オープニングラップの3者並走の名勝負、バルセロナテスト時の勢いを失ったフェラーリ【今宮純のF1スペインGP分析】

 2019年F1第5戦スペインGPは、メルセデスのルイス・ハミルトンが逆転優勝しチームの1-2記録をさらに更新した。F1ジャーナリストの今宮純氏が振り返る。

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 記録がいまつくられている。誰も見たことがなかった開幕からの5戦連続“チーム1-2”、メルセデスは217ポイントを獲得。昨シーズンは全21戦で655点、その3分の一を早くも序盤に得たのだ。チャンピオンシップ戦線のはるか彼方を矢のように飛ぶシルバーアロー——。

 土曜はバルテリ・ボッタスが3戦連続PPを0.634秒の大差で決めた。自身9回目だがいままでは2位ハミルトンに0.059秒差(8回目)、0.023秒差(7回目)という微差だった。この完璧なアタックラップでは1コーナーに深く飛び込み、2~4コーナーまで“修正ステア”はほとんど無かった。セクター2の難所、高速9コーナーは全開で通過、ヘアピン10コーナーもスムーズ。セクター3の中速エリアもシケインもまったくレールの上を行くようだ。

 Q1からQ3で1.513秒アップしたボッタスに対し、ハミルトンは1.252秒アップにとどまった。Q2よりQ3は0.002秒ダウン、「トラフィックの影響などがあったから」と言う。それをそのまま受けとめれば、この2番手は“大差”ではなく“小差”だったことになる。

 ここでもフロントロウふたりによる1コーナーまでのドラッグレースになるのは必至。フォーメーションラップの蹴りだしはぴったりに見えたボッタスだったが……。

 スタートで勝負にいくしかないと3番手セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)は賭けていた。PPグリッドからボッタスの蹴りだしは伸びず、加速力も鋭くなく左にベッテル、右にハミルトンに並ばれた。このストレートでは左側がレコードライン、右側はオフラインだがピットアウト時のラインであり、路面グリップはそれなりにある。2012年、当時フェラーリに所属していたフェルナンド・アロンソは2番グリッドからこのラインを加速、見事に1コーナーを奪っている。

■ノータッチで駆け抜けた三者三様の共演

 3者並走の横一線、アウトにいたベッテルはブレーキングを遅らせ右前輪がロック。インにはハミルトンがいてサンドイッチ状態になったボッタス。選択肢は一つだ。チームプレイヤーとしてインには行けない(接触は許されない)。ミラーの視界外から急に現れたアウトのベッテルにからんだら終わりだ。ブレーキングするしかない。それぞれあのポジション関係では、ハミルトンにはボッタスの向こうにいるベッテルは見えていなかったはずだ。

2019年F1第5戦スペインGP 決勝スタート直後に並んだハミルトン、ボッタス、ベッテル

「クラッチ系の振動が起きていた」と言うボッタスはドラッグレースに先行できず、ベッテルの動きにもしばられた。ハミルトンはある意味ベッテルがアウトでぎりぎり踏ん張ったプレーによって、ボッタスから最初のコーナーを奪えた。この三者だからこそ魅せたノータッチの『競演』、1コーナー攻防がこの日最初で最大の見どころだった。

 トップのハミルトン、2番手ボッタス、3番手マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)、4番手ベッテル、5番手シャルル・ルクレール(フェラーリ)、6番手ピエール・ガスリー(レッドブル・ホンダ)。1周目と同じオーダーのまま66周レースは終わった。

 いったいオフのフェラーリの速さはどこへ行ったのだろうかーー。開幕前のバルセロナテスト初日に圧倒的な速さを見せたSF90がニュースを独占。それに比べ、最終日にハミルトンがアップデートされたW10で驚異タイムをたたき出した事実は、あまり注目されなかった。ベッテル1分16秒221に0.003秒差の1分16秒224、夕方最後の時間帯にメルセデスはフェラーリに追いついたのだった。

■低速コーナーのモナコGPは、ライバルたちにもチャンスあり

 セクター1と2はベッテル、セクター3ではハミルトンが最速タイム。「ここが速いのはリヤのダウンフォースがあるからかな。オーストラリアのコースは向いているかも……」。いま思い返すと2カ月半前、3月1日バルセロナテスト最終日の夕方に<1強シーズン>の予兆があった。

 セクター1と2はベッテル、セクター3ではハミルトンが最速タイム。「ここが速いのはリヤのダウンフォースがあるからかな。オーストラリアのコースは向いているかも……」。いま思い返すと2カ月半前、3月1日バルセロナテスト最終日の夕方に<1強シーズン>の予兆があった。

 開幕からパーフェクト1-2のメルセデス5連勝は絶対記録だ。ちなみに2004年フェラーリが開幕戦オーストラリアGPからスペインGPまで5連勝。1992年にはウイリアムズ・ルノーが開幕戦南アフリカGPからサンマリノGPまで5連勝した(1-2フィニッシュではないが)。そしてどちらも迎えた第6戦モナコGPで連勝が止まった。止めたのは2004年がルノーのヤルノ・トゥルーリ、1992年はマクラーレン・ホンダのアイルトン・セナ。そう「セナ対マンセル」大逆転のあの伝説のレースだ。

 今年の第6戦モナコGPには特別な見どころがある。記録がさらにつくられるのか、それとも新たな伝説がうまれるのか。2014年のメルセデスは、第6戦モナコGPまで6連勝の強さを見せていたが、パーフェクト1-2ではなかった。少しずつメルセデスチームには、連勝記録を意識するプレッシャーがかかってきているに違いない。1988年に開幕11連勝(全16戦15勝)のマクラーレン・ホンダでさえ、しだいにそういう心理になっていったと聞いている――。

2019年F1第5戦スペインGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

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