監督・水谷豊の演出術とは? 中山麻聖と石田法嗣が轢き逃げで運命が狂う若者を熱演!

監督・水谷豊の演出術とは? 中山麻聖と石田法嗣が轢き逃げで運命が狂う若者を熱演!

水谷豊監督作品の2作目の主演は、オーディションで選ばれた中山麻聖と石田法嗣。親友役を演じる2人に、撮影中のエピソードや、水谷監督について聞いた。

──オーディションを受けている間は、監督が水谷豊さんだということを知らなかったそうですね。

中山「オーディションに受かったと連絡を受けると同時に、台本をいただき、その1ページ目を開いたら“監督・水谷豊”と書かれていて。新しい作品に入るワクワク感ともうそのすぐ後には、ものすごいプレッシャーで…」

石田「僕も台本を受け取って初めて知って、すごく驚いて。『やった~!!』と喜びつつ、それ以上にすごいプレッシャーを感じました」

──脚本も水谷さんが手掛けられています。読んだ感想は?

中山「情景などのト書きが非常に丁寧かつ繊細に書かれていて、小説を読んでいるようでもあり、映画を見ているようでもありました」

石田「読んでいくほどに展開がすごくて、うわぁ面白いなぁ、と。ただ、(演じる)輝のセリフがあまりに多くて、それとどう闘おうか、と考えて」

──2人は親友役ですが、そのために何か準備はされました?

中山「距離をつめようと、僕から勝手に連絡先を渡したのですが、クランクイン前日まで連絡が来なくて。法嗣くんはお芝居のスタンスとして、仲良くなりたくないタイプなのかな、悪いことしちゃったな、とドキドキしていて」

石田「人付き合いに慣れていない僕は、どう連絡すればいいのか分からなくて…。『明日、何時集合だっけ?』というのが、最初の連絡になってしまいました(笑)」

中山「だから初日は、やっと会えた~って(笑)。ただ撮影中は、お互いの存在がずっと支えになっていました。役者同志というより、互いに依存し合う秀一と輝の関係性が、自分たちにつながっていました」

──すぐに親友同士という関係性を作ることができたのですね?

石田「初日は遊園地ロケで」

中山「遊園地の乗り物ほぼすべてに乗る結構大変な撮影で(笑)。でもそのおかげで自然に、その関係性に入って行けた感覚がありました」

石田「ジェットコースターの撮影も大変だったなぁ」

中山「それより空中バイクだったね。僕がバイクを漕ぎ、地上で輝が走ったり追いかけたりする輝との関係性が出るシーンなのですが…」

石田「僕が失敗して、10回くらいテイクを重ねたよね。回数を重ねるごとに、僕が謝る回数もどんどん増えていって…」

中山「漕ぐだけだから気にしなくていい、大丈夫だって言うのに、申し訳なさがひしひし伝わってきて」

石田「一生懸命に漕いでも、あれ、すごく遅いんだよね(笑)」

中山「スピードが出ない作りだから、キコキコ漕いでも漕いでも遅い。撮り直すには、1周回って帰って来ないとならないので(笑)」

石田「悪いなぁ…と思いながら、それを見ていたよ(笑)」

中山「ざっと10周して(笑)、足はパンパンになったけど、ちょっと面白い初日になりました」

──最初、石田さんは役作りにおいて、水谷監督の考えと違ってしまい、苦労されたそうですね。

石田「思い描く人物像に違いがあったというより、アプローチの仕方が違っていて。最初の本読みに、僕は完璧に輝という人物を固めて行っちゃったので、監督が“違う”と言われるニュアンスに対応できなくて。『殻に閉じこもるやり方をせず、もっとオープンに』と指摘され、まさか準備が裏目に出るとはと、泣きそうになりました」

中山「そうですね、あの時はもう、お互いが余裕なかったですね」

石田「次の本読みまでに固めたものを壊し、3度目の本読みで『光が見えて来た』と言われ、ようやく少しホッとして。さらに現場では、現場に合わせて監督の考えもどんどん変わっていくのも経験し、頑張ってどうにか乗り越えました」

──轢き逃げ事件を起こしてしまう秀一と輝に自分を置き換え、考えずにいられません。お二人はどんなことを考えましたか?

中山「撮影前は“自分なら”とも考えたりしましたが、撮影に入ってからは特に考えなくて。というか、秀一として神戸で1カ月ずっと過ごしていたので自分の考えなのか、秀一としての考えなのか、境目が分からなくなっていって…。精神的にもかなりつらかったですね」

石田「僕自身は、すぐ警察に電話しないとダメとしか考えられませんが、事故が起きた瞬間、どこへ行けばいいのか、どうすればいいのか分からず、魔が差してしまったというか、秀一に魔を差してしまったのは輝。『誰も見ていない』という輝の一言で、秀一は変な救われ方をし、逃げる選択をしてしまう。あれさえなければ逃げていなかったかもしれないのに…」

中山「あの瞬間を、秀一は永遠にも感じたと思います。結婚、会社、家族、被害者のことなど、いろんなことに思い巡らせて。秀一の選択に同意はできかねますが、映画を見て、一瞬の迷いが生じる瞬間、間違っていると分かっているのに、それを選択してしまう瞬間ってあるんだな、と思いました。それを犯すのは、ほんの小さなきっかけ、それこそ風が吹くくらいちょっとしたきっかけで、魔が差すっこういうことなんだ、と改めて思いました」

──水谷監督の演出で、印象に残っているのはどんなことですか?

