何のための官製婚活

多様な生き方の否定

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江刺昭子

女性史研究者

江刺昭子

女性史研究者

えさし・あきこ 広島市出身、早大卒。原爆作家・大田洋子の評伝「草饐(くさずえ)」で田村俊子賞。著書に「女のくせに 草分けの女性新聞記者たち」「樺美智子 聖少女伝説」など多数。

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2017年3月3日の記者会見。翌日の「TOKYO縁結日」をアピールした

 就活や終活ばかりでなく、恋活、妊活(妊娠)や離括(離婚)、保活(保育園入園)まで、「〇活」ばやりである。なかでも官民あげて熱が入っているのが婚活、すなわち結婚に向けての活動で、急速な少子化に歯止めをかける意味でクローズアップされている。

 婚活という用語は、山田昌宏・白河桃子著『「婚活」時代』(2008年)が使い始めただそうだ。

 少子化対策基本法が成立したのが2003年。その際、衆議院の審議過程で結婚や出産に国家が関与するのは、個人の自己決定権の考えに逆行するとの批判を受け、前文に「もとより、結婚や出産は個人の決定に基づくものではあるが」と書きこまれた。これに抵触するのではないかと疑われる官製婚活が活発だ。

 それを促したのは、13年に創設された「地域少子化対策強化交付金」である。結婚・妊娠・出産・育児の「切れ目ない支援」を目的に、先駆的な取組を行う地方公共団体を税金で支援する。

 交付金の活用事例として内閣府のホームページに、自治体の事業が並ぶ。結婚関係では、男女の出会いのためのサポートセンター開設、、イベントやマッチングシステムによるお見合い支援といった内容が多い。

 東京都も17年3月に結婚応援イベント「TOKYO縁結日(えんむすび)2017」を開催し、当時の加藤勝信・内閣府特命担当大臣(少子化対策)も出席した。小池百合子知事はイベント前日の記者会見で「婚姻件数も、このところ減り続けてきましたけれども、そろそろ底を打って反転攻勢をかけたい」と、結婚の後押しをする意思を鮮明にした。

 都が結婚支援に踏み込むことの是非について、記者から突っ込んだ問いかけはなかった。昨年は「結婚について知事と語ろう!」フォーラム、今年は結婚応援イベント「TOKYO FUTARI(ふたり) DAYS」を主催している。

 戦時中の結婚奨励政策を彷彿とさせる動きが広がる。

 戦中の標語は「産めよ殖やせよ」。太平洋戦争開戦の年の1月、政府は人口増加策を閣議決定、1家庭で平均5人の子どもを持つようにする。平均の結婚年齢を3年早め、男子25歳、女子21歳までとすることを唱導した。

 翌年、結婚報国懇話会が組織され、早期結婚の奨励、結婚斡旋所設置などの事業にのりだしている。「報国」とは国の恩に報いること。しかし、男たちが次々に戦場に駆り出されたため結婚難で、独身の兵士は結婚のために一時帰休させたりした。出征が決まって慌ただしく結婚式を挙げ、同居1週間で入隊といったケースも少なくなかった。まるで家畜の増殖をはかるような、なりふりかまわぬ国策で、戦後、幼児を抱えた多くの「未亡人」が苦労を強いられた。

 昔「結婚報国」、今「官製婚活」ということになる。

 官製婚活の結果はというと、婚姻件数の減少にも婚姻率の下落にも歯止めはかかっていない。厚労省によると、婚姻件数は、第1次ベビーブーム世代が25歳前後となった1970年から74年にかけて年間100万組を超え、婚姻率(人口千人あたりの婚姻件数)は10・0以上だったが、2018年は過去最低で、婚姻件数59万組、婚姻率4・7。50年前の半分になっている。税金投入の効果が見えない。

 それどころか「誰もが結婚するべきだ」という考えを広めるなら、結婚していない男女にとって圧力となり、「官によるセクハラ」とさえいえる。結婚したいが、出会いがないという人のためには民間の結婚相談所や婚活イベントがあるし、ネットにも婚活サイトが溢れる。民業に任せたほうがいいのではないか。

 1度も結婚していない人をひと括りに「未婚」というが、「非婚」と呼んだほうが適切なケースも増えている。「未婚」はいずれ結婚するつもりの人、「非婚」は自分の意志で生き方として結婚しない人である。

 非婚が増えた理由として男性側の低収入や“草食傾向”があげられているが、非婚志向は女性の側により強いように思う。専業主婦になれば税制や年金が優遇されているのに、なぜだろうか。

 非婚という言葉が登場したのは1980年代で、その頃から徐々に家族のありようが変化してきた。それまでは性別分業を前提に、男が外で働き、女が家事、育児、介護を担うのが標準モデルだったが、経済の低成長が続き、夫婦が共働きしないと生活できなくなった。それなのに性別役割分担が根強く残り、共働きを支える子育ての環境整備は遅れている。自活能力と自立意識を持つ女たちが、妻に丸投げされる無償労働にノーを突きつけているのではないか。

 家族の姿もかつてのようにひと色ではなく、モザイク模様のように混ざりあって今の社会を構成している。異性婚、3~4世代家族、ひとり親と子ども、事実婚、夫婦別姓、国際結婚、同性パートナー、シングル、ステップファミリーや生殖技術の進展によって、血縁ではない親子も少なくない。外国人労働者の受け入れで生まれも文化も異なる人びととの共生も進んでいる。

 これほどの変化を無視して、昔ながらの家族を前提にした官製婚活を強引に進めるのは、社会を息苦しくさせるだけだ。こうしたやり方が、国会議員の「LGBTには生産性がない」という発言にもつながっているのではないか。

 国の制度として異性婚が特権的に保護されることがなくなれば、不倫も婚外子も存在しなくなる。そうなれば、もっと子どもを産み育てやすい、風通しのよい社会になるはずだ。 (女性史研究者・江刺昭子)