もはや歴史の教科書上の人物のようになってしまって、長らく目にすることがなかったが、これはすごい。やっぱりすごい、三波春夫先生。先生と呼ばれる歌手が今、何人いるだろうか。その名に恥じることのない、ピシリとアイロンのかかったような、磨き上げられた芸。揺らぐことのない堂々たるステージ映像の数々に、襟を正したい気持ちになった。
生誕95年を記念し、しかも命日企画として(!)リリースされた本作。現存する数少ないステージ映像のなかから、三波春夫の真骨頂ともいえる長編歌謡浪曲と台詞入り歌謡曲合計13曲を収録した貴重な一本だ。一作一作に耳を傾けていると、そうか歌とは、歴史の語り部であり繋ぎ手でもあったのだということがわかる。歌い、うなり、語り、立ち上がるのはいつか見た気がする遠い日本の風景だ。これをBGMにドライブに出かけたら、車窓からの光景が確実に違って見えるだろう。
(テイチクエンタテインメント・3241円+税)=玉木美企子