「去年みたいに悔しい思いはしません」DeNA2年目外野手が明かす必死な思い

取材に応じたDeNA・楠本泰史【写真:松橋晶子】

2年連続で開幕1軍の楠本泰史、1年目に得た手応えは「1つもありませんでした」

 花咲徳栄高から東北福祉大、そしてDeNA入り――。傍から見れば、野球のエリート街道を歩んできたが、2年目外野手・楠本泰史は自身について「本当に力量があるスター選手ではない」と話す。ルーキーイヤーから2年連続で開幕1軍を勝ち取っても、その事実で自信が増すことはない。楠本の胸の内にあるのは「必死で食らいついくしかない」という思いだけだ。

 中学時代には日本リトルシニア野球選手権大会で優勝し、花咲徳栄高では3年春に選抜出場。東北福祉大では1年生からレギュラーとなり、首位打者、本塁打王、打点王にも輝いた。侍ジャパン大学代表にたびたび選出された才能を持つが、プロ1年目だった昨季は「手応えは正直なくて、何が上手くいったとか、これが通用するんだろうなって思った部分は1つもありませんでした」と振り返る。

「プロの世界に1年でも長くいらっしゃる方は全員が先輩。全員が自分より野球が上手いと思っているので、
そういう人たちに勝つには並大抵の努力や浅はかな考えではいけないと分かって入ったつもりだったんです。それでも、野球の技術や精神面、全ての面において、まだまだ力足らずだなと感じる毎日で、本当に必死でその差を埋めることに精一杯でした」

 2018年は開幕戦に代打として1軍デビューしたが、4月15日にはファーム降格。その後は1軍とファームの行き来を繰り返した。「毎回毎回ファームに行くたびに本当に悔しい思いをした1年だった」というが、同時に野球と真摯に向き合う時間も過ごした。

「今までこんなに野球について考えながら毎日を送っていたかなって思うくらい、常に野球のことを考えながら生活していました。休みの日でも頭を使ってしまう。学生の時も考えることはありましたけど、本当に頭を悩ませる経験は初めて。でも、これを乗り越えないと1軍では活躍できない。今、1軍で活躍されている方もこれを乗り越えてきた。野球で生活していくんだって自分で腹を括ったんだったら、野球としっかり向き合っていこうと思ったんです」

取材に応じたDeNA・楠本泰史【写真:松橋晶子】

外野のポジション争いの鍵は「泥臭さ」

 DeNAは外野の選手層が厚く、熾烈なポジション争いが繰り広げられている。不動の左翼は、主将で主砲の筒香嘉智。中堅と右翼のポジションを狙うのは、楠本に加え、神里和毅、桑原将志、佐野恵太、梶谷隆幸、関根大気、そしてN・ソトら錚々たる面々だ。この中でどうやって勝ち抜いていけばいいのか。楠本は「泥臭さ」が鍵になると考えている。

「筒香さんのパワーには勝てないし、神里さんのスピードにも勝てない。一人一人比べていくと、先輩たちに勝っている部分が見つからないのが現状なので、何とか食らいつくしかないですよね。試合に出たら粘って出塁するとか、何かを印象に残ることを起こすとか、泥臭さを出さないと。そうやって監督に使いたいと思ってもらえる選手を目指さないと」

 楠本は「何とか食らいつく」「必死でやるしかない」と何度も何度も繰り返すが、その顔に悲壮感が漂うことはない。むしろ、課されたチャレンジの大きさに目を輝かせている様子すらある。それというのも「自分より野球が上手な方と毎日野球ができるなんて、すごく幸せなこと」だと感じているからだ。

「自分より優れている方ばかりなので、話を聞きにいくこともありますし、練習する姿を見て『こういう風に考えてやっているのかな』と自分なりに分析して練習方法を真似することもあります。1軍で活躍されている選手ほど、見えないところでしっかり練習しているし、人に流されずに自分をちゃんと持っている。そういう選手と野球をすることは、自分にとっていろいろなことを吸収できるチャンス。見て学ぶ、聞いて学ぶっていうことは、恥ずかしがらずにやっていきたいと思っています」

ベイスターズジュニアから10年後にDeNA入り「本当に感慨深い」

 小学6年生の時、横浜市内の同じ小学校に通っていた松井裕樹(楽天)とベイスターズのジュニアチームでプレーした。それから10年後、ベイスターズにドラフト8位指名され、子供の頃に夢見たプロのユニホームに袖を通し、「本当に感慨深いものがあります」と話すが、そこがゴールではない。かつて、自身が憧れた三浦大輔1軍投手コーチのように、今度は自分が子供たちに夢を与える存在になる。

「プロの世界は、自分の努力次第で超一流までいった選手もたくさんいる。僕も本当に力量があるスター選手ではないので、自分の頑張り次第で1軍で活躍できる選手になれるんだよっていう姿を見せられるように、一生懸命頑張っていきたいと思います」

 東北福祉大野球部で主力としてプレーする弟・晃希(3年)からも刺激を受けている。幼い頃から一緒に野球を続けてきただけに、「ちょっとした変化にも気付いて、いい時も悪い時も『こんな感じだよ』って客観的に外から一言入れてくれる」貴重な存在だ。家でバッティング練習をするため、バドミントンの羽根を投げ続けてくれた両親への感謝の気持ちも忘れない。空気抵抗で揺れるバドミントンの羽根をバットに当て続け、定評あるバットコントロールを手に入れた。

 今年の目標を「1軍に居続けること」と掲げ、「去年みたいに悔しい思いはしません」と話してから間もなく、5月3日にファーム行きを命じられた。この時感じた悔しさは、おそらく去年の比にならないほど大きかっただろう。その悔しさをエネルギーに変え、1軍再昇格を果たした時には最後までしがみついていられるように、ファームでレベルアップを図りたい。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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