【Brain Police Road to 50th Anniversary PANTA(頭脳警察)暴走対談LOFT編】第7回 町山智浩(映画評論家)×切通理作(評論家)【中編】 - ミチロウは山形大学の学園祭の実行委員をやっていて、頭脳警察を呼んでくれたんだよ。

『沈黙─サイレンス─』と『カムイ外伝』の奇妙な縁

──町山さんに伺いたいんですが、PANTAさんを始め、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙─サイレンス─』に出演した日本の俳優陣に対する海外のメディアの評価はどんな感じだったんですか。

町山:それは聞いたことないですねぇ…。あれはそもそもどんな経緯で出演することになったんですか?

PANTA:よく知らないんだよ。たまたまオファーが来ただけだから。

切通:事務所の人が一度断っちゃったんですよね?

PANTA:そうそう。せっかくのオファーを勝手に断っちゃってさ。

切通:その話を聞いた浅野忠信さんが「さすがPANTAさんはロックだ」と言ったとか(笑)。

──スコセッシ監督は何をきっかけにPANTAさんを知ったんでしょうね?

PANTA:わからない。撮影の合間、地面がぬかるんでいるのを見たスコセッシ監督が「1969年のウッドストックもこうだったんだよ」って言うから「I know!」って返事したよ。もちろんウッドストックなんて行ったことなかったけど、映画で観てたからさ。

町山:スコセッシはウッドストックの記録映画で撮影と編集をやってますからね。

PANTA:ああ、そうか。日本で『沈黙』の記者会見の後に懇親会があって、スコセッシ監督に「まさかあなたとウッドストックの話ができるなんて思わなかったし、自分の人生の宝物ですよ」と話したら返事もしてくれなくて、「それよりボブ・ディランなんだけどさ…」とか言うわけ。その頃ちょうどディランがノーベル賞受賞で大騒ぎだったから。「僕が彼の『ノー・ディレクション・ホーム』というドキュメンタリー・フィルムを撮りたいとオファーして、返事が来たのが2年後だよ!」って言ってたね。「2years! 2years!」って。でもまさか天下のスコセッシ監督とディランの話をするとは思わなかった。

町山:スコセッシは僕と会ったらゴジラの話をするでしょうね。あの人はすごいゴジラ・マニアだから。

PANTA:スコセッシはコッポラの紹介で黒澤明の『夢』でゴッホを演じた時に初めて日本へ行って、その撮影の合間に読んでいたのが遠藤周作の『沈黙』だったらしいね。

町山:『夢』で演出補佐をやっていたのがゴジラで有名な本多猪四郎監督だったんですよ。

切通:スコセッシが本多監督にサインを求めたんですよね。

町山:当時、スコセッシはキリストを題材にした『最後の誘惑』で叩かれていて、それで『沈黙』を読んで挽回を図ろうとしていたんですよ。そうやっていろんなことが全部つながってくるんです。そう言えば、PANTAさんが出演した『カムイ外伝』は脚本のクドカン(宮藤官九郎)からのオファーだったんですか?

PANTA:いや、監督の崔洋一から。『カムイ外伝』の本編に詳細は出てこないんだけど、島原の乱で原城に立て篭もった一揆勢の中で唯一の生存者だったと言われる山田右衛門作という南蛮絵師が俺の演じた絵師のモデルなんだよ。

町山:ああ、『沈黙』ともつながってくるわけですね。それはすごいな。

受難劇を下敷きにした映画『傷だらけのアイドル』

町山:そうそう、今日はPANTAさんにお土産を持ってきたんですよ(と、DVDを差し出す)。これは『傷だらけのアイドル』(原題『Privilege』)という映画で、版権がややこしいみたいで日本ではまだDVDになっていないんです。『勝手に覗くな!! 頭脳警察PANTAの頭の中レコードジャケット100選』という本のなかにもこの映画の主題歌の話が出てくるんですが、マンフレッド・マンのポール・ジョーンズが主演で、「Free Me」という主題歌も彼が唄っているんですよね。ちなみに、パティ・スミスも「Privilege (Set Me Free)」というタイトルでこの曲をカバーしています。

PANTA:すごく格好いい曲だからね。いつ頃の映画なんだっけ?

