オードリー・ヘプバーンの“声”を長年担当してきた池田昌子が感じた“演じることへの重圧”

オードリー・ヘプバーンの“声”を長年担当してきた池田昌子が感じた“演じることへの重圧”

オードリー・ヘプバーンとの出会いは私の一生の宝物です

私は「ローマの休日」(1953)以降のほとんどの作品で、オードリー・ヘプバーンの吹き替えを担当させていただいたのですけれど、確か最初にオファーをいただいたのは「許されざる者」(60)という西部劇だったと思います。実は、オードリーという女優さんを初めて意識したのもこの時。“なんてすてきな女優さんなのだろう!”というのが第一印象でしたね。単に奇麗でかわいらしいというだけじゃない、かといって個性的というのもまたちょっと違う。ほかに代わりがいないというか、唯一無二の輝きみたいなものを持っていらっしゃるんです。だからこそ、私なんかが日本語で声を入れて本当にいいものなのかと怖くなりましたし、その場から逃げ出したくなるくらいのプレッシャーを感じたことをよく覚えていますね。

それからこんなに長い間、オードリーの声を担当させていただくとは思ってもみませんでした。でも、振り返ってみれば声優としてこれほど幸せなことはないですね。その代わり、毎回重圧に押しつぶされそうになりましたけれど(笑)。彼女の魅力って、よく“妖精のような美しさ”と形容されますけれど、私は豊かな表情も魅力だと思うんですよ。例えば笑顔一つにしても、決してお芝居に見えない。そこには演技力だけでは決して表現することのできない、まるで彼女自身の内面から湧き出てくるような何かがあるんですね。しかも上品で優しげでチャーミングで。若い世代も含めて、いまでも世界中の多くの方々から愛されているのも当然だと思います。だって、彼女のような女優さんはもう二度と出てきていませんもの。

もちろん、お芝居もずば抜けてうまいんですよ。見る側に演技を演技だと感じさせないテクニックを持っていらっしゃる。どこまでが演技なのか、それともずっと地のままなのかよく分からない。役柄と本人がピッタリと重なるんです。ただ、オードリーの声を長年当ててきて気付いたのですけれど、やはり彼女なりの演技スタイルというのがあるんですね。それは言葉にするのは難しいので、とてもじゃないけれど私にはまねができない(笑)。どう考えたって手も足も出ませんから。なので、彼女が演じるその“役”の気持ちをしっかり受け止めて表現する。それだけに心血を注ぎ込んで、なんとか頑張って演じてきたつもりです。

彼女の出演作というのは、実はほかの女優さんと比べると意外に少なくて、だからこそ、その一つ一つに全力投球をされていたように思います。どの作品にも、そこでしか見られない表情やしぐさがあって、そのどれもが素晴らしく魅力的なんですよね。しかも、同じような映画にはあまり出ない。おそらく出演作を厳選されていたのだと思います。駄作がありませんもの。個人的に一番思い入れが深いのは「ローマの休日」。この世のものとは思えない美しさって、まさにこの映画のオードリーのことだと思います。本当に声優として、彼女との出会いは一生の宝物だなとつくづく感じています。

【プロフィール】


池田昌子(いけだ まさこ)
1939年1月1日生まれ。東京都出身。山羊座。A型。声優、女優、ナレーター。主な出演に、アニメ「エースをねらえ!」シリーズ(73・78・79)のお蝶夫人役、アニメ「銀河鉄道999」シリーズ(78~82)のメーテル役など、そのほかにも海外ドラマ、映画でも多数の作品に参加し、オードリー・ヘプバーンのほかメリル・ストリープの吹き替えでも有名。

【作品情報】


「おしゃれ泥棒」
5月11日(土) 午後9:00~11:15ほか(字幕)

「おしゃれ泥棒2」
5月18日(土) 午後9:00~11:00ほか(字幕)

「オールウェイズ」
5月25日(土) 午後9:00~11:15ほか(字幕)

撮影/蓮尾美智子 取材・文/なかざわひでゆき

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