今知っておきたい 英語時事キーワード 退位・即位にまつわるキーワードを英語で

By 高橋敏之

 元号が平成から令和に改まり、それと同時に天皇の退位~新天皇の即位という、数十年に一度しかない歴史的な出来事を私たちは目の当たりにした。連休中に行われた一連の儀式を、テレビで食い入るように見たという方も多いのではないだろうか。ここでは、こうした退位や即位にまつわる重要なキーワードを、英語でどのように表現するのかをご紹介しよう。

 まず「退位する」は英語でどう言ったらよいだろうか。「(何らかの職を)辞する、降りる」という場合はresignやstep downなどが使えるが、これらの語句は非常に幅広く使われるが故に、天皇の退位を表すには「格式」という点でやや物足りない(もちろん使ったら間違いという意味ではないが)。実際、退位を報じた英文メディアの記事にもresignやstep downはあまり見られなかった。代わりに使われていたのがabdicate。見慣れない語かもしれないが、これは「退位する」という意味の動詞で、文字通り王族の退位にしか用いない語なので、ここではぴったりだ。これの名詞形がabdication(退位)。例えば「生存している天皇の退位は200年ぶりの歴史的なことである」ということを伝えたければ、The abdication by a living Japanese monarch is the first in 200
years.(生存する日本の天皇が退位するのは200年ぶりだ)のように表現できる。

 一方、「即位する」はascend (to) the throneなどが使われる。「throne(王位)にascend(上る)」から「即位する、皇位を継承する」という意味を表す表現だ。他にも英字紙『The Japan Times』ではascend to the
Chrysanthemum Throneという表現も使われた。Chrysanthemumとは「菊」のこと。ご存じの通り、日本の皇室の紋章には菊があしらわれている。つまりChrysanthemum Throneは日本の皇位のみに使われる、ある種の固有名詞だ(そのため、先頭が大文字になっている)。

 さて、退位された前天皇は今後「上皇」と呼ばれるが、この英訳はEmperor Emeritus。emeritusは「名誉職の」という意味を表す語で、professor emeritus(名誉教授)のように使われる。つまりEmperor Emeritusは「名誉職の天皇=上皇」というわけだ。

 それから、退位・即位に関連して、忘れてはならないキーワードは「元号」。これは英語ではera nameと表現できる。文字通り「era(時代)のname」ということ。またはImperial era nameのように言うこともある。imperialは「帝国の、皇帝の」という意味の形容詞で、Imperial Palace(皇居)など、しばしば日本の皇室に関連したものを表現する際に使われる。

 最後に新天皇の即位のお言葉の中から、いくつかキーワードを拾ってみよう。「…憲法にのっとり、日本国および日本国民統合の象徴としての責務を果たすことを誓い…」と述べられたが、この中の「憲法にのっとり」はどのように英訳したらよいだろうか。『The Japan Times』ではI will act according to the Constitutionという訳を当てている。according toは、according to police reports(警察の発表によると)のように「~によると」という意味で情報のソースを示す際に使われるが、do everything according to the rules(すべてをルールに従って行う)のように「~に従って、~に基づいて」といった意味でも用いられる。よって、「憲法にのっとり」を表すのにぴったりな表現だ。それから日本国憲法では、天皇は「象徴」であると規定されているが、この「象徴」を一言で表現するとsymbol。「日本国および日本国民統合の象徴としての責務を果たす」のところは、fulfill my responsibility as the symbol of the State and of the unity of the people of Japanのように表現できる。fulfillは、full(満タン)とfill(満たす)が合わさってできた動詞で、「十分に満たす」が原義。そこから「(義務・責任)を果たす」という意味で使われる。例えば、政治の世界でよく耳にする「説明責任を果たす」もこれを使って、fulfill my responsibility to provide an explanationと言うことができる。

 いかがだっただろうか。関心のあるニュースを英語で読んでみることは、語彙力や表現力を増やすうえで、非常に大切な活動だ。しっかりとした英語力をつけたいと思っている方は、ぜひ興味のある分野の英文記事を読んでみよう。(『The Japan Times Alpha』編集長 高橋敏之)

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