象徴としての30年

 「忘れてはならない四つの日」を心に刻み、その日が巡ってくると天皇、皇后両陛下は必ず黙とうしているという。終戦の日、広島、長崎の原爆の日、6月23日の沖縄慰霊の日と「四つの日」はどれも戦争に関わる▲国内外で戦争犠牲者を悼む旅を重ね、「戦後50年慰霊の旅」の最初の地として長崎市を訪ねられた。今年2月、在位30年記念式典で天皇陛下は「近現代において初めて戦争を経験せぬ時代を持ちました」と平成を振り返っている。深い安堵(あんど)感から発せられたお言葉だろう▲平成はまた「予想せぬ困難に直面した時代でもありました」と式典のお言葉は続き、「困難」として多くの自然災害を挙げた▲1991(平成3)年の夏、両陛下は雲仙・普賢岳災害の被災地、島原半島の避難所を訪ね、床に膝をついて被災者に言葉を掛けられた。その姿は平成という時代をよく表しているように思える。災害に苦しめられ、慰めと励ましが広がり、両陛下が国民と同じ目線で言葉を交わす。平成とはそういう時代だった▲人々に寄り添い、象徴天皇の務めとは何かを陛下が行動で示し続けた平成の世は、きょうを含めてあと3日となった▲長崎で被爆者に優しく声を掛ける姿と、避難所での腕まくりのワイシャツ姿と。「象徴としての30年」の終わりに思い浮かべる。

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