【特集】東京芸術大(東京都台東区)が2019年4月から、戦時下の音楽学生の記録データを収蔵・公開するウェブ資料館「声聴館」を開設した。「記録からも記憶からも消えてしまいかねない学生の存在」を少しでも知ってほしいという取り組みだ。遺族らの手元にあった4人の譜面をベースに、東京芸大は2017、18年に「戦没学生のメッセージ」というテーマで演奏会・シンポジウムを開催。動画を含め、当時の学生たちの「生きた証」をネット上でも紡ごうとしている。(共同通信=柴田友明)
ウェブで紹介されているのは、東京芸大前身の東京音楽学校に在籍した鬼頭恭一さん、葛原守さん、草川宏さん、村野弘二さんの4人。同大ではこれまで演奏会で4人の作品20曲以上を紹介、14曲が「戦没学生のメッセージ~戦争に散った若き音楽学徒たち」というタイトルのCD(制作 ディスク クラシカ ジャパン)に収録されている。
4人は終戦の年、1945年に亡くなった。
作曲専攻の鬼頭恭一さんは旧海軍の霞ケ浦航空隊に入り、開発途上のロケット戦闘機「秋水」で飛行訓練中に死亡。ピアノ専攻の葛原守さんは台湾で戦病死した。草川宏さんは童謡「夕焼小焼」で知られる作曲家草川信さんの長男、フィリピンルソン島バギオで戦死。出陣学徒演奏会で作品発表した村野弘二さんはルソン島マニラで終戦を知らされず8月21日に自決したとされる。
遺稿集「きけ わだつみのこえ」(岩波文庫)など、学徒出陣して亡くなった方々の記録はさまざまなスタイルで残されている。
美術畑の戦没学生の作品を対象にした長野県上田市の「無言館」(1997年開館)という美術館がある。戦争で亡くなった画学生約130人の作品約700点が収蔵されている。
音楽学生については譜面の再現に時間がかかり、作曲者の意図を正確に読み込んでいくのに多くの時間を要したという。東京芸術大はウェブ資料館「声聴館」の内容をさらに充実させ、今年も演奏会を行うことを検討している。
【東京芸大のウェブ資料館・声聴館URL】