憧れの未来を

 ジェットフォイルがその一つで、船腹の下に翼のような物が付いた船を「水中翼船」と言う。1962年生まれの歌人、穂村弘さんは子どもの頃、これを〈水陸空を自由に移動できる夢の乗り物〉と思い、憧れていたという▲これ一台あれば、海を渡り、陸を駆け、空を飛ぶのも自由自在-と、そんな乗り物が普及する時代がやがて来る。ほぼ同じ世代の筆者も同じような空想をしていたが、現実はそうなっていない▲〈私のイメージは間違っていたらしい〉と、穂村さんは昨年出した歌集「水中翼船炎上中」のあとがきに書いている。思い描いたままの未来ではなくとも〈今も、水中で、陸上で、空中で〉〈夢が燃えつづけている〉▲水中翼船に憧れた時代から半世紀たつ。いま、どんな未来が思い描かれているだろうか。きょうは「こどもの日」、令和の時代に少年少女たちは育っていく。想像通りになるかどうかはともかく、胸躍るような未来図を▲家族旅行でみんなが初めて目にしたのだろう。穂村さんは先の歌集で懐かしい子どもの頃を詠んでいる。〈食堂車の窓いっぱいの富士山に驚くお父さん、お母さん、僕〉▲長い連休も終わりが近い。遠出をして楽しい時を過ごしたご家族も多いだろう。マイカーの、列車の、バスの車窓に映った子ども時代を忘れまい。(徹)

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