ロッテ・レアード、ハム有原…セイバー目線で選出する3、4月の月間MVP【パ編】

日本ハム・有原航平(左)とロッテのブランドン・レアード【写真:石川加奈子、荒川祐史】

「平成最後」の月間MVP、レアードがセイバーメトリクス的に優れていた点は…

 ペナントレースは始まったばかりですが、パ・リーグの「平成最後」の月間MVPの選出をセイバーメトリクスの指標で試みます。スタートダッシュに成功した選手をデータで探り出してみましょう。

 月間MVPの選出基準ですが、打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されたりしますが、基本はNPB公式記録が用いられます。ただ打点や勝利数といった公式記録はセイバーメトリクスでは、個人の能力を如実に反映する指標と扱わないので、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式のMVPとは異なる選手が選ばれることもあることでしょう。

 そこで、セイバーメトリクスの指標によって3、4月の月間MVP選出を試みます。

◯3、4月の月間MVP パ・リーグ打者部門
レアード(ロッテ)
OPS 1.106 wOBA .488(リーグ1位)     
RC27 11.01  出塁率 .436 長打率 .670(リーグ2位) 

 候補選手は8人ですが、その中でも有力なのが以下の3人です。

森友哉 打率.369 本塁打3 打点23 得点圏打率.464
レアード 打率.352 本塁打8 打点19 得点圏打率.333
山川穂高 打率.271 本塁打11 打点31 得点圏打率.323

 4月21日時点でNPBが発表した「大樹生命月間MVP賞」候補者の中に山川の名前はありません。4月23日以降に4本塁打を放つなど追い上げを見せ、候補の一角となりました。なお25試合時点で11本塁打31打点は、単純計算でいえば、143試合換算で63本塁打177打点とどちらもシーズン記録を更新するペースです。このインパクトが審査員に響けば公式の月間MVPの最有力候補となり得るでしょう。

 ではセイバーメトリクスの指標によって評価するとどうなるでしょうか。

レアード OPS 1.106 wOBA .488 RC27 11.01
森友哉 OPS 1.061 wOBA .465 RC27 11.10
山川穂高 OPS 1.084 wOBA .465 RC27 9.57

 出塁率と長打率を足して評価するOPS、各プレーの得点価値を累積して算出するwOBA、選手の得点創出能力を測るRC27といったセイバーメトリクスの指標で比較すると、森とレアードが僅差という評価になります。今回はわずかではありますが、勝利確率を上昇させた分の差によってレアードを3、4月の月間MVPに推挙いたします。

 ちなみに、レアードの開幕からの打率が.352とこれまで打率ランキング下位の常連だったイメージからかけ離れた打率を残しています。分析してみますと、ボール球に手を出してしまう確率が昨年まで30%を超えていたのですが、今季は20%程度と大きく減少しています。ロッテに入ってからじっくりとボール球を選別してシュアなバッティングを心がけているかのようです。ホームランラグーンができたZOZOマリンスタジアムが本拠地になったことによる心の余裕も寄与しているのでしょうか。

有原は先発投手としては圧巻の内容、セイバーの観点からもMVPにふさわしい

◯3、4月月間MVP パ・リーグ投手部門
有原航平(日本ハム)
登板5 4勝0敗  
防御率 0.51 WHIP 0.60 QS率 100% FIP 1.92 K/BB 8.75(リーグ1位)
被打率 .145  奪三振率 9.00  
 
 4月21日時点での「大樹生命月間MVP賞」候補選手は9人ですが、有力候補と目されるのは以下の3人。

有原航平 4勝0敗 防御率 0.51 奪三振率 9.00 被打率 .168
山本由伸 1勝1敗 防御率 1.45 奪三振率 8.13 被打率 .102
甲斐野央 1勝10H 防御率 0.00 奪三振率 13.89 被打率 .083

 4月21日時点では候補に入ってませんでしたが、ルーキー初登板から12試合連続で無失点を継続している甲斐野も有力なMVP候補となり得るでしょう。しかし、規定投球回を超え、防御率、勝利数ともにトップの有原がNPB公式のMVP最有力候補と予想します。

 ではセイバーメトリクスの視点での評価を見てみましょう。

有原航平 WHIP 0.60 K/BB 8.75 FIP 1.92 RSAA 9.29 QS率100%
山本由伸 WHIP 0.65 K/BB 2.80 FIP 2.28 RSAA 6.98 QS率 75%
甲斐野央  WHIP 0.77 K/BB 3.00 FIP 1.83 RSAA 3.21  

 有原は先発5試合、35イニングで許したランナーが22、失点3と先発投手としては圧巻の内容で、日曜日のファイターズの試合を演出しています。QSもすべての試合で達成し4勝をマーク。RSAA(Runs Saved Above Average)という、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標

(リーグ平均FIP-選手個人のFIP)×投球回数/9

においても、リーグ1位の数値を示しています。
セイバーの観点からも今月のMVPにふさわしい成績を残しました。

 山本由伸もそれに匹敵する素晴らしい数値を残しているのですが、勝利数はわずか1。今季初登板となった4月3日は9回投げて無失点と完封に相当する好投を見せたのですが、味方の援護が全くなく結局この試合は0-0で引き分けとなりました。山本への援護率0.55は気の毒としか言いようがないのですが、その山本と2度対戦しているのがホークスの大竹耕太郎です。

 大竹の4月の成績は4試合に先発し

防御率 0.89 WHIP 0.86 K/BB 5.00 FIP 2.63 RSAA 5.67

 と、こちらもかなり優秀な成績を収めているのですが、援護率が0.56と援護に恵まれず、4月までの勝ち星は0。4月3日の試合はその山本と大竹の投げ合いでした。優秀な両者がぶつかり合ったことによって壮絶な投手戦が繰り広げられ、どちらにも勝ち星がつかないという結果に終わったのです。

WHIP: 1イニングあたりに許したランナーの平均数
K/BB: 奪三振数/与四球
FIP:被本塁打、与四死球、奪三振のみで投手能力を評価する指標
QS率:全先発登板におけるQS(クオリティスタート)の割合(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、様々なスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、アイドル業界にも精通し、テレビ・ラジオ番組への出演、データ監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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