勝利ではなく、楽しくて仕方がない野球を 「安部球場『あそび場』開放2019春」開催

「安部球場『あそび場』開放2019春」が開催【写真:広尾晃】

早稲田大学野球部の安部球場を小学生と親に開放し「野球遊び」を体験

 4月20日、東京都西東京市の早稲田大学安部磯雄記念野球場で「安部球場『あそび場』開放2019春」がスタートした。この取り組みは「Hello! WASEDAプレイボール・プロジェクト~野球を『始めよう』『楽しもう』『学ぼう』~」の一環として2017年から行われている。

 リーグ戦中の空きの日程を利用し、早稲田大学野球部のホームグラウンドである早稲田大学安部磯雄記念野球場を小学生とその親に開放し「野球遊び」を体験してもらおうというものだ。コンセプトは「広い野球場で楽しくあそぼう」。朝9時、グラウンドにはティーボールのバットやグラブ、ボールが並べられ、やってきた親子連れがそれらを手に取って、グラウンドに散っていく。

 第1部は「自由あそび」

 親子や友達同士でバッティングやキャッチボールなどを楽しむもの。参加者は、ティーに載せたボールを打ったり、ボール投げを楽しんだり、思い思いに体を動かす。スタッフは、求められない限り、指示や指導は行わず、参加者の動きを眺めている。

 人の近くでバットを振り回すなど、危険な行為に対しては、気配りはするが、それ以外は遊びを見ているだけ。「プールの監視員」のような感覚で見守っている。早稲田大学安部磯雄記念野球場は、早稲田大学初代野球部長で、「野球の父」と言われる安部磯雄(1865-1949)を記念して命名された。神宮球場と同じ仕様で建設され、建設当初は人工芝も神宮と同じだった。その歴史を知るお父さんの中には、マウンドに立って感慨深い表情を見せる人もいた。

 参加者の野球経験はさまざまだ。速い球を投げあってキャッチボールをしている親子がいる。今日初めてバットやグラブを手にした子供もいる。小さな女の子も元気にバットを振り回している。好天に恵まれ、グラウンドのあちこちから歓声が聞こえてくる。

勝亦陽一東京農業大学准教授「子供たちに『野球の楽しさ』を体験してもらうのが目的」

 子どもたちの体がほぐれたころに、第2部の「野球あそび」が始まる。

 まずは「ならびっ子ベースボール」。守備側と攻撃側に分かれ、攻撃側はティーに置かれたボールを打って、一塁側に走りだす。守備側の全員がボールの近くに集まってアウトを宣するまでに、一塁線に置かれたパイロンを回って帰ってくることができれば点が入る。野球のルールを簡略化したものだ。

 最初はやや緊張気味だった子供も、ゲームを続けるうちにどんどん表情が明るくなってくる。打つ、走るという野球の楽しさを実感できる。このゲームへの参加は自由。キャッチボールやノックを続ける親子もいれば、スタッフからボールの投げ方、受け方の指導を受ける野球初体験の子供もいる。9時スタートだが、遅れてやってくるのもOK、途中で帰るのもOK。一切拘束せず、自由に「野球遊び」を楽しんでもらうのが目的だ。

「ならびっこベースボール」のあとは、ややルールが複雑な「ベースボール5」。内野に3つのベースが置かれ、走者はベースを回って帰ってくる。「ならびっこベースボール」を体験した子供たちは、すぐにルールを理解して遊び始める。2部に入ってもスタッフはルールの説明をするだけ。適宜水分補給を指示する以外は、ほとんど指示、指導をすることはない。子どもは思い思いにゲームを楽しんでいる。

「今の時代、野球を始めるのはハードルが高くなっています。『時間・空間・仲間』という野球をやるために必要な3つの『間』がないからです。そういう子供たちに『野球の楽しさ』を体験してもらうのが目的です。『勝利』ではなく『楽しくてしかたない』が子供の主体性と創造性を育むことにも繋がります」

 イベントの責任者で、早稲田大学野球部出身の勝亦陽一東京農業大学准教授は語る。

 11時、親子はアンケートを記入して、上気した顔でグラウンドを後にした。疲れさせることなく「もう少しやりたい」と思わせる程度で終了する。これも「野球好き」を作るポイントだ。中には1回目からほとんど皆勤の親子もいる。

「安部球場『あそび場』開放2019春」は、西東京市在住の小学生と保護者ならだれでも参加可能。春は、あと3回。4月28日、5月18日、6月2日にも開催される(雨天中止)。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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