大型連休を終えた5月10日からの東京ドームは記録ラッシュに沸いた。
巨人―ヤクルトの3連戦。巨人・坂本勇人が連続試合出塁記録を打ち立てる。
開幕以来、安打を量産して四球も選んで積み上げたその数は36。あの長嶋茂雄、王貞治の偉大な先輩を追い抜くと、金本知憲の持つセ・リーグ記録をあっさり破ってしまった。
次なる標的は1983年に記録したスティーブ(当時西武)のプロ野球記録である40試合連続出塁だ。どこまで迫っていくか、注目していきたい。
対するヤクルトの“新・記録男”が村上宗隆だ。
11日の同カードで左越えに放った今季10号本塁打は、高校を出て2年目として史上最速の快挙となった。
これまでは中西太(当時西鉄)が1953年に記録した39試合目だったのに対して、村上は38試合目での到達である。
高卒2年目でのブレークは、過去の選手を見ても王貞治、張本勲、清原和博、松井秀喜や大谷翔平までスーパースターがずらり。
村上もまた、怪物ロードのスタート地点に立ったことは間違いない。
さらに翌11日、新たな勲章も加わる。今度は四番打者の最年少記録だ。
10代の4番は86年の清原(西武)以来となるが、球団では53年に作った町田行彦を破り66年ぶりの最年少4番の誕生だった。
チームは目下、非常事態の中にある。バレンティン、坂口が戦列離脱。さらに山田、青木も体調不良で主力が軒並み先発メンバーから外れる。
そんなお家の事情があったにせよ、19歳と3カ月の若者が4番を任されること自体が非凡の証明と言えるだろう。
「まだまだ課題は多いが、将来は3割、30本塁打を期待できる」と小川監督がほれ込む逸材。
2年前のドラフトでは清宮幸太郎(日本ハム)、安田尚憲(ロッテ)と並ぶ三羽烏として注目されたが、知名度や話題性では二人の後塵を拝していた。
九州学院高時代は捕手として活躍。プロ入り後に内野手に転向しているので、1軍でプレーするまでに時間がかかると見られていた。
しかし、1年目にファームでめざましい働きを見せると、昨年9月の広島戦で初打席初本塁打の鮮やかなデビューを飾り、首脳陣ばかりかファンの心もがっちりつかんでしまった。
辛口の評論家でも打席での立ち居振る舞いに、将来の球界を背負って立つ大物と口をそろえる。
188センチ、97キロの巨体から放たれる打球は外国人選手並みの飛距離を誇る。加えて、今季の10本塁打のうち5本が左翼方向に記録されている。
左打者にとって逆方向に大きな打球を打てることは、柔軟性の表れでもある。
開幕から2週間ほどたった4月中旬、打率は1割そこそこで打撃成績を見ると一番下の方を探せば見つかった。
首脳陣もさすがに2軍での再調整を検討し始めたことがある。
だが、信頼の絆が切れかけたときに踏ん張れるのもスター選手になれる必須条件だ。
今では打率こそ2割4分台ながら10本塁打、27打点(13日現在)は、リーグでも上位に名を連ねている。
このまま、数字を積み上げていけばタイトルだって夢ではない。
今後の課題は数々あるが、まずは守備の強化が第一だ。
今季は三塁でスタートしたが、安定感を欠いて一塁にコンバート。キャンプから宮本ヘッドコーチの猛ノックを受けてきたが、こちらの上達はバットスピードほど速くない。
チームの失策王とあって、まずはチームの敗戦に直結するようなミスをなくすことを肝に銘じている。
ライバルでもある清宮は右手有鈎骨の骨折で出遅れたが、ようやく2軍で実戦段階までこぎつけた。もう少しで1軍に戻って来る。
この二人の特徴はスイングスピードの速さと桁外れの飛距離にある。
大谷がそうであったように、打撃練習で見ほれる選手は限られる。
去年は清宮が先に1軍の座をつかんで7本塁打を記録。今季は村上が大きく水をあけているが、このライバル物語は今後どんな輝きを見せていくか。
いつの世も、ファンは新たな怪物の出現を心待ちにしている。
荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル
スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。