調布市、小学校区単位で防災力高める 地域住民組織、4月に全小・中学校で訓練

2018年度に布田小学校で行われた訓練の様子(提供:調布市教育委員会)

きっかけは東日本大震災

人口約23万人、京王線で調布駅から新宿まで18分に位置する東京都調布市では、4月の第4土曜日を「調布市防災教育の日」として設定。市立小学校20校、中学校8校全てで、教職員や児童・生徒のみならず地域住民も一緒に防災訓練を行う。2018年度は3万933人が参加した。今年も27日に実施される、地域住民も巻き込んだ独自の取り組みについて取材した。

調布市が防災への取り組みを大きく変えたきっかけは、2011年3月11日の東日本大震災だった。京王線が止まり、帰宅困難者対応を迫られることとなった。当日の午後10時過ぎに運転再開はしたものの、調布駅周辺には人があふれ、市では急きょ近くの第一小学校を開放し受け入れ。つつじヶ丘駅近くの滝坂小学校や大規模都営住宅の中にある国領小学校でも近隣住民と帰宅困難者の受け入れを行った。

市教育委員会では、いざという時に避難所にもなる学校の重要性を鑑み、2011年10月には小・中学校の震災時対応シミュレーションを策定。現在は第3版に改定されている。多摩地域を震源とする震度7の地震が午前11時24分に起こる想定。児童への対応と避難所としての対応を分け、それぞれ教職員の役割分担や発災後から72時間とるべき行動を時系列として並べている。

写真を拡大 「防災教育の日」参加者は年々増加し2016年度以降3万人を超えている(出典:調布市教育委員会資料)

また、地域特性を考慮し、学校ごとに作成しており、学区内の昼間・夜間人口や一時収容・長期滞在の収容可能人数を記載している。児童対応については保護者が引き取りに来るまで教職員が責任を持って対応。避難所運営は最初に教職員が中心となり行うが、派遣される市職員や地域住民も協力。備蓄は各学校に約1000人を収容する前提でアルファ化米9900食などを防災備蓄倉庫に設置している。

しかし、「マニュアルを教育委員会で決めたものの、各学校でしっかり内容について訓練していく必要があると考えた」と語るのは市教育委員会教育部教育総務課庶務係長の廣田剛一氏。そこで震災の翌年である2012年度から全市立小・中学校の行事として「防災教育の日」を4月第4週の土曜日に設定した。

写真を拡大 「防災教育の日」の流れ(出典:調布市教育委員会資料)

共助考えるきっかけに

「防災教育の日」は単なる学校での防災訓練を行うだけではない。1校時(時間目)に「『命』の授業」と題した、防災に関する授業を実施。災害時にとるべき行動などを学ぶ。2校時は「保護者・地域への啓発講話」として、有識者や専門家を招いて保護者向けの講話を行う。招くのは防災の専門家や大災害の被災者やNPOの関係者のほか、東京消防庁の消防署員の場合もあり、地域の防災力向上に資する話を行うという。3校時は通常授業だが、この間に授業のない教職員や市から派遣された職員が、保護者や地域住民と連携して避難所開設や運営訓練を行う。

2018年度に第七中学校で行われた防災講話(提供:調布市教育委員会)

そして学校によって一部開始時間は異なるものの、シミュレーションの発災予想時刻である午前11時24分に防災無線が一斉に流れ、避難や避難所開設、保護者への児童・生徒引き渡しといったシミュレーションに基づいた訓練を行い、検証を行う。これまでは各校により内容は異なっていたが、2018年度から統一メニューとしてすべきことを一つ設定。2018年度はマンホールトイレ組み立て訓練を行った。市職員が主導し、児童・生徒や保護者、地域住民に説明を行いながら組み立てていったという。そのほか、炊き出しなど各行独自の取組が行われた。

2018年度は統一メニューとしてトイレの組み立てが行われた(写真は第三中学校、提供:調布市教育委員会)

この訓練には自治会のほか、「地区協議会」と呼ばれる、地域防災の充実をはじめ、様々な課題解決に取り組む地域のネットワーク組織なども参加する。避難所の開設・運営訓練や午後の各校独自メニューの実施に大きく貢献する。「地区協議会」は、概ね小学校の校区を単位に、自治会や消防団、PTA等をはじめ、学校長もメンバーとなり活動する。「調布市防災教育の日」への参加以外にも定期的な会合のほか、秋などに防災に関するイベントも行っている。発災時には日頃の訓練やつながりを生かして「自助・共助」の役割が期待される。1999年から組織化し、現在は全20小学校区中16の地区に設置されている。

学校は子どもを預かる場であるだけでなく、避難所として地域住民の安全の砦(とりで)としての役割も担う。そこにフォーカスし、マニュアルを作るのみでなく、実際そこにいる児童・生徒と教職員に加え保護者や地域住民も巻き込んだ仕組み作りや訓練を行う調布市の取り組みは、基礎自治体における共助を考えるきっかけを作り、盛り上げるものとしてとして注目される。

(了)

© 株式会社新建新聞社