V長崎の練習場 大村市の工業団地案断念 気になる長崎市の動向 育成型目指すクラブ 施設は「将来の土台」

V長崎が大村市新工業団地に考えていた計画のイメージ図

 現在、リーグ戦4試合負けなしと調子を上げてきたサッカーJ2のV・ファーレン長崎。順位も気になるところだが、もう一つ注目されているのが練習場の移設計画だ。誘致に積極的だった大村市が4月5日、新工業団地(雄ケ原町)での整備断念を発表。計画は振り出しに戻った。二転三転している計画の行方は-。
 
 ■公募に唯一

 V長崎の親会社ジャパネットホールディングス(佐世保市)が昨年12月に発表したのは、選手たちが日々使用する練習場を現在の諫早市から長崎県内のどこかへ移転するという計画。練習場には複数面のサッカーコートやクラブハウスのほか、選手寮やファンスペースを整備。プロ選手に限らず、U-18やU-15の下部組織に所属する子どもたちも共同利用できるようにして、V長崎を育成型の強豪クラブにしようという意図がある。

 自社だけで広大な施設を整備、運営するには用地確保やコストの面で負担が大きいとして、クラブは協力してもらえる自治体を公募。大村市が唯一、手を挙げた。

 大村市が当初、適地として提案したのは大村市総合運動公園(黒丸町)。段階的に拡張している公園内の一画をサッカー場に充てようとした。だが、この用地はまだ確保できておらず、完成までに数年間を要する。これに難色を示したクラブは、完成間近だった新工業団地に目をつけて逆提案した。

 この新工業団地はそもそも、企業誘致を目的に公金で造成された場所。サッカー場を誘致できるかが焦点だった。そこでクラブはテレビスタジオやコールセンターなど、親会社の機能も含めて整備する経済効果に配慮した内容に変更したが、大村市は元々の目的を重視して「工業団地への誘致に適さない」と判断した。
 
 ■二重の痛手

 V長崎の現在の拠点は諫早市が管理している諫早市サッカー場(多良見町)。天然芝コートと人工芝ミニコート各1面、クラブハウスを備えている。

 クラブは今回の移設計画を発表する前、諫早市に増設を要望。隣接するなごみの里運動公園の全面をサッカー場にリニューアルしてほしいという内容だった。だが、公園はソフトボールなど他競技も頻繁に利用している。諫早市は「1面分の増設と選手寮建設の土地提供であれば協力する」と回答。クラブも一度は承諾したが、育成が盛んな欧州の強豪クラブの視察を経て再度方針を変え、移転を決断した。

 V長崎の拠点を巡っては、ホームスタジアムも現在のトランスコスモススタジアム長崎から2023年をめどに長崎市へ移ることが決まっている。スタジアムに続く練習場の移転は諫早市にとって二重の痛手。選手やスタッフの転居も予想される。
 
 ■当面は静観

 では、今後、計画はどうなるのか。クラブは「またゼロベースで考える」としているが、利便性などを考えると、候補地は限られてくるだろう。

 新工業団地での計画が破談になった大村市は「新たな提案をさせていただく」(園田裕史市長)と誘致を諦めておらず、代替候補地を近く提案する方針という。

 気になるのが、数年後にホームスタジアムが移転してくる予定の長崎市の動向。田上富久市長は21日投開票された長崎市長選で、公約の一つに「スタジア ムシティの積極支援」を掲げていた。選手の移動などを考えれば有力候補とも言えるが、長崎市のスポーツ振興課は「V長崎から何らかの話はない。大村の計画を見守っている」と静観中だ。諫早市の担当者も「練習場を整備するという議論はない。ただ、現在の支援は維持する」と話すにとどめている。

 ジャパネットの髙田旭人社長は4月初旬、長崎新聞の取材に対し、練習場を整備する意義を改めて強調していた。

 「サッカーチームはどうしても魅力的に強くないと、サポーターがついてこない。その方法は神戸のようにいい選手を獲得するか、育成からチームづくりするかの2択で、われわれは完全に後者。子どもたちを育てながら、長崎を盛り上げる将来の土台を築きたい」

 クラブと自治体に加えて、地元住民が納得できる計画、内容にできるかが、実現への鍵と言えそうだ。

練習場整備にむけたジャパネットホールディングスの動き
V長崎の現在の練習場となごみの里運動公園。赤囲みの部分は増設を検討していた場所(諫早市ホームページより)

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