2018年「全国新設法人動向」調査

 2018年(1-12月)に全国で新しく設立された法人(以下、新設法人)は12万8,610社(前年比2.7%減)で、2009年以来、9年ぶりに前年を下回った。
 地区別では、東北の新設法人数が4,549社(同12.9%減)と、減少幅が突出した。2011年3月の東日本大震災以降、東北の新設法人数は概ね増加傾向をたどったが、2017年から一転して減少。震災の被害が甚大だった宮城県(同19.2%減)、福島県(同15.1%減)などで減少が目立ち、復興需要のピークアウトを印象付けた。
 産業では、建設業が1万3,595社(同25.6%減)と個別業種で最大の減少幅となった。震災復興やオリンピック特需、都市部のマンション・オフィルビルの建設ラッシュなど、広がりを見せた建設市場を背景に新設法人は増え続けていたが、市場の先行きを反映する兆しか注目される。

  • ※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象345万社)から、2018年(1-12月)に全国で新しく設立された法人を抽出し、分析した。

2018年の新設法人は前年比2.7%減、9年ぶり減少

 2018年(1-12月)の新設法人は12万8,610社(前年13万2,291社)で、リーマン・ショック後の2009年以来、9年ぶりに減少した。2017年は調査を開始した2007年以降、初めて13万社を超えたが、2018年は一転して9年ぶりの減少となった。
 一方、2018年の休廃業・解散は過去最多の4万6,724社(前年比14.2%増)に達した。新規参入の企業が減少し、企業の新陳代謝は「少産多死」の厳しい状況となった。

新設法人年次推移
新設法人、休廃業・解散、倒産件数の年次推移

資本金別、1百万円未満の小規模法人が増加

 2018年の新設法人を資本金別では、増加は「1百万円未満」が2万9,419社(前年比1.4%増)、「1千万円以上5千万円未満」が5,746社(同0.4%増)だった。これ以外の区分はすべて減少した。「1億円以上」は506社(同13.2%減)と大幅に減少した。
 「1千万円未満」の少額資本金(その他除く)の新設法人は11万420社(前年比2.2%減、構成比85.8%)だった。2006年の会社法施行による最低資本金制度の廃止が浸透し、構成比は9割近くにまで達している。

資本金別新設法人

産業別、建設業と不動産業が大幅減

 産業別では、10産業のうち、6産業で前年より減少した。減少率トップは、建設業(前年比25.6%減)で、2017年は前年比11.2%増と高い増加率だったが、一転して全産業で最も減少した。次いで、卸売業(同8.9%減)、不動産業(同3.1%減)と続く。
 不動産業も2017年は同11.6%増と高い増加率だったが、減少に転じた。女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」問題で不正な融資の申し込みスキームが明るみになり、金融機関が不動産業との取引に慎重になったことが影響した可能性もある。
 増加したのは、運輸業(同20.6%増)、金融・保険業(同12.7%増)、情報通信業(同11.9%増)、サービス業他(同0.8%増)だった。運輸業は、慢性的な人手不足やインターネット通販の浸透による物流増で、小口宅配のニーズが高まったほか、一部で請負単価の上昇も好感されたとみられる。ただ、大手物流業者は労働環境の改善が進むが、下請けは業務量や労働時間などでシワ寄せを受けている。今後も市場が拡大し、新設法人も増加をたどるには業界全体で待遇改善に取り組むことが必要だろう。

産業別新設法人

地区別、9地区中8地区で減少

 地区別では、全国9地区のうち、北陸を除く8地区で前年を下回った。減少率トップは、東北の前年比12.9%減(5,228社→4,549社)。東日本大震災以降、震災復興に向けて新設法人が増加をたどっていたが、2017年に減少に転じ、2018年はさらに減少幅が大きく広がった。
 次いで、中国の同5.0%減(4,839社→4,596社)、九州の同4.5%減(1万3,321社→1万2,720社)と続く。
 唯一増加した北陸も1.5%の増加(1,784社→1,812社)にとどまった。

