下りへの分かれ目

 何人かが階段を上っている。上へ上へと行くはずが、目で追っているうちに低い方へと向かう。目の錯覚を誘う「だまし絵」の巨匠、エッシャーにそんな作品がある▲だまし絵のようだ-と言えば口が過ぎるが、一段一段、階段を上っていると聞いていたのに、実はそうでもなかったらしい。内閣府が3月の景気動向指数を発表し、景気について6年2カ月ぶりに「悪化」とした。中国向けの輸出が減ったのが主な理由という▲景気を昨年8月までは「改善」、9月からは「足踏み」、今年に入り「下方への局面変化」とし、下り坂にあることをうかがわせてきた。それでも公式見解では「緩やかに回復」中だと、政府は言い続けている▲低成長時代の景気拡大は、ほとんど実感を伴わない。2012年12月からの景気拡大は6年余に及び「戦後最長に達した可能性がある」と今年初めに政府は宣言したが、ピンときた国民がどれほどいただろう▲景気の拡大が手応えのないまま途切れ、下降線をたどるとすれば、10月に予定される消費増税の延期もなくはない、とささやかれる。「緩やかに回復」と言ってきたのを、政府はとうとう見直すのか▲錯覚の妙技だろう。エッシャーの絵に階段の上りと下りの境目は見当たらないが、景気はいま、下るかどうかの分かれ目に立つ。(徹)

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