新連載 第1回「ミャンマーの民族」 今月号から「ミャンマーの民族」についてシリーズで紹介していく。その前にミャンマーの全体像について触れておく。 ミャンマーは北緯10度から28度の間に位置し、東西に狭く、南北に伸びる細長い形状を持つ国だ。

今月号から「ミャンマーの民族」についてシリーズで紹介していく。その前にミャンマーの全体像について触れておく。 ミャンマーは北緯10度から28度の間に位置し、東西に狭く、南北に伸びる細長い形状を持つ国だ。

新連載 第1回「ミャンマーの民族」

「Naga族」 今なお独特の風習と慣習を受け継ぐ辺境の民族

今月号から「ミャンマーの民族」についてシリーズで紹介していく。その前にミャンマーの全体像について触れておく。
ミャンマーは北緯10度から28度の間に位置し、東西に狭く、南北に伸びる細長い形状を持つ国だ。境界線の総延長距離はおよそ3800マイル(6万800㌔)で、南東はタイ、東はラオス、北東と北は中国、北西はインド、西はバングラデシュと国境を接している。
海岸線は、南方にアンダマン海、モッタマ湾とベンガル湾があり、海岸の全距離は西部のNat川の河口から南のKaw Thaung市まで1385マイル(2万2160㌔)。
国土面積は日本の1,8倍あり、北部、東部と西部は山や山脈が多い。中部は広い野原や、渓谷盆地が広がる。
山脈は北から南へ低くなるため、川なども北部を水源としており、南の梅へ流れ込む。主な川が4つあり、その中でミャンマーの生命線ともいえる「Ayeyarwady川」は最も重要な川であり、全長は1238マイル(1万9808㌔)もある。Thanlwin川は796マイル(1万2736キロ)、Chindwin川は691マイル(1万1056㌔)で、Sittaung 川は186マイル(2976㌔)の全長を持っている。
国全体では7つの州と7つの管区で構成されており、総人口は2014国勢調査によると約5100万人だ。
民族的にみると、ミャンマーは大きく8つの部族、全体で135にも及ぶ民族が存在している。その内訳は、カチン族 (Kachin) は、カチン族、タロン族、ダラウン族、ジンポー族、ゴーリー族、カク族、ドゥイン族、マル族を含み、そのうちのロンウォー族はさらにラワン族、ラシ族またはラチ族、アツィ族、リス族と呼ばれる12の人種によって構成されている。
カヤー族 (Kayah) は、カヤー族、ザヨウン族(ラタ族)、カヤン族(パダウン族)、ゲーコー族、ケーバー族、ブレ族(カヨー族、コヨウ族、ラク族)、マヌマノー族(マノー族)、インタレー族、インバオ族と呼ばれる9の人種によって構成されている。
カイン族またはカレン族 (Kayin) は、カレン族、カレンビュー族、Pa-Le-Chi、MonKayin (Sarpyu)、スゴー族(スゴーカレン族)、Ta-Lay-Pwa、パク族(パクカレン族)、ブエ族(ブエカレン族)、モーネプワー族、モブワ族、Shu (Pwo) と呼ばれる11の人種によって構成されている。
チン族は53種の人種で構造されていて、ミャンマーで一番人種の多い民族でもある。モン族は、モン族と呼ばれる単一の人種だけによって構成されている。
ビルマ族は、ビルマ族(バマー族)、タヴォイ族、ベイ族(メルギー族)、ヨー族、ヤベイン族、カドゥー族、ガナン族、サロン族(モーケン族)、ポン族(プン族)と呼ばれる9の人種によって構成されている。
ラカイン族 (Rakhine) は、(アラカン族)、Kamein、カミー族、ダインネット族、マヤマジー族、ムル族、テッ族(サック族)と呼ばれる7の人種によって構成されている。シャン族はチン族に次いで、二番目に人種が多い民族であり、33つの人種で構成されている。
このように、民族一つとってもミャンマーは人種のるつぼといえる。今回はその中でもチン族に属するNaga族を取り上げてみた。

