進化するハドソンヤード

「Vessel」「The Shed」

©Yomitime Inc.

進化するハドソンヤード

文化・芸術への挑戦

都市の景観がこれほどドラマチックに変貌するとは! いや、新たな街の出現といってもいい。ハイラインの北の起点、10番街の西30丁目から33丁目にかけて広がる「ハドソンヤード」は、文字通りMTAの地下鉄操車場(レイルヤード)の上に建つ。超高層のマンションやオフィスビル、ブランド尽くしのショッピングモールからなり、中央広場にお目見えしたのが、賛否両論の巨大彫刻「Vessel(器や船の意)」である。

ヴェッセルの内部 Courtesy of Getty

イギリスのデザイナー、トーマス・ヘザウィックによるこのパブリックアートは、座りの悪いそのフォルムも表面のピカピカ感も、現代のバベルの塔を思わせる無謀な試みにして、200億円近いという総工費にも非難の声が集まっている。だが、154の階段で構成された迷路のごとき内部は、頂上まで登ることができる。3月半ばの公開以来ものすごい人気で、いつ、どこから撮っても写真写りがよく、はやニューヨークの観光名所となっている。

Thomas Heatherwick, Vessel, 2019. Photo by Manami Fujimori

一方、「昼は美術館、夜はシアター」というマルチなイベント会場として登場したのが、新種のアートセンター「The Shed」である。こちらもまた、建物自体がユニークだ。シェッドには、納屋、小屋のほか、蛇などの抜け殻の意味もあり、キルトのように膨らんだシルバー色の屋根は、瞬時に萎んで地面と接した巨大滑車によって移動可能。つまり、メインのシアター部分は野外プラザに早代わりというわけで、大勢の観客を集めるフェスティバルに利用される。

The Shed. Photo by Iwan Baan

設計は、この秋新装オープンのMo MAの増改築ほか、ハイラインのデザインでも定評のある「ディラー・スコフィディオ+レンフロ」で、開放的な空間やロビーの調度品のセンスも洒落ている。建物ばかりか、プログラム自体も斬新だ。ドイツの巨匠画家ゲルハルト・リヒターと70年代ミニマル音楽の雄スティーブ・ライッヒのコラボや、カナダの作家アン・カーソンの翻案によるマリリン・モンローとトロイのヘレンを巡る不思議なオペラ劇など。ソプラノ歌手ルネ・フレミングを配した二人芝居は、セリフ自体が詩の朗読のようなもの。

Ben Whishaw and Renée Fleming in Norma Jeane Baker of Troy, written by Anne Carson and directed by Katie Mitchell with music by Paul Clark. Photo by Stephanie Berger © 2019. Courtesy The Shed

また、開館記念の意味で、ニューヨーク拠点のアーティスト、トリシャ・ドナリーの大音響つき新作インスタレーションが無料公開されている。4階のこの会場からは、壮大なメインシアターが一望でき、ガラス越しに広がるリハーサル風景を眺めるのもおつなもの。5月にはビヨークの世界ツアーがここから始まるという。大物ばかりか、900人を超える応募の中から選ばれた新人作家によるアート展や、黒人活動家でラッパー、映画監督のブーツ・ライリーによるレクチャーなど、野心的かつ多彩なイベントが計画されている。

ハドソンヤードの再開発は、もともとは前ブルームバーグ市長時代に構想されたオリンピック招致の失敗による代替策として生まれたものだ。高層アパートや商業施設の建設は今後も続き、すべてが完成するのは2026年だという。11番街側にまだ残っている操車場もいずれは地下に潜り、まさに人工の街が拡大していく。それは富裕層のシンボルであると同時に、ニューヨーク自体のシンボルである芸術文化の挑戦の場でもあるのだろう。(藤森愛実)

Vessel
Hudson Yards Public Square & Gardens
■内部観覧:無料(チケット制)
www.hudsonyardsnewyork.com
アート展「Trisha Donnelly」
■5月30日(木)まで
■会場:The Shed:545 West 39th St.
www.theshed.org
※他、演目多数

よみタイム 2019年4月26日号掲載