
百貨店の従業員などを装ってお年寄りからキャッシュカードをだまし取り、現金を盗んだとされる特殊詐欺事件で、広島県警が摘発した詐欺グループの実態が公判などを通して明らかになってきた。中国・吉林省から広島の高齢者に電話をかけ、日本国内の「受け子」や「出し子」にカードの受け取りや現金の引き出しをさせていた。暴力団組員も関わっていたとみられ、国境を越えた組織的な犯行の構図が浮かぶ。
▽中国人が指示役/組員も関与か
県警は、県内で起きた8件の事件に絡み、だまされた高齢者からカードを受け取る「受け子」や、カードで現金を引き出して盗む「出し子」ら6人を逮捕した。「受け子」だった広島市安佐南区長束5丁目、無職森上晃宏被告(39)=広島地裁で懲役5年6月の判決、控訴=の公判では、共犯者の証人尋問もあり、実態が浮かび上がった。
▽アプリ使い伝達
詐欺の電話をかける「かけ子」だった大阪府の男(44)は、中国・吉林省の建物の一室で、インターネット回線を使うIP電話で広島市南区の70代女性方などに電話し、「あなた名義で不正に高価な商品が購入されている。キャッシュカードを回収する必要がある」などとうそを告げていた。信じた女性の住所などを、指示役の中国人の男が、広島県内で待つ森上被告らに中国発の無料通信アプリ「ウィーチャット」で伝達。森上被告に対し、スーツ姿で女性方に行き「全国銀行協会のナカタ」と名乗ることなどを指示していた。
中国にいる「かけ子」の男は、森上被告が女性方に着くまで詐欺と気付かれないよう女性と電話で会話を続けていた。到着した森上被告が女性からカードを受け取ると、車などで待機する「出し子」の少年(19)らにカードを渡し、少年らは近くのコンビニなどの現金自動預払機(ATM)から出金。その後、中国人の男の指示でJR広島駅から新大阪駅へ向かい、外国人の男に現金を渡していたという。
▽並ぶマニュアル
「かけ子」の男は、森上被告の公判の証人尋問で「中国のアジトには被害者をだます文言が書かれたマニュアルや名簿が並んでいた」「日本人や中国人計約20人が次々と電話をかけていた」などとも証言。「出し子」だった少年は、共犯者として逮捕された福岡県内の暴力団組員内屋一郎被告(43)らの指示を受け、自宅のある神奈川県内から広島に来ていたという。出金した現金の一部を報酬として得たとし「土地勘がないため、森上被告にATMのある金融機関を案内してもらった」とも明かした。
特殊詐欺では、犯行拠点をタイなど海外に置くケースが目立つ。特殊詐欺に詳しい福山大人間文化学部の平伸二教授(犯罪心理学)は今回の事件について「中国にアジトを置き、役割を細かく分担することでグループの全体像をつかみにくくしたのだろう」と話す。被害金を「出し子」から回収した外国人や指示役の中国人の摘発には至らず、金の流れは解明されていない。中国人らに渡っていた可能性もあるとみられる。
≪事件の概要≫広島市南区の70代女性が2016年10月、百貨店従業員などを装う男の電話でだまされてキャッシュカード5枚を詐取され、317万円を引き出された。広島県警は18年1月、女性からカードを受け取ったとして森上晃宏被告を詐欺と窃盗の疑いで逮捕。森上被告は仲間と共謀して16年10月、この女性を含む県内の70〜90代の女性7人からカード23枚をだまし取り、計722万円を盗んだなどとして今年3月、広島地裁で懲役5年6月の判決を受けた。県警は一連の事件で「出し子」の男3人と、「出し子」を手配したとされる福岡県内の暴力団組員内屋一郎被告(43)、神奈川県内の男(41)の計5人も逮捕した。