ヨーロッパ・ラリー選手権第2戦:ジュニアクラスから参戦の若手が初優勝。王者は2戦連続の不運

 若手有望株がWRC世界ラリー選手権昇格を目指して多数参戦するERCヨーロッパ・ラリー選手権の第2戦ラリー・イソラス・カナリアスが5月3〜4日に開催され、王者アレクセイ・ルキヤナク(シトロエンC3 R5)とのバトルを制した、ERC1登録のぺぺ・ロペス(シトロエンC3 R5)が総合首位でラリーを制し、うれしいERC初優勝を飾った。

 北大西洋に浮かぶスペイン領カナリア諸島で最大の面積を誇る島、グランカナリア島のワインディングロードを舞台に争われるラリー・イソラス・カナリアスは、ERCを代表する名物イベント。

 2019年大会は、デイ1から”ロシアン・ロケット”の異名を取るカナリア3連勝中の2018年王者ルキヤナクと、2018年までのERCジュニアU28からERC1へと名称を変えたクラスで参戦登録する新鋭とのバトルで幕を開けた。

 SS1、SS2と先手を取ったのは、元プジョー・ジュニア・アカデミー出身のロペスで、2019年はファクトリーバックアップを受けるシトロエン・ラリー・チームのC3 R5をドライブしてラリーリーダーに躍り出ると、今季からセインテロックに移籍して同じくC3 R5にスイッチした王者も底力を見せ、続く24.1kmのラリー最長ステージでのベストでわずか4.7秒差ながら首位を奪還。

 しかしデイ1最終となった、島北部ラス・パルマスでの2.9km最終スーパーSSでは、この短い競技区間でロペスがふたたび強烈なスピードをみせ、ルキヤナクとのギャップを2.5秒も削り取り、わずか3.8秒差の総合2番手で初日を終える印象的な活躍を演じた。

「依然としてロペスはかなり近い位置にいるが、彼は本当にクレイジーな速さだ。とても良い仕事をしている」と、王者ルキヤナクもERC1登録のヤングスターを称賛する。

「その他のドライバーたちとは少しマージンが築けた。でも、今日は最初のSSのあとに『我々はさらにプッシュする必要がある』と感じたんだ。昨年はプレッシャーのなかでも冷静さを維持できて、秒差をコントロールしたり詰めたりするのがもっと簡単だった」

「でも今年はなぜだか分からないが、昨季より苦労しているし、我々よりも速いドライバーがいる。(フォード・フィエスタR5からスイッチした)僕たちはまだ新しいマシンとタイヤを学んでいる最中、ということなのかもしれないね」

 一方、チャンピオンと同じC3 R5をドライブするロペスは「もちろん、彼の方がドライバーとしてより経験豊富なことは認めなくてはならない」と謙虚な姿勢を見せた。

「僕たちはファクトリーチームとして同じ道具を使う相手に負けたくないとは思っているけど、今はシトロエン・エスパーニャの目標に集中すべきだ。もちろんERCの総合優勝を狙って戦いたいけど、どうなるかは見てみないとね。ともあれ、僕らのC3 R5の競争力はとてつもなく高いし、シトロエンはそのことを誇りに思うべきだ」とロペス。

2019年は心気一転、Saintélocに移籍しシトロエンC3 R5をドライブする王者アレクセイ・ルキヤナクだったが……
WRC2でも好成績を残すイギリス人のクリス・イングラムは手堅いラリー運びで2位
デイ2オープニングで王者にまさかのアクシデント。これでロールオーバーの開幕戦に続いてのリタイヤに

 そのロペスの言葉とスピードが無意識下での重圧になったか、明けたデイ2オープニングとなるSS5で、チャンピオンがまさかの失態を演じる。

 ロペスがこのSSでもベストタイムを記録する一方で、ルキヤナクはステージ中盤の左コーナーでイン側をカットした際に、フロントをヒットしてタイヤとサスペンションを破損するアクシデント、開幕戦に続きトラブルで戦列を去ることになってしまう。

 これでライバル不在となり大きなマージンを得たロペスは、マージンを管理する走りに切り替えて残るSSを走破。2番手を走行していた同じくERC1登録の有望株、トクスポートWRTのクリス・イングラム(シュコダ・ファビアR5)とのギャップを28.5秒も残して全8ステージを走りきり、スペイン人として2007年以来となるERC勝利を手にした。

「本当に、本当にうれしい瞬間だ。シトロエン・レーシングとチームのメンバーに感謝の言葉を捧げたい。昨季は出場機会も満足に得られず、キャリアのうちでもっとも困難な時期だったが、こういう状況で勝てたことは本当に重要な意味を持つよ」と、喜びを語ったロペス。

「アレクセイとはいい戦いをしていたので、2日目最初のステージで終わってしまったのは残念だった。僕は良いスプリットタイムを刻んでもいたしね」

「30秒以上のマージンを手にしたときは”心のペースノート”を保つのが本当に難しいんだ。道の上に留まって、ただドライブすることだけに集中した。それを成し遂げて、この瞬間を迎えられて最高だよ」

 一方、デイ2終盤までERCジュニア2冠のマリアン・グリーベル(シュコダ・ファビアR5)がイングラムと2位の座を争う好走を見せていたが、クラッチのトラブルやパンクなど相次ぐトラブルに見舞われ9位に後退。最終的にイングラムの背後3番手には、開幕戦で初勝利を挙げたウカシュ・ハバイ(シュコダ・ファビアR5)が入っている。

 続くERC第3戦は5月24〜26日のラリー・リエパヤ。もともとはスノーイベントとして行われていたが、2016年からグラベル(未舗装路)戦へと移行した1戦だ。

 2019年は開催時期が5月下旬に移されて最初の開催。シリーズは島しょ部連戦から一転、ラトビア西部の高速グラベルステージでのバトルが展開される。

2007年のエンリケ-ガルシア・オヘダ以来のスペイン人ウイナーとなったぺぺ・ロペス(右)が、同じくERC1登録のイングラムから祝福を受ける
上位勢の脱落にも乗じて、開幕戦勝者のポーランド人、ウカシュ・ハバイが連続表彰台を獲得した
シトロエンC3 R5に乗るもうひとりのスペイン人エマ・ファルコンも、レディス・トロフィーを制している

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