社内理解ほぼ0、マックの調達を変えた最初の1社

セッション「サプライチェーン管理の新たな挑戦」。左からファシリテーターの古澤千明氏、CDPのソニア・ボンスレー氏、日本マクドナルドの岩井正人氏、ブリヂストンの稲継明宏氏

欧州と比べて日本では、各認証制度の認知度は高いとはいえない。企業のSDGs(持続可能な開発目標)への対応が加速するなか、自社内やサプライヤーへどのように働きかけるのか。日本マクドナルドの担当者は、「社内での理解度がまったくない状態から始まったが、最初の1社を探すことが大事」と話す。(オルタナS編集長=池田 真隆)

サステナブル・ブランド国際会議2019東京では、「サプライチェーン管理の新たな挑戦」と題したセッションが開かれた。

同セッションに登壇したパネリストは、日本マクドナルド コミュニケーション&CR本部 CSR部マネージャーの岩井正人氏、ブリヂストン コーポレートコミュニケーション本部サステナビリティ推進部部長の稲継明宏氏、国際NGO CDPでサプライチェーンプロジェクトのグローバルヘッドを務めるソニア・ボンスレー氏の3人。ファシリテーターは、WWFジャパン 自然保護室森林プログラム プロジェクトリーダーの古澤千明氏。

約130カ国に展開しているマクドナルドでは、世界で約4万店舗を運営している。日本には約2900店舗あり、「スケールフォーグッド」のコンセプトを構えて、持続可能な食材の調達やパッケージのリサイクルなどに注力している。

2020年までに紙製容器包装類を100%認証のものに切り替えることを目指したが、2018年6月時点でほぼ100%の切り替えをすでに達成したという。今後は、トレイマットも切り替える予定だ。

その他には、フライオイルはRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証の油を使い、珈琲豆の調達に関しては、2020年までに持続可能な原材料に切り替えることを目指している。マクドナルドで食事をすることが「地球の環境を守る」というメッセージを訴求する。

ただし、同社がこのような取り組みをしてきた背景には困難もあった。岩井氏は、認証制度に関心をもったのは、2014年にFSC(森林管理協議会)認証に着目したことがきっかけだと述べる。しかし、当初は社内でも認知度が低く、「売り上げにつながるのか」「認証を取るにはコストがかさむ」などという批判的な意見が噴出したという。

そこで、岩井氏は、FSC認証を管理する団体から同じような悩みを持つ企業担当者を紹介してもらった。お互いの悩みや考えているノウハウなどを話していくうちに、あるサプライヤーがFSC認証の取得に踏み切ってくれた。「その1社が動いたことで、そのほかのサプライヤーの意識が変わった」と話す。

「FSC認証を勉強することで、なぜ森を守ることが大事なのかを深く理解することができた。木を切ることの背景には里山や生態系の問題があると分かり、そのことをサプライヤーに説得していった。分かってもらえる最初の1社を探すことが大事」

認証を取得することはコスト高になるため、現在はそのための予算を確保している。岩井氏は、「突然、明日から切り替えろとは言わない。川上のしわ寄せが川下へいくことは避けなければいけない」と話した。

「NGOとの対話繰り返して」

一方、日本では認証制度の認知が上がらないのはなぜか。ドイツなど欧州では、FSC認証の認知度は8~9割で、日本では2割以下だという。ボンスレー氏は、「キーワードは、全員でアクションを取ること。認証を取らないサプライヤーを監視して、選定から外すことも効果的ではある。企業の担当者は関係者との対話を繰り返してほしい」と考えを述べた。

CDPは企業の非財務情報を開示しているが、年々その企業数は増えている。この動きに関連して、天然ゴムを持続可能に調達するため、複数の企業や団体からなるプラットフォームが続々と立ち上がっている。

この背景について、稲継氏は、「今後は人口が増えていき、モビリティ社会になる。NGOとの対話を通して、経営陣に天然ゴムは今後も持続可能な調達ができるのかという危機意識が生まれたことが発端」と予測した。

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