上州のご長寿電車

中央前橋駅のホームから。正面の貫通扉は後年の改造によるもので、大きな窓が3枚並ぶ逆サイドとは印象がかなり異なる

 1928年生まれ、御年91歳になる電車が健在だ。群馬県の中央前橋~西桐生間25・4キロを結ぶローカル私鉄、上毛電気鉄道の「デハ101号」。同社の春のイベントが行われた4月21日、若葉が芽吹き始めた上州路で「ご長寿電車」の乗り味を堪能した。

 最近デビューした電車には、西武の特急「ラビュー」や東京メトロ丸ノ内線の2000系など、思わずほっこりする“丸顔”が多いが、デハ101はそれとは真逆の四角い顔だ。

 茶色一色のボディーは無骨そのもの。車内に一歩入ると、ニスの香りが鼻をくすぐる。床はもちろんのこと、天井と窓以外はほとんど木製で、まるで古民家のような雰囲気。モノトーンの車内に、ロングシートの座席の緑色が鮮やかだ。

 たまたま乗り合わせたらしい女性のグループは「うわあ、木じゃん! 面白い」とスマホで写真を撮りまくっていた。

 見た目のレトロ感もさることながら、鉄道ファンにとってこの老雄に乗車する最大の楽しみは、「吊り掛け式」という今では貴重な駆動方式から生まれる独特の走行音を体感することにある。

 文字で表現するのは非常に難しいが、発車すると足元や座席の背もたれから伝わる振動とともに「グウォォォォーーン」とうなるような音が聞こえてくる。床下のモーターの回転数が増し、スピードが上がるにつれて重低音が少しずつ高い音に変化していく。音量も徐々にアップし、最高潮に達すると車内での会話が難しいほどだった。

 デハ101は、上毛電鉄の開業に合わせて製造された「デハ100形」のトップナンバー。貨物列車の機関車の代わりとしても重宝されたため、改造や部品の交換を経ながら生き延びた。

(上)天井の半球形の照明(後付け)や懐かしい広告もレトロ感を出すのに一役買っている、(下)大胡車庫に戻ったデハ101に、大勢の撮り鉄がカメラを向けた

 今は定期運用には就いていないが、イベント時や貸し切り(1往復2時間半、10万円)で月に2回ほど運転されるという。畳を敷いたり、テーブルを入れることも可能で、結婚式もできるそうだ。

 この日の臨時運行は、まずはねぐらの大胡(おおご)車庫を午前10時前に出発して西桐生へ。そこから中央前橋~西桐生~中央前橋と走り、午後3時前にイベント会場にもなっている車庫に戻った。

 主力車両の700形(元京王井の頭線の3000系)よりも揺れが激しいのは否めないが、思った以上にスピードが出ていたのには正直驚いた。

 この古豪はあとどのくらい走れるのか。ベテランの職員さんに話をうかがうと「まだびんびん。若い者には負けないよ」と頼もしい答えが返ってきた。

 1928年は、元号で表すと昭和3年。同じ年に製造され、今でも動く電車に高松琴平電気鉄道(香川県)の5000形500号や、阪堺電軌軌道(大阪府)の路面電車モ161形がある。時代は令和に変わっても、変わらず元気に、1日でも長く走ってほしい。

 ☆藤戸浩一 共同通信社勤務 上毛電鉄を訪れたのは10年ぶりだが、これまでは撮影がメインでデハ101に乗車したのは初めて。沿線には多くの撮り鉄がいたが、有名撮影地の渡良瀬川橋梁のそばで急ブレーキがかかり、車掌が窓から「(線路に)近過ぎですよ!」と怒っていた。撮影マナーは守りましょう。

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