ドミニカ野球から得る日本野球指導者への“提言”とは「最高のプレーを引き出すこと」

サント・ドミンゴにあるプログラムチームとの集合写真【写真:波戸謙太、山本祥平】

MLB球団との契約を勝ち取るのがすべて「家族を支援するため」

 中南米の各国・地域に対日理解の促進を図り、日本の外交姿勢や魅力等について発信をするため「Juntos!! 中南米対日理解促進プログラム」を外務省が企画した。今回は、スポーツ交流を通じて日本とドミニカ共和国の外交関係を一層強化させることを目的とした派遣事業が行われた。

 派遣メンバーとして、赤羽孝太、土井梢平(流通経済大学)、大久保友喜、坂本涼(東京国際大学)、加瀬良輔、今井将大(新潟医療福祉大学)、森海斗(平成国際大学)、山本祥平(筑波大学)、波戸謙太(筑波大学大学院)の9名が現地へ派遣された。今回の派遣事業で垣間見たドミニカ共和国の野球文化をレポートする。

 ドミニカ共和国の中南部にあるサンクリストバル州カルロス・ピントスと呼ばれる小さな村のグラウンドに訪れた。日本人からすれば、グラウンドにも満たない地域の公園のようなグランドだ。しかし、このグラウンドから5人のメジャーリーガーが生まれている事実。さらに、現在信濃グランセローズで投手としてプレーするルイジン・ギジェンド投手やロニー・アゼベド投手もこの村の出身だ。ギジェンド投手の練習視察が目的だったが、13歳から17歳の10名程の選手が練習をしていた。普段見ない日本人を物珍しそうに見ている。それほど、日本人観光客が来ないような農村部である。

 そこで、彼らに「何のために野球をしているの?」と質問をぶつけてみる。すると「経済的に抜け出すため、家族を支援するため」と全ての少年がそう応えた。日本の独立リーグでプレーをするギジェンド投手に対しても「彼はこの村でも成功例さ」と答えた。

 お金を稼ぐために野球を選択するドミニカ人。日本で野球をプレーする子ども達とは置かれた状況、野球を選んだ状況が全く違う。だからこそ、彼らは目先の勝利に貪欲になることもなければ、大会で勝つことが目的でもない。MLB球団との契約を勝ち取るために野球をしているのだ。

ドミニカから日本の野球指導者への提言「大リーガーもエラーする。次のプレーで最高のプレーを」

 首都サント・ドミンゴ内のプログラムの練習視察した。その際、何度も何度もエラーをする選手に遭遇する。日本の指導者であれば怒号が響いているだろう。しかし、ドミニカの指導者は、その選手に対して「大丈夫、次はできるさ!」と前向きな声を何度もかけていた。

 その理由を聞くと、ドミニカの指導者は「選手だけでなく、指導者も共に目指す場所は教えている彼らをメジャーリーガーになるように育てることだからだよ!」と回答。さらに「だからこそ今彼らにとって大切なのはミスをしないことではなく、その選手の最高のプレーを引き出してあげること!」と続けた。選手自身も平然と「メジャーリーガーもエラーするし、次のプレーで最高のプレーをするだけ!」と話した。

 ドミニカでは、指導者が選手をリスペクトするのは当たり前。指導する際は選手の立場に目線を下りていた。だからこそ、日本で起こる指導者のハラスメント問題は一切起こらない。ドミニカの指導者に日本で起こるこの問題をぶつけると、「クレイジー! あんなに野球の強い日本にそんな問題があったなんて残念だ」と声を落とした。

 ただ、ドミニカでも野球をする上で規律を守ることを重要視している。練習は必ず神への祈りから始まり神への祈りで終わる。技術指導だけに留まらず教育的な視点からの指導も怠らない。野球指導は教育的視点と技術指導が表裏一体であり、それらのバランスをどのように保つのか。日本の指導者へのメッセージとして受け取った。(波戸謙太/Kenta Hato、山本祥平/Shohei Yamamoto)

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