「リレーコラム」投球数制限でカット打法は有効か 参考となる小中学生の先行事例

3月22日、前橋市民球場で行われた前橋中央ボーイズの紅白戦

 日本高野連の「投手の障害予防に関する有識者会議」が4月に発足し、高校野球での投球数制限をめぐる議論が本格的に始まった。

 導入に慎重な立場からは、選手層の薄いチームが対応できない、早く交代に追い込むためわざとファウルを打つ「カット打法」が用いられるといった懸念が指摘されている。

 投球数制限はどのような変化をもたらすのか。先行して導入している小中学生の年代の事例を踏まえながら考えてみたい。

 小学生の硬式野球のリトルリーグでは、本部がある米国でのルール改正に伴い2007年に投球数制限が導入された。

 11、12歳は85球が上限で、球数に応じて次の登板までに必要な間隔も定められている。

 日本リトルリーグ野球協会の常田昭夫理事は「大エースが投げきっていつも勝つというチームがなくなり、戦力が均等化した」と言う。

 多くの選手にチャンスを与えるという理念を掲げるリトルリーグには、ベンチ入り選手を全員起用しなければならないというルールがあり、投手の併用が促されることはこの理念にも合致する。

 ファウルで球数を稼ごうという風潮はないという。

 森嶌敏仁理事は「投球数制限はリトルリーグが誇りにしているもの。選手を守るためのルールで、これを利用して勝とうという思想ではない。そこをはき違えないようにしたい」と語る。

 中学硬式のボーイズリーグでは昨年、ある大会で1日85球、連続する2日間で120球以内とする投球数制限を実施した。

 15試合、延べ30人の先発投手の球数は前年の計2049球から約3割減の1496球となり、全投手の合計でも約6%減少した。

 1試合あたりの起用人数の平均は2.1人から2.6人に増加。駒がそろわないチームのやりくりは苦しくなるが、現場の指導者からは「投手を発掘するよい機会」という声もあったという。

 同じく中学硬式のポニーリーグでも、米国で提唱されているガイドライン「ピッチ・スマート」(年齢ごとに1日の球数の上限やその球数によって必要な休養日数を細かく定めたもの)に準じた投球数制限が一部の大会で行われている。

 全ての選手に投手に挑戦させてみるという沖縄中央ポニーの上原正吾監督は、「経験がなくても制球がよく試合をつくれる選手がいたりする。新しい発見がある」とプラス面を強調する。

 ボーイズリーグの前橋中央ボーイズは3月、カット打法の有効性を検証する紅白戦を行った。

 投球数制限を実施した上で、積極的に打つチームと球数を投げさせることに徹するチームで対戦。作戦を入れ替えて2試合行ったところ、いずれも「好球必打」チームが大勝した。

 「待球作戦」チームは1、2イニング早く投手交代させることができたが、計18イニングで実に36三振。1打席で投げさせたのは8球が最多で、平均は4.95球、ファウルは1打席あたり0.45球で、多くても3球だった。

 追い込まれた後のファウル打ちの難しさが際立つ結果となり、試合に参加した茂田侑大選手は「初球を見逃していると甘い球でカウントを取られることが多いし、2球で追い込まれると打者が不利。いろんな球を使われるとカットもしにくい。早いカウントで打ちにいった方が効果的だと思う」と感想を語った。

 前橋中央ボーイズの春原太一監督は、「投手が良ければツーストライクから打てる確率はかなり下がる。レベルが低いところでのみ成立する考え方なのでは」と、カット打法に疑問を呈する。

 プロ野球でも巨人の菅野智之投手のような一流投手との対戦では追い込まれる前に早打ちするケースが多い。

 もちろんプロ野球に投球数制限はないが、好投していてもたいていの場合は100球から120球ほどで交代することを考えれば、似たような状況と言えるのではないだろうか。

 「ファウルを打ち続ける」という狙いが成り立つのが、相手投手のレベルが低いときに限られるとすれば、カット打法は格下の相手をいたぶることができるだけで好投手の攻略の切り札にはならないだろう。

 年代が異なる小中学生のケースとはいえ、参考になることは多い。

 11月に高野連への提言をまとめる予定となっている有識者会議には、先行事例を踏まえた議論を期待したい。

児矢野 雄介(こやの・ゆうすけ)プロフィル

2003年共同通信入社。高知支局を経て05年から運動部で主にプロ野球を取材。現在は日本野球機構(NPB)担当。栃木県出身。

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