地区別新設法人

都道府県別、38道府県で前年を下回る

 都道府県別の新設法人数は、東京都が4万926社(構成比31.8%)で最も多かった。全体に占める構成比は3割を超え、2018年の新設法人のうち、3社に1社が東京都に本社を置いている。
 次いで、大阪府が1万1,562社(同8.9%)、神奈川県が8,128社(同6.3%)、愛知県が6,064社(同4.7%)、福岡県が5,315社(同4.1%)と大都市が上位に並んだ。
 これに対し、新設法人数が最も少なかったのは島根県の309社。次いで、鳥取県314社、高知県397社、秋田県412社、山形県458社、徳島県479社と続く。
 新設法人数の増減率は、38道府県で前年を下回った。減少率トップは、宮城県の19.2%減。東北経済の中心である仙台市を抱えるが、震災復興の息切れを示すものか動向が注目される。次いで、長崎県の15.4%減、福島県の15.1%減と続く。
 増加率トップは、福井県の8.4%増だった。福井県地域産業・技術振興課は「地場産業への支援を含め、継続した経済振興策が奏功した可能性がある」と話す
 新設法人数を人口で対比すると、人口動態も少なからず影響しているようだ。人口1人当たりの新設法人比率は、東京都や大阪府などの大都市圏、人口増が続く沖縄県が上位に軒並みランクインした。

都道府県別新設法人の人口対比

2018年新設法人の最多商号は「アシスト」、2017年トップの「ライズ」は急減

 2018年の新設法人で最も多かった商号は「アシスト」(前年4位)で、41社だった。英語の「assist」には「助ける、手伝う、力を貸す」などの意味が含まれており、協調を重んじる企業理念を表しているとみられる。
 一方、昨年トップだった「ライズ」は29社で9位に急落した。「rise」は「上昇する、飛び立つ、そびえ立つ」などを意味し、毎年上位にランクインしている。ただ、ランキングでトップになると翌年急減する「ジンクス」があり、今回も同様の結果となった。
 前年比較で最も増加したのは「NEXT」(18社→38社)の20社増。改元を控え、新時代への飛躍などを意図したとみられる。
 商号の文字種類別では、カタカナのみの商号が全体の約3割(構成比28.3%)を占める一方、英字のみも26.1%とカタカナのみに肉薄した。

新設法人商号

法人格別、「合同会社」が3万社に迫る

 法人格別の社数では、株式会社が8万7,527社(構成比68.0%、前年比4.8%減)と全体の約7割を占めたが、新設法人数は2017年より4.8%減少した。合同会社は2万8,940社(同22.5%、同7.3%増)で、初めて2万8,000社を超えた。合同会社は設立コストが安価なだけでなく、株主総会の開催が不要など経営の自由度も高く、メリットが浸透している。このペースで増加すると、2019年に3万社を突破する可能性もあるが、個人投資家が不動産投資の節税対策として活用していた部分もあり、このまま増加をたどるか先行きは不透明だ。
 次いで、一般社団法人が5,982社(構成比4.6%)、特定非営利活動法人(NPO)が1,732社(同1.3%)、医療法人が1,329社(同1.0%)と続く。
 一方、減少率トップは、社会福祉法人の前年比40.6%減。次いで、管理組合法人の同32.8%減、行政書士法人の同26.6%減と続く。

 2018年の全国の新設法人は12万8,610社で、9年ぶりに前年を下回った。
 政府は2013年6月に「日本再興戦略」を閣議決定し、開業率を欧米並みの10%台に引き上げることを目標に設定した。これを背景に、新設法人数は増加を続けてきた。だが、2018年は新設法人が減少し、休廃業・解散数も4万6,724社(前年比14.2%増)と過去最多を記録した。企業数が頭打ちに転じる事態に直面したことで、これまでの経済活性化を図る戦略は曲り角を迎えた。
 今回の調査で、建設業や不動産業の新設法人が大きく減少したことがわかった。建設業は、震災復興やオリンピック特需などの公共事業、都市部でのマンションやオフィスビルの民需に支えられてきたが、ゼネコン各社の利益に陰りが見え、ピークアウト感が鮮明になっている。
 不動産業も、ブームとなった不動産投資で金融機関から資金を調達するため「1物件1法人」と呼ばれる法人設立が横行。また、節税目的の投資も目立った。金融緩和で「貸出先不足」に悩む金融機関と、より高い利回りを求める投資家の利害が一致し、合同会社の設立を促したとの指摘もある。
 建設需要、不動産市況ともに政策に左右されている面が強く、新設法人の増加がどこまで景気を反映しているか即断できない。
 企業の「新陳代謝」が企業の自律的な動きを伴うためには、地域経済の強化は避けて通れないだろう。

© 株式会社東京商工リサーチ