大涌谷、火山活発化4年 対策進むも規制なお

噴気が立ち上る中、観光客でにぎわう大涌谷駅前。ガス対策が欠かせない状況が続いている=4月18日

 県内唯一の活火山、箱根山(箱根町)で火山活動が活発化してから4年が経過した。火口が形成された大涌谷では、噴石対策となるシェルターの整備や箱根ロープウェイの駅舎拡張などが行われ、この1年で施設面の避難対策は大きく進んだ。しかし、一帯は火山ガスの濃度が安全なレベルにまで低下しておらず、散策コースのあるエリアの規制解除はなおも見通せない。

 「火山活動の影響で長期運休を余儀なくされ、人命第一でどう対応するかを検討してきた」

 駅舎を広げ、展望コンコースを整備した箱根ロープウェイの大涌谷駅。施設管理を担う同社索道部に今年3月まで在籍し、4月に大涌谷駅の駅長に就いた渡邊敬介さん(44)は、対策強化に取り組んだ背景を説明する。

 駅舎の拡張により収容人数が200人増え、集客施設のある大涌谷園地全体で3千人が逃げ込めるようになった。拡張部分は屋根をコンクリート製にし、防弾チョッキに使われるアラミド繊維のシートを設置。二重ガラスに飛散防止フィルムを貼り付け、「安全」と「眺望」の両立を図っている。県が規制エリアで整備を進める7基のシェルターと同様の理念に基づいた取り組みだ。

 箱根山では2015年4月に地震活動が活発化し、同6月に大涌谷で観測史上初の噴火が起きた。火山灰などの噴出量は少なく大きな被害はなかったものの、「当時の経験を踏まえつつ、御嶽山や草津白根山、阿蘇山の教訓に学ぶ必要があった」と渡邊さんは語る。

 戦後最悪の火山災害となった14年の御嶽山噴火では大勢の登山客が噴石の直撃を受け、計63人もの死者、行方不明者が出た。18年の草津白根山の噴火でも、想定外の火口から飛散した噴石にスキー客らが巻き込まれた。近年噴火を繰り返す阿蘇山の火口付近では、阿蘇山ロープウェーの駅舎が噴石で損壊し、運行できない状態が続いている。

 大涌谷の対策強化で他火山のこうした経験を参考にするのは、新たな名物となった「火口観光」が人気を集めているからだ。駅舎を出てすぐの展望台は、火口のある噴気地帯が目の前に迫る。現在のような噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)の状況で突発的な噴火が起きれば、外国人を含めた大勢の観光客が危険にさらされる。

 また、より日常的なリスクである火山ガスの濃度上昇時も屋内への退避行動が必要となる。刻々と変化するガスの状況を理解してもらおうと、箱根ロープウェイはウェブサイトをリニューアル。信号機の赤、黄、青の3色で危険性を示すデザインに見直すとともに、ぜんそく患者らガスの高感受性者は乗車しないよう呼び掛けている。

 大涌谷で活動活発化以前から火山ガスの定点観測を続ける東海大の大場武教授は「噴火によって地下からガスの通り道ができてしまったため、噴気は今後も収まらないのではないか」と指摘。「風向きによっては臭いがきつく、ガスが目にしみることもある。安全対策は今後も不可欠」と注意を促す。

 ガスの影響で立ち入り規制が続くエリアでは、シェルターや散策コースの再整備が今秋にも終わる見通しだ。大涌谷園地の全面再開が今後の課題となるが、箱根町の山口昇士町長は「開放したいというのが関係者の気持ちだが、観光客の安全をどう確保するかを考えなければならない」としている。

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