Naga族とはどんな民族か

インドとミャンマーの国境に住むNaga族はチン族に属するが、Kanmatee地区に住むNaga族はさらに11の人種に分かれている。近年様ざまな伝統風習があるこの民族に対しては、世界中から関心を持たれている。
たとえばNaga 族の男たちは片耳に白いロウバイ貝の耳飾りと、片耳には小さい髪束をぶら下げている。白いロウバイ貝は「美しさ」を意味し、小さい髪束は「勇気」を誇示するのだという。
その髪束は見た目にはさほど美的には映らないが、Naga族の人にとってはとても重要な意味を持つらしい。それは、敵を打ち取り、首を狩った後でその戦果の証となるからだという。現代では首狩りなどの風習は消滅したが、彼らの先祖の時代には、入手した敵の髪を耳飾りとして使う習慣が長らく守られてきたという。
かって、Naga山脈では奴隷貿易が盛んになった時代があり、部族相互の戦争などで、勝利した部族が捕えた人間を奴隷として売買したという。
宗教的には、Naga族は精霊崇拝で、昔はその奴隷を人身御供として扱ったという。現代では、生贄に水牛や牛だけを使うようになった。両親が生贄行事を行う時は、殺された動物の足を子どもにあげて、子供が行う場合は両親に尻部をあげる習慣があるという。
生贄行事の時には、家族全員が集まり、一番年長の男子が精霊にお供えし、お祈りをする。祈りには「私は誰々の息子である、髪が真っ白になるまで長生きし、病気などにならないように。牛が生まれたら象のように大きくなりますように。豚が生まれたら猪のように大きくなりますように。そして沢山生まれますように。米などが沢山できますように。」といった願いを込めた言葉を唱えるという。
犬はNaga族にとって必要不可欠な大切な動物である。犬の肉も食べるし、精霊へのお供えとしても使い、北部の地方では、結婚の引き出物としても欠かせないものとなっているという。Naga族の人には、犬の肉は体にいいという考えがあり、体が温まり、長い病の患者には最高の肉だという。
Naga族の人は、彼らは土地から生まれた人種という純粋な考えを持ち、Winyan-Ywar洞窟から来たという言い伝えも存在する。
そのWinyan-Ywarはインドーミャンマー間の国境上にあると認識されており、その昔は人が亡くなったら、その死んだ人間の一番愛していた人間も殺すという恐ろしい習慣があり、例えば父親の死で母親を道連れにしたリ、それとも友人が犠牲になったりしたそうだ。
現代では考えられないが、その風習は人の代わりに水牛や牛などを殺すようになったという。死者がWinyan-Ywarへ帰る時、一人で寂しくならないようにという目的でそのような慣習が続けられてきたそうだ。

Naga族の入墨に込めた美意識

入墨をNagaの方言では「Paye」 (Say-mae)といい、チン族の入墨ほど濃くはないという。普通は薄いが、男性は濃くする傾向がある。女性は額、顎、腕などに入墨をし、それほど多くの入墨はしない。「Paye」は美容用として行われ、これに使用する液は古くからNaga族が発明した独特の液だという。
作り方は松の木を火で昇華し、壺に出た気体を集め、Pain-Chin木から液を絞り、集めた昇華物と混ぜて入墨用の液を作る。
昔、男性は敵の血を入墨用の液として使うこともあったという。入墨の時に、Yaung-Ooという刺を針として使い、正月に入墨をすることが多いという。同性同士の間で入墨を行い、特定の入墨師は存在しないそうだ。

Naga族の首狩りの習慣はどこから生まれた

Naga族の人たちは戦争で敵の頭を中心に奪取しようとしたという。Naga族の人は一生でいくつの首を切ったかを誇りに考えていた。
Naga族の首狩りについて一つの逸話がある。ある時期に世界中が洪水で破壊されたときに、ある山の山頂に二人の兄妹が残って生きていた。兄妹は死後のことを心配し、兄は一つの考えを出した。妹をある大石の近くまで行かせ、大石の言うことを聞かせた。妹も兄に指示された通り、大石の言うことを聞いた。
当時、兄は大石の片方で自分の考えを言い放った。その後、大石から戻ってきた妹に兄が何を言われたかを聞いたら、妹は恥ずかしくて何も言えなかったという。その日から3日目の新月の日に台風が来て、大石が言った通り、妹と夫婦になった。そして一人の子が生まれたが、泣きやまなかったので母親に殺され、その子の肉を放り投げたら、その肉から瓢箪の木が出てきて瓢箪の果実が発育した。
その果実を切ったら、中に子どもたちが見つかった。そして一つの果実を切った時、一人の子供の首を切ってしまい、殺してしまった。その時から、首狩りの習慣が始まったという奇妙な言い伝えが残されている。
Naga族の人たちは首狩りから呪術が身に付けられると信じ、沢山の首を切れる人は優秀な人で、その人の家では、切った頭を籐綱(ふじづな)で繋げ、飾りとして展示してあるという。
このように多民族国家のミャンマーには、まだまだ独特の風習慣習を持つNaga 族のような民族もいる。
次号ではこのNaga 族の現存する占いや占星術などを中心に紹介する。

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