ロードアジア選帰国インタビュー、五輪への思い ~男子編~

4月23~28日、中央アジアに位置するウズベキスタン・タシュケントで行われたロードレースアジア選手権。4月30日に帰国したエリート男子の増田成幸、窪木一茂、エリート女子に出場した牧瀬翼、U23女子の梶原悠未にアジア選手権での感触と来年に迫った東京五輪への思いを聞いた。

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text&photo:滝沢 佳奈子

東京五輪出場枠、開催国枠に上乗せするために

空港で握手をする増田と梶原

4月末にウズベキスタンで行われたロードレースアジア選手権。日本選手団としては、男女ともに東京五輪の出場枠を一つでも増やすためにUCIポイントが欲しいところ。

また、五輪の選出条件が明確化された(UCIポイントに所定の係数をかけたランキング順)男子エリートの各選手にとって、1ポイントも逃すことができない貴重な機会である。

なお、今回のアジア選手権ロードで2位までに入ると五輪出場枠が1枠与えられるが、日本は保持している開催国2枠にさらにその枠が追加されるわけではない。日本はUCIオリンピックランキングで21位以上(女子は13位以内)に入らなければ3枠目を獲得する道はないのだ。つまり、3枠目を狙うのであれば、UCIポイントのつくレースでできる限りのUCIポイントをもぎ取って帰ることが至上命題なわけであり、実際女子エリートではその作戦が実行された。

男子エリートのコースは、全長166.6km。ラスト20kmの長い上りを経て頂上ゴールが待つコースレイアウトだった。ラストの上りは平均勾配5%ほどで、きついところでも10%ほど。出走したのは、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)、小石祐馬(チーム右京)、そして鎖骨骨折明け一発目のレースとなった別府史之(トレック・セガフレード)の4名。長い上りゴールということで、最も適性のある増田にエースとしての役割が任された。

チームTTでも、窪木と増田を中心にペースを作り、ローテーションを組むことになっていた。

4月19日からウズベキスタンに派遣された選手たちは試走も十分に行い、勝負のときを待つのみだった。しかし大会初日、チームTTを控えた未明に増田が食あたりを起こしてしまった。前日寝る前にだるさを覚えながら床に就き、目が覚めた夜中の12時半ごろ、強烈な気持ち悪さと腹痛を訴え、トイレから自身のベッドまで戻ることもできず、同室の窪木に助けを求めて倒れ込んだ。

増田は初日のチームTTを欠場した。不利な状況ではあったが、諦めずに走りきり、メンバー全員がアスタナプロチームに所属するカザフスタンから3分遅れの5位に終わった。増田の体調は、最終日のロードレースには何とか間に合った。

男子エリートロード、アタック合戦からの消耗戦

アジア選手権ロードで最高位7位の増田

大会最終日の4月28日に男子エリートのロードレースが行われた。序盤からアタック合戦が続き、およそ半分の70kmほどまで続いた。逃げができても集団が落ち着くことはなく、追走グループを作るためのアタック合戦がまた始まる。増田はアジア選のレースについてこう話す。

「アジア選ってすごい難しいレースなんです。序盤からずーっとアタック合戦で、逃げに乗れなかったらそれで終わり、みたいな。足並みにすごくばらつきがあるし、強い選手と弱い選手の差が激しい。

そういうところで自分も焦っちゃって、これで前に乗り遅れたらもういくら脚が残っていても勝負できないって自分にプレッシャーかけすぎたかなという感じもありましたね。序盤に脚を使ってしまって、上りに入るときはもう疲れた状態で」

逃げグループや追走も含めて、やっと落ち着きを見せたのがおよそ70km地点だった。窪木が乗った追走を最終便として、前方には小石も含めた13人の逃げグループができあがった。タイム差は3分ほどまで広がった。

一方、増田と別府が残るメイン集団では、逃げにメンバーを乗せていない中国や香港、韓国がメイン集団をコントロールし、逃げを吸収しようとしていた。およそ上り口のところで完全に逃げグループを視界に捉えるまで近づいた。

上りに入っても香港の選手が猛烈に引き、逃げグループとの差は縮まっていく。逃げグループの方でもメイン集団が近づいてきたことによって、またしてもアタック合戦が始まった。逃げグループも追うメイン集団もバラバラになりながら本格的な上りに突入していった。上りに入ってからはイランやカザフスタンが積極的にレースをかき回していったことで、ペースも上がりレースは消耗戦に。メイン集団で機会を伺っていた増田は振り返る。

「メイン集団に残っていたカザフスタンの選手一人がいいアタックしたんですよね。そこで中国とイランと、僕とカザフ2人の5人になりました。後ろ(集団)ももうバラバラですよね。

