変わりゆく時代に 守るべきもの「木之本」 おとなの休日 ~in 木之本・滋賀県~

―大人の探訪スポット―

北陸、東海、近畿を結ぶ交通の要所として古くから栄えた木之本。住人の高齢化、空き家となった町家が増えるなか、先祖からの“遺産”を受け継ぎ、守りぬこうとする人たちの姿がありました。

古い町並み残す北国街道の宿場町

 木之本は、日本三大地蔵の一つ「木之本地蔵院」(675年)の門前町として栄え、また中山道と北陸地方を結ぶ分岐点でもあり、人馬や物資が行き交う活気あふれる町でした。

古い町並みを残す木之本宿の北側 昭和初期まで中央に川が流れ、柳の並木があった。この辺りは牛馬のせり市が行われた地域。写真上は山路酒造(創業480年)でかつての脇本陣。江戸末期には伝馬取締として柳ケ瀬関所通過の人馬を検認した。

 「木之本は1572年の織田信長の焼き打ち以後も何度も大火に見舞われました。それでも数百年の歴史を越えて営業を続ける店舗がある」とガイドの藤田曠量さん(81歳)。

かぎと錠の店しんろく 店主の福井昭雄さん(74歳)は、国家公安委員会認定の防犯設備士。今では直せる人がほとんどいない昔の錠前や蔵の鍵、その他どんな鍵でも相談可。
旧本陣 竹内五左衛門家 木之本宿の本陣。江戸時代、参勤交代の大名らが大勢宿泊した記録が残されている。古い薬の看板は明治時代から薬を扱っていたことを示し、明治26年には当主が日本薬剤師第1号の免状を取得している。

 若者の流出、住民の高齢化が進んでいますが、昔ながらの風情あふれる店舗を維持し、伝統の味を守りながら時代に合わせた新たな商品開発に挑む酒造店や醤油店、優れた技術で遠方からの客を呼び込む職人、県外から移住して新たな商売を始める店舗も。この土地を愛する元気な人々が、町の今を支えています。

ダイコウ醤油店 「木之本は古くから伊吹山系の水に恵まれ、醤油や酒づくりが盛んでした。今でも敷地内の井戸水を使い、伝統の醤油づくりをしています」とダイコウ醤油店6代目・大杉 憲輔さん。
地域に愛され百年以上時代の波間に揺れる財団法人 江北図書館
公益財団法人 江北図書館 1902年(明治35年)、杉野文彌氏が郷里に設立した3000冊の「杉野文庫」が前身。1906年、同氏の寄附金1万円を基本財産とし伊香郡役所の全面的支援を得て設立された滋賀県最古の図書館。県内の図書館が世界大恐慌や戦前戦後の混乱期に淘汰されるなか、江北図書館は1983年に長浜市立図書館ができるまで湖北地域で唯一の公共図書館として重要な役割を担ってきた。 長浜市木之本町木之本1362(JR木ノ本駅東口ロータリー前) TEL/0749-82-4867 開館時間/9:30~

 JR木ノ本駅前にたたずむレトロな建物。木之本に隣接する余呉町出身の弁護士杉野文彌氏が「郷里の若者に学びの場を」との思いから私費を投じ、地元の有力者と共に1906年(明治39年)に設立した財団法人(2011年より公益財団法人)の図書館で、滋賀県公共図書館協議会の理事館です。

 「築80年の木造モルタルの本館は耐震・耐火・盗難の備えがなく、永年、希少価値のある和洋漢韓の図書や、伊香郡役所文書等の安全な保存と有効な活用に苦慮していましたが、昨年から滋賀大学経済経営研究所で預かってもらうことができました」と話すのは、祖父の代から三代にわたり運営に携わる理事長・冨田光彦さん(79歳)。

永い歴史の間に蓄積された貴重史資料としては、徳川光圀編『大日本史』全226冊、塙保己一『群書類従』全666冊、『農業全書』、『ブリタニカ百科事典』25巻本の初版など。史料としては、伊香郡役所文書、伊香相救社文書、旧伊香郡ほぼ全域の地籍地図などがある。これら貴重な図書や地方行政文書などは「江北図書館文庫」として一括して滋賀大学経済経営研究所に保管され、研究が進みつつある。

 しかし、老朽化が進み、温湿度の管理がない館内におかれたかなりの数の貴重書物。公的支援がなく、基本財産運用益も望めない深刻な財政難が続く私立図書館。何とかその活路を見つけたい冨田さんの呼びかけは続きます。


■情報誌「自悠時間」2016年9月掲載

© 有限会社ウエスト