【特集】「気候革命」に立ち上がった子どもたちが教えてくれるもの

By 佐々木田鶴

「気候のための学校ストライキ」と書かれたプラカードを持ち、若者らとデモ行進するグレタ・トゥンベリさん(手前中央)=2月、ブリュッセル(ロイター=共同)

 ふいに涙が溢れ、直に止まらなくなってしまった。そして、心の中で「ごめんね」「ごめんね」と繰り返した―。

  今年2月後半、ベルギーの首都・ブリュッセル。厳しい寒さにも関わらず、ベルギー国内やヨーロッパ各地から駆けつけた数え切れないほどの若者たちを前に、キーラ・ガントワさん(19)が拳を突き上げながら発した次の熱い言葉が心に深く刺さったのだ。

  「大人は経済が大事なんて言う。だけど、このツケは誰かが払わなきゃならないの? 私たち若者? 冗談じゃない!」

  キーラさんが言う「ツケ」とは何か。

  深刻化する気候変動問題だ。

  具体的には、地球温暖化による平均気温の上昇に加え、局地的な大雨・大雪に少雨など。そう、これら異常気象は筆者を含む〝大人たち〟が、この地球の持てるものを好きなだけ貪ってきた結果、引き起こされている。

  食い止めるチャンスはこれまでにもあった。しかしながら、手にしている快適さや豊かさを失う可能性があるという現実を前にすると、目をそらして先送りしてしまっていた。これらのことに対する後悔、何よりも若い彼らに対する申し訳なさが涙につながったのだ。

 

世界経済フォーラム年次総会の会場前で座り込むトゥンベリさん=1月25日、スイス・ダボス(ロイター=共同)

▼始まりはたった一人

 キーラさんを始めとする若者たちはなぜ、気候変動問題の解決を強く求めるようになったのか。

 全てのきっかけとなったのは、お下げ髪にあどけなさを残すスウェーデンの少女、グレタ・トゥンベリさん(16)。この日のデモにも参加していた。

 2018年夏、彼女は気候変動のさらなる悪化を食い止めるための緊急アクションを政治家らに求めて授業を欠席し、スウェーデンの議会前で座り込む「気候のための学校ストライキ(Strike for Climate)」をたった一人で始めた。その後、同年12月にポーランドで開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)や今年1月にスイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に、スウェーデンから電車に一昼夜揺られてやってきた彼女は、世界中から集まった政界・財界のリーダーたちを前に、彼ら〝大人たち〟の無策ぶりを指弾する迫力たっぷりのスピーチをしてみせた。

  その際に見せた、毅然と語る姿がインターネット上の動画サイトなどを介して、瞬く間に拡散。動画を見て触発された中高生を中心とした世界中の若者たちが賛同し、次々と行動を起こした。筆者の住むベルギーでも1月以降、毎週木曜ブリュッセルを始めとする各都市で中高生による学校ストとデモが現在に至るまで継続して実施されている。同調する小学生まで出てきているほどだ。

 

デモには小学生の姿も多く見られる=佐々木田鶴撮影

 そんな小学生の一人が、9歳のフランソワ君。自分が通う小学校の校庭で「僕らは地球より熱い! 僕らが大きくなる前に地球が解けてしまう」と叫びながら、全校生徒の4分の1に当たるおよそ100人でデモをしているという。

  「いつまでやるの?」。フランソワ君に聞いた。

  「政治を変えるまでだよ」。9歳とは思えぬほどしっかりとした口調でそう言い切った。

  彼らはなぜ、ここまで頼もしいのか。それは、彼らが深刻さを増す気候変動問題について突き詰めて考えた上で、行動に移しているからだ。それゆえ、批判を浴びせられたとしても簡単には動じない。実際のところ、彼らが学校に行かないことに対する批判は確かにある。しかし、ベルギーにおける運動をキーラさんとともにリードするアヌナ・デゥヴェーヴァーさん(17)はきっぱりと次のように反論する。

  「未来がなくなってしまうかもしれないのに、学校へ行けって? 今すぐ、『クライメート・レボリューション(気候革命)』を求めます!」

  そして、3月15日は記念すべき日になった。欧州だけでなく日本や米国など約150もの国々で共に立ち上がった若者たちが一斉にデモを行ったのだ。グレタさん一人だった抗議行動はわずか半年ほどで、人種や言語、文化、宗教といった違いを軽々と飛び越え、世界中で支持を拡大したことになる。

  その衝撃を受け、〝大人たち〟が変わりつつある。

  ベルギーでも初めは静かに見守っている感じだったが、次第にデモに賛同する大人が増えた。それだけでなく、興味を持った子どもや孫たちの背中を後押ししてもいるのだ。

 

孫と一緒にデモに参加した男性も=佐々木田鶴撮影

 ある小学生は学校を早退してデモに参加したという。大丈夫なのか? だが、横にいた母親は「この子がどうしても来たいというので」と笑顔。孫を連れて来る人もいる。「地球より、お金が大事?」。そう書かれたプラカードを持っていた幼い女の子たちはおじいちゃんと一緒だった。

 ベルギー西部の遠方の村からやってきたという小学生のグループを引率していたのは、何と校長。「生徒たちがデモに参加したいと言い出して。保護者の大半も賛同していますよ。学校に閉じこもって、算数がどれだけできるか、単語が正しく綴れるかに血眼になっても、今の社会問題は解決できないでしょう?」と話す。そこに通底するのは、小学生であっても社会参加することは良いことだという明解な論理だ。

  今、日本は大型連休中。緑がまぶしく、さわやかな季節でもある。行楽に行くなどして楽しむには絶好の時期だ。しかし、気候変動問題について、社会参加について、家族で、親子で、一人でじっくり話し合い、それぞれが考え、行動してみるのもよいのではないかと筆者は思う。(ブリュッセル在住ジャーナリスト、佐々木田鶴=共同通信特約)

国会前で地球温暖化の深刻さを訴える小出愛菜さん(中央)=2月

© 一般社団法人共同通信社