町山:1967年公開です。僕は子どもの頃に『月曜ロードショー』で見たんですが、すごい話なんですよ。近未来のイギリスが舞台で、政権や事業団体がアイドルの人気を利用して右翼的な政策を推し進めたり、国民に信仰心を取り戻させようと画策するんです。まず冒頭のシーンがすごくて、主人公である反体制のアイドルがステージ上で警察に拷問される芝居をするんですよ。それを見た客の女の子たちは「キャー!やめてーッ!」と泣き叫ぶ。そのシーンを強烈なインパクトとしてよく覚えているのは、当時、グループ・サウンズの人たちがそのシーンを真似てステージで再現していたのをテレビで見ていたからなんです。

PANTA:ジュリー(沢田研二)もやってたし、ジャニーズもやってたよね。

町山:フォーリーブスがやってましたね。北公次さんがポール・ジョーンズのパフォーマンスを真似て。

PANTA:ちなみに、『日劇ウエスタン・カーニバル』で俺がズボンをおろしたステージをやった後に出番だったのがフォーリーブスだったね。

町山:そこでもつながった(笑)。ステージ上でアイドルが拷問されるというのは、キリストのパッション・プレイ(受難劇)が下敷きとしてあるんです。キリストが拷問されて十字架にかけられるのを芝居で見せて祈りを捧げるという伝統がヨーロッパにはあるんですね。キリストをアイドルに置き換えて見せるのがコンセプトで、それを政治利用するというすごく複雑な話なんですよ。今日はその『傷だらけのアイドル』の冒頭のシーンを見てみたいと思います。

(約10分間、『傷だらけのアイドル』の冒頭シーンを鑑賞)

PANTA:ずっと話には聞いていたけど、実際に映画を観たのは初めてだよ。「Free Me」が流れるシーンはああいう演出だったんだね。『時計じかけのオレンジ』とかと同じ匂いを感じるな。

町山:国家が国民をコントロールする道具としてアイドルを使う話なんですが、今の日本でもお笑い芸人とかを使って似たようなことをやってますよね(笑)。まぁそれはともかく、当時の日本のミュージシャンもすごく影響を受けた映画で、ザ・フーもこの映画に影響を受けて『トミー』を作ったと思うんですよ。

PANTA:ポール・ジョーンズの主題歌は音だけ聴いたらフーみたいだもんね。

町山:そうなんですよ。日本のアイドルだと西城秀樹さんも影響を受けていたんじゃないかな。

切通:たしかに「傷だらけのローラ」っぽい曲でしたね。

町山:キリストが鞭打たれるみたいに、上半身裸でひざまずくように唄う感じがね。それもパッション・プレイに似てるんですよ。

PANTA:アダムスっていうグループ・サウンズの曲に「旧約聖書」って曲もあったしね。

町山:ああ、ありましたね。PANTAさんも最初はグループ・サウンズでデビューしそうになったんですよね?

PANTA:デビューさせられそうにはなったけど、グループ・サウンズなんて冗談じゃねぇよとケンカ別れに終わった(笑)。頭脳警察が『日劇ウエスタン・カーニバル』に出た時は、俺たちの出番の前がワイルドワンズで後がフォーリーブスだったから、何でも一緒くたに見られていたんだろうけど。

町山:その3組のなかで実際に罪を犯したのはフォーリーブスだけですけどね(笑)。

切通:飛ばしますね(笑)。町山さんがラジオで「頭脳警察が『日劇ウエスタン・カーニバル』に出たのは何かの間違いだったんじゃないか?」と話していましたけど、実際はどうだったんですか。

