被災水田が全面再開 阿蘇市

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田植え機を走らせて苗を植え付ける農家=阿蘇市

 熊本地震による水田被害の3割が集中した阿蘇市ではことし、全ての農地で営農を再開する。被災農地を借り上げる市独自の制度が、復旧工事を加速化させたという。5月上旬、平野部より1カ月早いコメの作付けが始まり、あちこちで田植え機が行き来している。

 3月に工事を終えたばかりの内牧地区。岩下雄治さん(66)は、被災した60㌃の田んぼに、4年ぶりに水を張った。田植えの準備だ。「なかなか着工が決まらずに心配したが、これでようやく地震前の暮らしに戻れた気がする」。そう話すと早苗を次々と田植え機に積み込んだ。

 市では、西側を中心に陥没が相次ぎ、農地260ヘクタールや用排水路、農道などが被災した。このうち大規模陥没した狩尾地区などの約63ヘクタールは県が直轄で工事を進め、昨年春に完了。残りは市が工事を発注したが、入札不調が相次いだ。

 市農政課は「公共工事に加え住宅工事も集中したことが要因」とみる。ソバや大豆に転作する農家も多く、工事は休耕期に限られたことも響き、18年1月時点の工事完了率は11・4%にとどまっていた。

 このため市は同年2月、被災農地約48ヘクタールを借り上げ、休耕期以外も工事を進める方針を決定。1ヘクタール当たり32万円の借り上げ料は、県の復興基金を充てた。1・4ヘクタールの借り上げに応じた同地区の農業岩下勇人さん(66)は「陥没が大きくて代わりの作物も作れず、困っていた。借り上げ料は工事費の自己負担分の足しになる」と喜ぶ。

 被災農地の借り上げについて、「市の場合は被害箇所がまとまっていたため有効だった」と市農政課。「災害査定は農地より土木被害が優先される。農家の生活に直結する農地は、査定の簡素化などの対応も必要ではないか」と指摘する。

 阿蘇地域では、産山村も昨年、同様の制度を設け、復旧はほぼ完了。一方、被害の大きかった南阿蘇村は、立野地区などで農業用水を確保できず、今年も作付けできないという。(中尾有希)