中山「監督の演出方法は、一度、監督が僕らの役を演じて見せてくださるんです。それを基にリハーサルし、微調整のために僕らの横に来て、肩に手を置き、優しく演出を付けてくれるという方法でした」

石田「秀一の婚約者・早苗さんに謝るシーンでは、実際に『こういうふうに謝るんだよ』と土下座もやって見せてくださって。2度目の土下座もやってくださいましたが、さすがに3度目の土下座は“もう、それいい”と(笑)。どっちに行けばいいのか分からない状態の僕に、常に手を差し伸べてくれました」

──出演もされている、監督の忙しさはすごかったでしょうね。

中山「ご自身の役も演じられ、僕らの役も演じて見せてくれ、もちろんカットを掛けるのもご自身ですから。その切り替えが早い!」

石田「一度、僕が先にメークに入っているところへ“おはよう~”と監督が来たことがあって。ふと見たら、椅子に座った瞬間、既に寝ていて。寝ながらメークされている姿を見て、そりゃそうだよなぁ、と思いつつ、水谷さんもやっぱり人間だ、と安心しました(笑)」

──具体的なシーンとして、監督の演出や言葉で残っているのは?

石田「いくつかありますが、やはり取調室のシーン。リハーサル時に監督が『意識が違うところへ行ってしまうような感覚、心地よさを覚えたら、それが正しい。それが演じるってことだ』と言われたんです。ずっと惨敗続きで監督も頭を抱えていたのですが、最後の最後に僕がパニくって“ウワ~!!”となったまま、自然と演技を続けた瞬間、『これのことか?』と。それがOKになったのですが、勝手に体が反応してしまう感覚が、監督が言われた境地なのかな、と。僕の場合はアクシデントで出ただけですが、監督は演じるたびにこうなっているのかな、それって怖いほどスゴイな、と思いました」

中山「僕は最初の本読みの際に、『自分の価値観に固執せず、フラットな状態でいてほしい』という監督の言葉です。役者として当たり前のことかもしれませんが、今回、より深いところに連れて行っていただけた、とすごく感じました」

──脅迫状が送られて来たシーンで、監督が自ら飛んでみせてくれたことに驚いたそうですね(笑)。

中山「僕はベッドに横になっている設定で寝ていたら、輝になった監督が、いきなり“ヤッホー”とピョーンと飛んで来て、つい“へ? へ? へ?”とすごくビックリしたんです。輝の演出をしつつ、その時の秀一のリアクションをも演出してくださっていたのか、と」

石田「僕も、監督は試しに飛んだだけかと思ったら、『分かった、輝?』と言われて。ユニークでちゃめっけのある演出がありました。」

──秀一と輝が割にアッサリ捕まった後の展開がすさまじい。人間ドラマでもありサスペンスでもある本作の面白さをどう感じますか?

中山「秀一と輝だけでなく、すべての登場人物の感情がすごく丁寧に描かれているので、誰の心情に一貫して寄り添って見るかによって、また違う感想を抱くと思うんです。いろんな角度から、いろんな楽しみ方ができる作品です」

石田「轢き逃げ事件を起こした当事者だけの話かと思ったら、巻き込まれたすべての人たちの物語。一つの過ちにより、どれだけ周りの人たちが新たに巻き込まれていくのか、それぞれの心の動きや選択の物語を味わってほしいです」

──ズバリ、お二人にとって親友とは何ですか?

中山「誰しも隠し事ってあると思うので、それはいい。でも、うそをつくようになったら、信用できなくなってしまう。隠し事はあってもうそがないのが親友かな、と。たかだか30年しか生きていない僕が言えるのはそれくらいです(笑)」

石田「難しすぎる質問です! う~ん、『明石焼き、食べに行こう』と言ったら、『行く行く』と喜んで行ってくれるのが親友かな」

中山「やった!! 行ったね、明石焼き(笑)。やっぱりそこだよね!」

【プロフィール】


中山麻聖(なかやま ませい)
1988年12月25日東京都生まれ。山羊座。B型。「牙狼-GARO- -魔戒ノ花-」(テレビ東京ほか)などで主演を務める。

石田法嗣(いしだ ほうし)
1990年4月2日東京都生まれ。牡羊座。A型。NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、「荒神」(NHK BSプレミアム)などに出演。

【作品情報】


「轢き逃げ -最高の最悪な日-」
5月10日公開

結婚式を目前に控えた秀一が、車で若い女性を轢き、同乗していた親友・輝と逃げてしまう。轢き逃げされた娘の死を受け入れられない両親、捜査を担当するベテラン刑事と新米刑事、青年のフィアンセや会社の同僚…。事件にいろいろな形で巻き込まれた人間たちの心理と行動を映し撮った、極限のヒューマン・サスペンス。(配給:東映)

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