緊急事態に遭遇、その時あなたの判断は 自分で調べ経験と知識総動員して決定を

(出典:https://en.wikipedia.org/wiki/GeographyofIndia

犯罪者やテロリストに事件を起こさせない環境を作るためには、また私たち自身がテロや犯罪や事故に巻き込まれないためには、そして万一の事態が起きたとき被害を最小限に抑えるためには、私たち一人ひとりのセキュリティ意識を高めることが重要です。しかし、実際に自分が主役として緊急事態に遭遇すると…。今月は私自身の経験をお話します。

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初めてのインド出張

以前、私はインドの大規模建設プロジェクトにセキュリティ担当として参加していました。初めてのインドでしたが、適応能力だけはあるので、あっという間にインドでの生活に慣れていきました。

ある日、プロジェクトの建設エリアとなっている場所のセキュリティ状況を把握するするため、インド人のドライバーとともに現地へ向かいました。ドライバーは、このエリアの治安は良く、人々にとっても快適な場所であると私に伝えました。私を送った後、ドライバーは別のプロジェクトメンバーを迎えに行くことになっていました。車を降りた場所に1時間後に集合することにして、私は一人で車を降りました。車は行ってしまい、少し心細かったのですが、確かにこのエリアの治安は悪くなさそうでした。

遠くに一匹の犬の姿を見つけましたが、問題はないと判断し歩き始めました。ところが、ドライバーが去り、私がカメラを片手に調査を始めると、その犬がこちらに向かって走ってきました。道路上にインドの人々はいましたが、直感でわかりました。ターゲットは私…。

犬は追いかけ、私は逃げる。

(出典:https://www.flickr.com/photos/gregor_y/169095222

インドは世界で最も狂犬病の犠牲者が多い国です。犠牲者は年間2万人ともいわれています。「逃げなければ!」と、私は走り出しました。後ろを振り向く余裕も勇気もなく、ただ走りました。このときのダッシュは自分史上最速だったと思います。それまでも様々な国で仕事をしてきましたが、生きて帰国できないかもしれないと考えたのはこの時が初めてでした。今までがラッキーだったのかもしれません。

そのとき、後からバイクの音が聞こえてきました。猛スピードで私の隣に並び「乗りなさい」と私に合図をしました。バイクに乗っていたのは見ず知らずのインド人のおじさんです。しかし、この状況ではこのおじさんを信じる以外に犬から逃げる方法はありません。バイクの後ろに乗った途端におじさんはスピードを上げ、犬に追いつかれる前に逃げることができました。おじさんにお礼を言い、すぐにドライバーへ電話をかけ迎えに来てもらいました。

 

緊急事態における判断力

追いかけてきた犬が狂犬病にかかっていたのかどうかは見た目ではわかりませんでしたが、インドの犬は狂犬病の罹患率が多いとの情報が頭にあったのでとにかく逃げました。でも、もしバイクのおじさんが完ぺきに悪い感じの人に見えていたら、私は瞬時にバイクに乗れたでしょうか?もしかしたら、犬が狂犬病ではないかもしれないという希望的観測のもと、バイクには乗らず犬にかまれる方を選んだかもしれません。

可能性は4通り、私はおじさんを信用してバイクに乗り、結果、犬からは逃げることに成功しました。私を助けにきてくれたおじさんは普通の良いインド人で、彼のおかげで助かったのですが、見ず知らずの人のバイクに乗ることは通常ありえません。もし、良いおじさんではなかったら、そのままバイクで連れ去られるという可能性もありましたよね。

そのエリアの安全度は、自分で調査し、自身の経験と知識を総動員して判断をくだすことで初めて量れるのです。セキュリティ担当としては情けないのですが、現地のドライバーの話や、車を降りた現場の雰囲気によって「安全そうだ」と主観的に判断した結果、こうした事態を招くことになりました。犬は私を見てダッシュしてきたので、現地の人々にとっては平気な場所が外国人である私にとっても平気な場所であるとは限らないということを学びました。そして自分自身が巻き込まれた緊急事態においては、瞬時に適切に判断をすることがどれほど難しいかということを経験しました。今こうして生きているので、その時の判断はベストだったのだと思います。いえ、今回もラッキーだったという方が適切でしょう。

ビッグイベントには様々な想定外がつきものです。今年、来年と日本では多くのビッグイベントが続きます。想定外の事態に自分が巻き込まれたら…と、日々考え、瞬時に最善策を導き出すための訓練が自分の身を守るために重要なのです。

この一件以降、私は治安情報や安全対策については自身の目と耳と足で確認をするくせがつきました。読者の皆さまも、セキュリティに関してはうわさや人づて、メディアやネット任せにしないようにしてください。自分の身を守ることができるのは自分だけなのですから。

(了)

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