2018年決算「役員報酬1億円以上開示企業」調査

 上場企業の2018年決算で1億円以上の役員報酬を開示したのは360社、人数は731人だった。社数、人数ともに最多記録を更新した。
 社数は前年(336社)を24社、人数は前年(630人)を101人上回った。2010年に始まった役員報酬の開示は、東日本大震災直後の2012年に初めて開示人数が前年を下回った。だが、その後は6年連続で人数は増加をたどり、2018年には初めて700人台に乗せた。
 2017年から2年連続で登場した504人のうち、役員報酬が増えたのは367人(構成比72.8%)で、初登場は227人だった。
 役員報酬の最高は、ソニーの平井一夫会長の27億1,300万円。基本報酬やストックオプションに加え、社長退任に伴う株式退職金11億8,200万円などがあった。
 最も開示人数が多かった企業は、三菱電機の22人(前年22人)で5年連続でトップを守った。
 役員報酬1億円以上の個別開示制度は、2010年3月期から開始された。2011年から8年連続で登場している役員は115人で、2018年(731人)の15.7%を占めた。
 2018年11月19日、日産自動車のカルロス ゴーン元会長が有価証券への役員報酬の虚偽記載などで東京地検に逮捕され、役員報酬のあり方が問われる契機にもなるかもしれない。

  • ※本調査は、全証券取引所の上場企業3,747社を対象に、2018年1月期から12月期の有価証券報告書から役員報酬1億円以上を個別開示した企業を集計した。上場区分は2019年4月19日現在。
  • ※2010年3月31日に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の改正」で、上場企業は2010年3月期決算から取締役(社外取締役を除く)、監査役(社外監査役を除く)など、役職別及び報酬等の種類別の総額、提出企業と連結子会社の役員としての連結報酬1億円以上を受けた役員情報の有価証券報告書への記載が義務付けられた。内閣府令改正は、上場企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する開示内容の充実を目的にしている。

役員報酬額トップ 平井一夫ソニー会長の27億1,300万円

 2018年の役員報酬の最高額は、ソニーの平井一夫会長の27億1,300万円。前年(9億1,400万円)の2.9倍に拡大した。同氏は業績不振だったソニーの社長に就任したが、業績を急回復させ2018年4月に社長を退任、会長に就いた。報酬内訳は基本報酬2億4,400万円、業績連動報酬6億4,700万円、株式退職金11億8,200万円など、すべてソニーからの役員報酬だった。
 2位はセブン&アイ・ホールディングスのジョセフ・マイケル・デピント取締役で24億300万円(前年18億9,500万円)。3位はソフトバンクグループのロナルド・フィッシャー副会長で20億1,500万円(同24億2,700万円)。4位は同じくソフトバンクグループのマルセロ・クラウレ副社長COOで13億8,200万円(前年開示なし)。5位はサンヨーハウジング名古屋の宮﨑宗市会長で12億7,800万円(同1億7,900万円)だった。
 毎年、株主総会で自身の報酬額を公開した日産自動車のカルロス ゴーン元会長は7億3,500万円(同10億9,800万円)で19位。ただ、同氏は2018年11月に有価証券報告書への役員報酬の虚偽記載(過少記載)などで東京地検に逮捕された。
 日本人役員は役員退職慰労金(引当金繰入額を含む)で多額の報酬を得るが、外国人役員は賞与など、業績連動の報酬やストックオプションなど非金銭報酬が目立つ。最近は退職慰労金制度を廃止する企業も多く、役員報酬は業績連動などの報酬体系に移行している。
 2011年以降、8年連続の登場は115人(構成比15.7%)。10億円以上は10人(前年8人)、2億円以上10億円未満は179人(前年146人)で、役員報酬の高額化が進んでいる。

役員報酬ランキング

企業別 最多は三菱電機で22人

 個別開示した360社のうち、開示人数の最多は、三菱電機の22人(前年22人)。2014年から5年連続(18→23→23→22→22人)で人数のトップを守った。
 2位は、日立製作所が18人で、前年の7人から11人増え、同社としては開示人数の最多を記録。
 以下、ファナック、東京エレクトロンが各10人、ソニー、大和ハウス工業、三菱UFJフィナンシャル・グループが各9人、大和証券グループ本社、三井物産、LIXILグループ、日本精工が各8人、バンダイナムコホールディングス、野村ホールディングス、三菱商事が各7人と、グローバル展開する電機メーカー、商社、金融が上位に顔を揃えた。
 開示人数別では、1人が201社(構成比55.8%、前年209社)で最も多い。以下、2人が90社(同25.0%、同71社)、3人が30社(同8.3%、同23社)と続く。複数の役員が1億円以上の役員報酬を受け取った企業は159社(構成比44.1%)で、前年127社(同37.7%)より6.4ポイントアップした。
 個別開示を行った360社のうち、2年連続で個別開示した企業は293社(構成比81.3%)。このうち、56社は前年より個別開示人数が増加し、減少は17社。同数は220社だった。
 8年連続で個別開示した企業は三菱電機、伊藤忠商事、ファナック、ソニーなど113社(構成比31.3%)、7年連続は9社だった。

 2010年3月期から役員報酬の個別開示がスタートし、9年目を迎えた。海外マーケットの好調を反映した電機メーカー、商社などを中心に、2018年は社数・人数とも過去最多を更新した。
 役員報酬は依然として基本報酬が中心だが、報酬額が大きな役員ほど、賞与や業績連動報酬など、業績反映型の報酬体系に移行している。さらに、ストックオプションや株式報酬など、非金銭報酬も増え、役員の責務は業績にとどまらず、企業価値の向上を同時に求められている。
 役員報酬の個別開示制度が始まった当初、「個人情報」を盾に反対論も多かった。だが、個別開示で、同業他社と役員報酬額などの比較が可能となり、株主や従業員などのステークホルダーへの説明責任と同時に、報酬額のベンチマークと評価されるようになった。
 ただ、2018年11月に日産自動車のカルロス ゴーン元会長が有価証券報告書への報酬額の過少記載などで東京地検に逮捕されると、役員報酬開示への信頼が根底から揺らいだ。前提となるコーポレートガバナンス(企業統治)、コンプライアンス(法令順守)の逸脱が、想定外だったからだ。だが、カルロス ゴーン元会長の事件を機に、改めて役員報酬の決め方や報酬額の妥当性など、ステークホルダーに果たすべき責任はより強くなっている。

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