『7袋のポテトチップス』湯澤規子著 日本人の食の変遷

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 放課後、自宅に集まった少年7人は各自持参した1袋のポテトチップスを誰とも分け合うことなく、それぞれ食べ続けた。近世から現代に至る食の変遷を追った著者は、息子らが見せたこの光景に日本の食文化の行き着く先を見た。すなわち他人に開くことなく、完全に個に閉じた食のあり方だ。

 統計データのほか小説や伝記、家族の体験談を駆使しながら素描される食の200年。「直会」に象徴されるように近世では地域や先祖、神様につながる行為だった食が近代に入って家庭と結び付く。家族そろっての食事はちゃぶ台が登場した大正期以降、会話を伴う食事が普及するのは食卓がテーブルに移行する戦後というのだから驚きだ。

 特に生き生きと記されるのが激動の戦後だ。戦争による飢えを経て高度成長期末、国民栄養調査から栄養欠乏の項目がなくなり、肥満調査が始まる。飢餓から飽食への転換である。高度消費社会が進む1990年代以降、食から地域や社会の風景は消え失せ、「個食」「孤食」が叫ばれるようになる。

 原因は家族の崩壊や個人主義の台頭だけではない。ここには人や社会、自然、見えない世界と「共に在る」感覚の消失という文明的転換があるとして、著者は食を通じた「共在感覚」の回復を訴える。

 登場する有名無名の人々の食に関わる自分史が論考に深みと味わいを与えている。読者は世代に応じて自身の体験と重ねて読むに違いない。そしていつもとは少し違った気持ちで今日の食事に向き合うだろう。

(晶文社 2000円+税)=片岡義博