先頭には(最初の逃げグループから飛び出していた)カザフ1人とフェンチュンカイ(チャイニーズタイペイ)の2人が行ってて、さらにその後ろにモンゴルの選手や小石とか結構バラバラいて。そういう人たちを追い越しながら前を目指していました。

5人の中でもカザフは引かないでアタックばっかりするしで辛い展開だったんですけど、そんな中でも結果2位に入った中国のまだ若い選手がすごい強くて」

中国の選手が一番先頭まで追いつこうとするときのペースアップで増田はちぎれてしまった。結局、増田の乗った5人のグループのうち、カザフスタンの選手が中国の選手をうまく使い、脚を残しながら先頭まで追いつき、勝利を手中に収めた。その他のカザフスタンの選手もしっかり4位~6位に入り、ロードレースだけでも565ポイントもの大量得点を掻っ攫っていった。

増田成幸にとっての五輪。

増田は「東京五輪を集大成に」と話す

現状、JCFが定める代表選考のランキングでは、増田が131ポイントでトップである。次いでNIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネの伊藤雅和が75ポイントで2位、ツアーダウンアンダーでの獲得した60ポイントのみとなる怪我療養中の新城幸也が3位と続く。

宇都宮ブリッツェンとしてもチームから五輪へという思いから、増田のナショナルチームでの活動も後押ししている。35歳のベテラン増田は東京五輪をどう捉えているのだろうか。

「選手生活ももう残りわずかなので、今までの集大成になるような大会にしたいです。東京五輪のコースは250kmと長いので、その長いレースに合わせてこのオフもしっかりトレーニングを積んできましたし、周りのみんなとはまったく違うトレーニングをしてきて、五輪を目指して五輪に向けた体作りっていうのを、ここ1、2年では常にそれを頭にトレーニングしてきています。まずは出場権を得るのが第一歩かなと思っています」

五輪出場選手としていざ選出されたとき、コースは長くて非常にきつくて、戦う選手も格段に上だ。誰が出場したって三国峠などの難所まで勝負ができる状態で集団に残っていることすら難しいだろう。もはやブリッツェンの活動だけでは埋めきれないような差をどうやって埋めていこうと考えているか聞くと、少しだけ苦笑いをしてこう答えた。

「やっぱり実際に250kmのレースっていうのは、ヨーロッパで走っていてもクラシックくらいなんですよね。日本だとJプロツアーの群馬でも長くて150kmくらいですよね。国内のレースだけでは足りないっていうのは明らかなので、今年はナショナルチームに呼んでもらえるような遠征、ツール・ド・ランカウイなんかは190km、170km、200kmとか連日長距離を走れるし、もちろんコースの難易度とかは違いますけど。

それに加えてトレーニングで、ロードレーサーに必要な体力・持久力を今一度見つめ直しているところではあります。コースに関しての適性は、自分自身でもあると思っているので、あとは海外のレベルの高い選手たちに対してどれだけ戦えるかっていうのが重要になってきますね」

5月、6月とツアー・オブ・ジャパンや全日本選手権など、日本でUCIポイントが獲得できるレースが続く。昨年までだと全日本に向けて集中力を上げていく増田の姿が印象に残るが、今年の全日本は少し違うと話す。

「ポイントを1ポイントでも多くっていう考え方なので今までとは違いますね。UCIポイントが取れるレースは全て狙っていくつもりで戦っているので。TOJもそうですし、全日本なども常に絶好調でいられるように努力したいと思っています」

オリンピック前年にして怪我をする選手も目立つ。増田はこう付け加えた。

「どんなに強くてもどんなに経験があっても、ヨーロッパのトップ選手だっていつ怪我するか分からないですし、僕もいっぱい怪我してきているので、今年はもう絶対転ばないっていうのを目標にしています。低い目標なんですけど(笑)。でも一番大事ですよね。転ばなかったら、怪我しなかったらまた次のレースがあるじゃないですか」

まだまだ成長を続け、経験を深めていくベテラン選手たち。万全の状態で最高潮の強さを若手選手たちに思う存分見せつけて欲しい。

東京五輪に向けて、窪木一茂の悩み。

韓国を経由してウズベキスタンから帰国したばかりの窪木
迎えにきたチームブリヂストンサイクリングの田村メカと

今回のアジア選のコースを見て、自分向きのコースではないと思ったと話す窪木。エースのためにと、アシスト役に徹した。そんな窪木には、どうしても欲しいものがあった。東京五輪のトラック、オムニアム種目での出場権である。昨年の10月からトラックのナショナルチームに合流し、練習を共にしたが、少し練習を見ただけでも窪木の強さは抜きん出ているように思えた。

