は4つの端子を搭載しているのでバイアンプ接続に対応する

躍動感を感じるパラレルBTLも素晴らしいが、バイワイヤリング対応の707 S2の場合、その仕様からしてバイアンプ駆動のほうが優位とは言えそうだ。しかし、バイアンプはスピーカーケーブル2組みを用いる必要がある。バイワイヤ対応スピーカーを使っているユーザーにとっても、ケーブル1組のシンプルな接続でバイアンプに匹敵する音を聴かせてくれるパラレルBTLを選ぶ意義があるはずだ。

■ディナウディオ「The Special Forty」でも試聴を実施

2機種のスピーカーをしっかりと駆動できたことに気を良くした筆者は、筆者宅の2F試聴室のリファレンススピーカー、ディナウディオ「Special Forty」(ペア45万円、シングルワイヤ仕様)をM-CR612で馴らすことも試してみた。ネットワーク再生で試聴した楽曲は、高音質レーベルのチャンネル・クラシックスからDSD楽曲ファイルで、オランダ王立海軍軍楽隊が演じるオーケストラ「Rimsky & Co Originals」(5.6MHz DSD)。ある程度の駆動力が要求される本スピーカーでは「さすがにしんどいかな」と予想したのだが、結論から書くと、その音は、価格を考えると拍手を送りたくなるものだった。

ディナウディオ「The Special Forty」で試聴を行う土方氏
ディナウディオ「The Special Forty」で試聴を実施

ノーマルモードではコントラバスをはじめとする低域の制動力がもう少し欲しいかなとも感じたが、パラレル BTLモードに変えた途端、全帯域の滲みが減少。本機の音色的な良さである適度な明るさと艶の良い音色が鳴り、かなり満足度の高いサウンドだった。スケール感のある音で楽器が同時に鳴っているときの描き分けにも長けており、サウンドステージに奥行きもある。つまりM-CR612は駆動力が要求されるスピーカーであっても、しっかりと鳴らすことができたのだ。価格を考えるとこれは凄いと思う。そして、最後はSpotify Connectでクイーンの「ボヘミアン・ラブソティ」を聴き、試聴は満足に終了した。

正常進化という枠を超えたレベル

■ “HEOS” 対応で操作性が大幅に向上

コントロールや再生に使用したHEOSアプリについても触れておきたい。試聴での操作感は非常に良好で、前世代のアプリ「Marantz Hi-Fi Remote」と比べても大幅にユーザビリティが向上している。トップ画面にソース切り替えが集約されるなど、基本的なUIも見やすくわかりやすい。

HEOSアプリの操作感は非常に良好

機器側にプレイリストを保持するのでアプリを閉じても操作が止まらないオンデバイスプレイリストや、ギャップレス再生に対応。さらにレスポンスも良い。Open Home対応でないと操作性が悪い、という前世代的な認識は改めた方が良いだろう。

M-CR612は、鮮度が高くスピード感のある音を基軸として、スピーカーの駆動力は価格を超えたものを感じる。驚くべきはパラレルBTL時の音質向上で、全帯域にわたって滲みが減少して、低域のキレと量感を両立する。スピーカー端子が1組しかないモデルでは当然バイアンプができないので、パラレルBTLは強力な武器になる。一方のバイアンプ駆動では、スピーカーユニットをより正確にピストンモーションさせたような、立ち上がり/立ち下がりの良い音を実感させられた。

それにしても恐ろしいコストパフォーマンスだが、売れる見込みがあるからこそ、この価格設定が実現できたのだろう。そして、従来モデルの成功で上がった期待値に対しては、大幅な音質のベースアップとパラレルBTLという強力な武器で応えた。HEOS対応などによる再生ソースの拡大とユーザビリティーの向上も実現してくれた。

「恐るべきコストパフォーマンス」と土方氏

前作のM-CR611を試した時も「このシリーズは世代を重ねて完成度が上がったな」と感じたが、M-CR612に至っては正常進化という枠を超えている。音楽が大好きだけど、オーディオシステムはシンプルでコンパクトにまとめたいという方にはうってつけだし、その音を聴いたら、耳の肥えたオーディオファイルも納得せざるを得ないだろう。

(土方久明)