PANTA:俺たちの他にもフラワー・トラベリン・バンドとかが出てたし、そういう新興勢力のロックの連中も入れておきたかったんじゃないかな。ワイルドワンズの植田(芳暁)君は頭脳警察のステージを見て「俺たちの時代は終わった」と実感したらしいよ。俺にズボンをおろさせた張本人は植田君なんだけどね(笑)。

「ああ、東大」という橋本治の返しが絶品だった

町山:それで晴れて日本のドアーズになったわけですね(笑)。ドアーズと言えば、ジム・モリスンにすごく影響を受けているのが遠藤ミチロウさんですが、ミチロウさんはPANTAさんと同い年なんですよね?

PANTA:そうだね。同じ1950年生まれ。

町山:ミチロウさんの前では言えませんけど、ミチロウさんって本当にPANTAさんの影響を受けてますよね。

PANTA:そうかな? ミチロウは山形大学の学園祭の実行委員をやっていて、頭脳警察を呼んでくれたんだよ。

町山:ああ、そうだったんですか! PANTAさんが「世界革命戦争宣言」を朗読したのに対して、ミチロウさんは「先天性労働者」でマルクスの共産党宣言を朗読してますよね。「あなたの真似です!」とか言われませんでした?(笑)

PANTA:それはないよ(笑)。

町山:僕が育ったのは靖国神社のすぐ近くで、小さい頃から新宿騒乱事件とか神田カルチェ・ラタン闘争のことは知ってたし、法政大学でもよく内ゲバをやってたのを覚えてるんです。『幻野祭』のガイコツのポスターも街じゅうに貼ってありましたし。その流れで頭脳警察という名前も子どもの頃の記憶としてあったんですけど、本格的にPANTAさんのファンになったのは80年代に入った辺りなんです。僕のなかでは「SF的ロックを唄う人」として好きになったんですよ。

切通:PANTA & HALの「HAL」という名前も『2001年宇宙の旅』が由来でしたよね。

町山:それもそうだし、いちばん衝撃を受けたのは「ルイーズ」ですね。試験管ベビー第1号をモデルにした曲で。当時は試験管ベビーと呼ばれていたけど、今で言うクローン人間ですよね。

PANTA:去年(2018年)の5月にルイーズ・ブラウンが日本に招かれて、六本木ヒルズで講演をしたよね。もう40歳になるのかな。

町山:「ルイーズ」って、『ブレードランナー』のレプリカントみたいなアイディアを先取りした曲ですよね。

PANTA:当時、世界初の試験管ベビーの話を聞いて、これは歌にしなくちゃいけないと思ったんだよね。

町山:だけど「ルイーズ」の歌詞を読むと、酷い女に惚れた男の話なんですよね(笑)。

PANTA:『1980X』というアルバムが、東京をスライスするのがテーマだったからね。

切通:『1980X』は東京という街の捉え方がちょっとSF的でしたよね。降り立った空港から見つめ直すみたいな。

PANTA:IBMの一歩先を行く(H←I、A←B、L←M)のがHALの由来でね。当時、『スターログ』というSF雑誌があって、そこで対談したのが橋本治との最初の出会いだったんだよ。彼が「とめてくれるなおっかさん背中の銀杏が泣いている男東大どこへ行く」というコピーの東大駒場祭のポスターで有名になったことは知っていたのに、その対談の帰りに「大学どこだっけ?」なんてバカな質問をうっかりしちゃってさ。それに対して橋本が「ああ、東大」と間髪入れずに返してきたわけ。東大って答えるのは難しいんだけど、彼の答え方は絶品でね。それ以来、彼のことが大好きになって付き合いが始まったんだよ。

(つづく)

*本稿は2019年2月17日(日)にLOFT9 Shibuyaで開催された『ZK Monthly Talk Session「暴走対談LOFT編」VOL.5 〜衝撃の一夜のアフター6…奇跡の3人が語り尽くす!〜』を採録したものです。

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