昨シーズン、ナショナルチームは、イアン・メルビン中距離ヘッドコーチの考えのもと、チームパシュートの練習にかなり多くの比重を置いていた。五輪ではチームパシュートの出場権を獲得することで、マディソン、オムニアムと芋づる式で出場権を獲得できることもあり、注力してのレベルアップが図られた。しかし、それはどこの国でも同じ条件だ。

結果、2018-19年シーズンを終えて、男子チームパシュートのオリンピックランキングは14位。次の2019-2020年シーズンを合わせての結果で五輪出場枠が配分されるため、次シーズンに一縷の望みを託すのみになったが、正直、想像だにしない変革でも起こらない限り、チームパシュートでの東京五輪出場、活躍という大いなる期待はできかねる。

昨シーズンのトラックワールドカップ第6戦の香港で落車し、怪我を負った窪木。最終戦である世界選手権の出走リストに名前はなかった。窪木はトラック中距離ナショナルチームの中で最年長で、自信と経験を持ち合わせていた。

「(チームパシュートで)アジア選手権2位で、ワールドカップも十何位でっていうことで、みんな脚もバラバラで、このままの状態でいくのはまずいなと思ったので、まずは自分が強くなって結果的にみんなを引っ張ってタイムを上げるっていう方が早いかなと思って交渉させてもらったんですよ。みんなの意見を代表して、力もあったり、歳も上だったから、(意見を)投げて良くしていこうと思ったんですけど……」

筆者の所感では、「ブノワ(・べトゥ短距離ヘッドコーチ)についていけば絶対に大丈夫」と選手が話す短距離チームのような強固な結束力は感じられない。

その原因は選手たちにもあると窪木は話す。

「もう一つ大事なのは、みんなイアンのせいにするんですよね。メニューが悪い、データ見せてくれない、確かにそう。だけどイアンはいいこと言ったんです。『でもそれは全部が俺の責任じゃない。じゃあなんで不安に思ったことを言ってこなかったんだ?』って。

それはイアンが正解だなと思いました。選手がダメだなと思ったなら、なんで選手たちで話し合って解決策をイアンに投げなかったのか。英語がわからないから、何回言ってもどうせって投げやりになってこうなってしまったっていうのもあるので。プロ選手として自身の意識が低かったからこういう事態を招いたっていうのもあるので、そこはイアンの言う通りだなと思いました」

五輪に出ることの重大さを人一倍強く感じている窪木は、ロードでの出場も視野に入れる。

「ロードも全然狙ってはいます。全日本ロード優勝して、TOJ総合10位以内、ステージも加点して、大分アーバン3位、ジャパンカップ10位で点数をとったら、まだ可能性はある。

この冬のパフォーマンスが本当に落ちてきていました。(ロードナショナルチームの遠征である)台湾、マレーシア、アジア選で調子が上がってきたのはあるので、僕としてはもっと調子を上げていかなければと思っています」

五輪のロードではこれまで以上に上りの能力が求められる。解決策を窪木は考える。

「絞り込むしかないですよね。行けなくないと思うんですけどね。今(体重が)71~2kgくらいで、64kgくらい、新城(幸也)選手くらい絞れたら上れないことないと思うんです。前も上れていた方だと思うし。対策していかないといけないですね。でも今はやっぱりトラックにウエイトを置いてます」

ストレスがなく自己研鑽に集中でき、最大限まで自身を高められる種目に適材適所で選手が活躍できればそれが一番いい。

国の代表を決める選手選考というのは非常に難解なパズルである。選手というピースを最適に配置し、まだ見ぬ結果をチームとして作り上げていかねばならない。大きな絵空事を現実化、いや、近づくために、まだ諦める段ではないのではないだろう。

【男子エリート ロードレース リザルト】

1位 GIDICH Yevgeniy(カザフスタン) 4時間3分21秒
2位 LYU Xianjing (中国) +0秒
3位 FENG Chun Kai(チャイニーズタイペイ) +6秒
7位 増田成幸 +50秒
27位 別府史之 +5分12秒
34位 小石祐馬 +6分49秒
48位 窪木一茂 +18分23秒

【男子エリート チームTT リザルト】

1位 カザフスタン 44分16秒
2位 韓国 +1分23秒
3位 香港 +1分55秒
5位 日本 +3分14秒

【男子エリート 個人TT リザルト】

1位 FOMINYKH Daniil(カザフスタン) 49分42秒
2位 FENG Chun Kai(チャイニーズタイペイ +12秒
3位 CHEUNG King Lok(香港) +1分18秒
11位 別府史之 +3分34秒

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