【MLB】3つの広がりを獲得したスライダー…菊池雄星、“聖地”での快投を支えたもの

ヤンキース戦で今季2勝目を挙げたマリナーズ・菊池雄星【写真:Getty Images】

「組み立ての妙」が奏功、敵地ヤンキース戦で8回途中3安打1失点の好投

■マリナーズ 10-1 ヤンキース(日本時間9日・ニューヨーク)

 マリナーズの菊池雄星投手が8日(日本時間9日)の敵地ヤンキース戦で、8回途中までを3安打1失点に抑える好投で今季2勝目を挙げた。8人の右打者を揃えた相手打線を6回1死まで無安打に封じる投球は、立ち上がりにつまずきかけた直球主体を切り替えた「組み立ての妙」が奏功したものだった。

 潔さが自分の投球を引き出していった。

 1回裏の立ち上がり。直球で押していく意識が明らかに見えた。1番ラメイヒューを四球で歩かせた投球は6球のうち5球がそれだった。前回3日(同4日)のインディアンス戦でメジャー自己最速の97マイル(約157キロ)を計測し自信を深めた軸球が、この日は精度を欠きばらついた。

「僕自身も追いかけ過ぎてちょっとブルペンから力みがちで、そのままの流れで初回入ってしまって。もう今日は真っ直ぐは諦めようと初回で感じて。カーブ、スライダーに切り替えました」

 スライダーを軸として今季最も多い26球のカーブを配し、チェンジアップも最多の10球を組み込みヤンキース打線を翻弄。春のキャンプで「自分の投球の70%を占める直球とスライダーを磨いていく」と話した得意球は、前々回4月26日の“1イニング限定先発”で、カウントを稼ぐものと三振を奪うものとを分ける指先の力加減を調節するコツをつかんだ。さらに、3日の登板では「日本時代には1度も投げたことがない」という右打者の外角を狙うバックドアに挑戦し三振も奪った。3つの広がりを獲得したスライダーを自在に操れるようになったことが、今季2勝目を導いた。

3年前に訪れたヤンキースタジアムで2勝目「正直、イメージはできなかった」

 そのスライダーは仲間投手からも注視されている。

 登板前日の7日(同8日)だった。菊池はブルペン入りしていた若手右腕エリック・スワンソンにスライダーの握りとリリースを伝授した。依頼したポール・デービス投手コーチは「腕の振りは違っても切れ味のいいスライダーを投げるユウセイにアドバイスをしてもらいたかった」と経緯を説明。4月11日(同12日)にメジャーデビューを果たした25歳の右腕は満面の笑みをたたえ振り返った。

「大きく曲げようとして手首を動かさないことを教えてもらった。小指をキャッチャーに向けて立てること。その意識で指を使うということがとても参考になったね。僕がこれまで思ってきたこととは違っていたから、そりゃ新鮮だよ」

 序盤での失点が続き、球数がかさみ試合中盤までを投げ切れない登板もあったが、苦境を乗り越え輝き出した菊池に寄せられる信頼は高まる一方だ。

 菊池は言う。

「いろんな引き出しが僕の中でも毎試合増えているなぁというのは感じます。そこを監督、コーチやキャッチャーも認識してくれて配球も少しずつ変わってきてるのを感じます」

 西武時代の2016年9月28日、菊池はシーズン最終戦で日ハムの大谷翔平(現エンゼルス)と本拠地で投げ合うと、試合後に成田空港に直行。翌日の早朝便でエコノミー席に身を沈め米国へ到着し、ヤンキースタジアムで宿敵ドソックスとの試合を2日続けて観戦。目の当たりにした熱い戦いはメジャー挑戦への意識を昂ぶらせた。その3年後、菊池は聖地のマウンドで躍動した。

「3年後にこうやっていいピッチングができていると正直、イメージはできなかったですけどね。良かったと思います。自分のボールを日本で投げていたボールに戻すことが早い段階でできたのが一番大きい」

“聖地”で投げた今季最多の106球にはいくつもの思いが籠っていた。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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