ジャガー I-PACE試乗|ブランド初のバッテリー電気自動車(BEV)。その実力はいかに!?

ジャガー 新型I-Pace

テスラ追撃の準備は整った!

国内でも昨年9月に発表され、受注も開始していたジャガー初のバッテリー電気自動車(BEV)、I-PACE(アイ ペイス)の国内試乗が遂に実現した。プレミアムカーメーカーが作ると一体どんなBEVが出来上がるのか、ジャガーらしさはちゃんと感じられるのか等々、注目ポイントは多数の1台。興味は募る。

エンジンがないピュアEVだからこそのスタイリング

ジャガー 新型I-Pace

I-PACEでまず触れたいのは、その独創的なスタイリングだ。ボンネットが短く、ロングルーフのハッチバックで、しかも背が高く大径タイヤを履くプロポーションは独特。一応、SUVという括りには入るとは言え、低いルーフラインなどによって機能性重視のSUVとはまた違ったテイストが表現されているなど、個性が際立っている。 エンジンが無いぶんキャビンが前進して、フロア下にバッテリーを搭載するから背が高くなる。そうした意味では必然によって生まれたフォルムとは言え、最初は違和感、あるいは異物感のようなものを覚えたのは事実だ。しかしながら、見れば見るほど気に入ってきて、気づけばその斬新さに虜になってしまった。きっと実物を見れば、多くの人がそうなるに違いない。

ジャガー 新型I-Pace
ジャガー 新型I-Pace

このキャビンフォワードフォルムは先進感だけでなく優れたパッケージングにも繋がっている。全長は4695mmとF-PACEより短い一方で、ホイールベースは2990mmと長大だから、室内空間の余裕はひとクラス上のモデルにも匹敵するほど。後席レッグルームは890mmも確保されているし、荷室も後席使用時656リッター、最大で1453リッターという大容量を誇る。また、センタートンネルが無いフラットフロアを活かした左右フロントシートの間の容量10.5リッターのストレージコンパートメント、タブレットやラップトップなどを置けるリアシート下スペース、更にはフロントのフード下の27リッターのスペースと、至るところに収納が用意されているのも有り難い。

先進性を強く感じるインテリアデザインやユーザーエクスペリエンス

ジャガー 新型I-Pace

デザインの面でもインテリアは先進性を強くアピールしている。メーターパネルはフルデジタル12.3インチのインタラクティブドライバーディスプレイとされ、更にセンターコンソールには10インチと5インチのデュアルタッチスクリーンが備わる。おかげでマルチメディアのコントロール、空調の操作など、あらゆる場面で使い勝手に優れるだけでなく新しいモノに触れている歓びがあるのが嬉しい。

面白いのはAIを採り入れたスマート・セッティング。リモートキーとスマートフォンのBluetoothを使ってドライバーを認識し、好みのシート位置、インフォテインメント情報などを自動的に導き出す。ナビゲーションシステムもEV専用で、目的地までの地形のみならずドライバーの走行履歴や運転スタイルまで考慮した上で、航続距離やバッテリー残量を算出するという。もちろん充電スポット情報や、それを経由してのルート案内、要充電時の警告といった機能も盛り込まれているから、BEVを安心して使うことに大いに貢献してくれるだろう。

また、インフォテインメントシステム、テレマティクスユニット、そしてバッテリーコントロールモジュールは車載通信機を使って随時、ワイヤレスアップデートが行なわれる。これもまたジャガー初。I-PACEは単にBEVだというだけでなく、ドライバーとクルマの関係も最先端が目指されているのである。

ツインモーターが発生する400PSの威力は!?

ジャガー 新型I-Pace

では走りはどうか。I-PACEのボディは全体の94%をアルミ製としたモノコックで、ねじり剛性値は3万6000Nm/deg.とF-TYPE並みの数値を実現している。空力性能も優秀。フロントバンパー開口部内の自動開閉されるフラップ、格納式フラッシュドアハンドルの採用などもあり、Cd値は0.29を実現している。

電気モーターは前後アクスルに各1基ずつが搭載され、合計で最高出力400ps、最大トルク696Nmを発生する。大容量90kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載するため車重は2.2トンを超えるが、0-100km/h加速は4.8秒という俊足ぶりを見せる。

ジャガー I-PACE

しかも、このバッテリーはホイールベース間のフロア部分に敷き詰められているため、重心高は非常に低く抑えられ、また前後ほぼ50:50の良好な重量配分も可能としている。サスペンションはフロントがFタイプ譲りのダブルウィッシュボーンに、リアがF-PACE由来のインテグラルリンク式で、オプションとしてエアサスペンションも装着可能である。

その走りで鮮烈なのは、月並みだがやはりその滑らかさ、そして力強さだ。電気モーターはアクセルオンで即座にトルクをもたらし、騒音も振動も極小。しかもギアボックスによる変速も無いから、どこでも、どこまでも思いのままの加速を味わえる。

モーター音も変更可能。回生ブレーキの調節でシングルペダルドライブも

ジャガー 新型I-Pace

もし物足りないと感じる人のためには、電気モーター音を強調した電子音をプラスできるアクティブサウンドデザインも用意されている。正直、ギミックっぽいなとも思っていたのだが、使ってみると加速感とうまくハーモナイズされていて案外悪くなかったと報告しておこう。

減速はブレーキペダルを踏み込めば、回生ブレーキと機械式ブレーキが自動的に制御され、スムーズに停まれる。とは言えタッチはもう一歩だから、特に市街地などでは、回生ブレーキの効きを2段階のうち強い方に設定して、シングルペダルドライブで走らせた方が良さそうだ。

ジャガーらしいハンドリングのよさは健在

ジャガー 新型I-Pace

そして何より感心させられたのがハンドリング性能である。その走りは、まさにジャガー。操舵に対して小気味良く反応してよく曲がるというだけでなく、すべての挙動の繋がりが滑らかで、とてもコントローラブルなのだ。クルマの重さを忘れられるわけではないけれど、それがどうしたと言わんばかりのハンドリングカーぶりにには大いに唸らされてしまった。

ノーマルサスペンションの20インチタイヤ付きと、エアサスペンションの20インチと22インチという様々な仕様を試したが、個人的にはノーマル+20インチでも十分満足できた。一方、もっとも洗練された、あるいは外観通りの先進感が味わえるのは、エアサスペンション+22インチ。予算と好みで選ぶといいだろう。

BEVということで気になるのは航続距離と充電所要時間だ。I-PACEはWLTCモードの数値で、満充電の状態から438kmの走行が可能。200Vの普通充電では約10時間で満充電となり、50kWのCHAdeMO急速充電を使えば0%から80%まで充電するのに約85分となる。実際、1時間充電すれば、ざっと270kmほどの走行が可能だという。

内燃エンジン車とまるで同じように使えるとは言わないが、しかし不便はずいぶん減ってきている。しかもデザイン、パッケージング、各種の先進機能に走りと、BEVならではのメリット、特徴がフルに活かされているから、きっとI-PACEとの生活は多少のデメリットなど吹き飛ばしてくれるのではないかという印象を得た。プレミアムカーメーカーが作ると、ジャガーが作ると、BEVはこうなる。その力量を見せつける会心の1台の登場だ。

[筆者:島下 泰久/撮影:佐藤 正巳]

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