“ファッショニスタ”オードリーの魅力が満載の作品をライター・清藤秀人が紹介!

“ファッショニスタ”オードリーの魅力が満載の作品をライター・清藤秀人が紹介!

“オードリー・ファッション”。それはまるでファッションの専門用語のように浸透している言葉だが、皆さんはこの言葉から何を想像するだろう? まず、思い浮かぶのは「麗しのサブリナ」で履いた底がフラットなサブリナ・シューズと、裾がアンクル丈のサブリナ・パンツあたりだろうか。これらは、身長が170cm弱もあったオードリー・ヘプバーンが少しでも背を低く見せるために、また、裾を短くすることで脚を長く見せるために、衣装デザイナーのイーディス・ヘッドに協力をあおいで編み出した渾身のアイテム。この組み合わせは、「パリの恋人」で主人公のジョーがパリの地下にある秘密クラブで踊る時の、スリムなパンツとローファーへとアレンジされている。ジョーが履いている白いソックスが、黒いパンツとローファーを奇麗に分断して暗闇の中で躍動する様子は、“オードリー・ファッション”の白眉。アンクル丈のパンツとフラットシューズのコーデは徐々に形を変えて、今やレディース、メンズを問わず春夏の定番になっており、そのパイオニアがオードリーだった、というのは少々言い過ぎだろうか?

一方、その「麗しのサブリナ」で花の刺しゅうが目を引くベアトップドレスをデザインして以来、ハイファッションをオードリー映画に提供するようになったのが、パリ・モード界のレジェンドであるユベール・ド・ジバンシィだ。「麗しのサブリナ」の中でジバンシィはもう1点、オードリーのためにスラッシュド・ネックライン(左右を真っすぐな水平線でつないだもの)の黒いカクテルドレスをデザインしている。そうすることで、オードリーの美しい僧帽筋とネックラインが強調されるわけで、これと同じネックラインは「昼下りの情事」でヒロイン・アリアーヌがフラナガンとホテル・リッツでお忍びデートする場面にも登場する。また、ジバンシィは「ティファニーで朝食を」の冒頭を飾るブラックドレス、「おしゃれ泥棒」のアイマスクが遂になった黒のシースルードレス、「華麗なる相続人」では胸元にシースルーとスパンコールが使われた黒のイブニングを、それぞれデザインした。それらは、“チープ・シック”“シンプル・イズ・ベスト”を探求したオードリーと、パリのオートクチュール界でも特にミニマム(最小主義)なデザインで独自の世界を構築したジバンシィが、“黒”という最もシンプルでシックなカラーで結びついた代表作たちだ。

5月放送の「麗しのオードリー企画」では他にも、ジバンシィによる腰骨のあたりにフレアが入った珍しいスカートが場面を飾る「パリで一緒に」や、オードリー自身がチョイスしたプレタポルテが語り部の役割を果たすイチオシのファッションムービー「いつも2人で」も、もちろん放送する。“ファッショニスタ”オードリーのエッセンスが凝縮された珠玉の“おしゃれ月間”をぜひお楽しみに!

「パリの恋人」

パリの地下のクラブでジョーが激しくダンスするシーンで、当初オードリーはソックスも黒を提案。白じゃなきゃダメと頑張る監督のスタンリー・ドーネンとの間で口論になるが、テストフィルムを見てオードリーが折れ、白に落ち着く。そのドーネンも今年2月に94歳で他界。ファッションスターであるオードリーの魅力を誰よりも熟知していた名匠は、きっと今頃、天国でオードリーと久しぶりに再会してダンスシーンでコラボしていることだろう。

「麗しのサブリナ」

印象的なサブリナ・ファッションは他にもある。黒い長袖のニットの上に花柄のジャンパースカートを合わせたパリ修業前のサブリナもかわいいけれど、パリから戻った後、ボギーのライナスとヨットクルーズに出航する場面で着るチェックのシャツとショートパンツも品がよくて、ちょっぴり大胆。贅肉がないオードリーのボディーラインを生かしたイーディス・ヘッドの匠の技がここにも。

「昼下りの情事」

フラナガンとアリアーヌにいよいよ別れの時が訪れる。そして、映画史に残る感動のフィナーレへ。このクライマックスで効力を発揮するのが、アリアーヌが着る胸の大きなボタンがアクセントに使われたジバンシィのコートドレスだ。駅の雑踏の中、列車の蒸気にぬれながら、白いコートがヒロインの変わらず純真な心を象徴しているかのようだ。

「ティファニーで朝食を」

ホリーがスキャンダルにもめげずにブラジルでの結婚を夢見ながら、赤いニットを編んでいる。そこに、久々にポールが現れて2人は最後のディナーへ。その時、ホリーが着ているオフタートルのグレーのセーターが格好よすぎる。ネックの高さといい、丈の長さといい、ミリ単位での採寸が間違っていたらこうならなかっただろうという、オードリーとイーディスが編み出した究極のリアルクローズだ。少しでも体のサイズに合っていない服は着るべきではない。そんなメッセージが聞こえてきそう。

「パリで一緒に」

オードリー扮するヒロイン・ガブリエルの衣装はジバンシィによるもの。小さな襟がポイントのオレンジ色のワンピースは映画のイメージを代表するアイテムだが、他に目を引くのは、腰骨あたりで膨らんだ生地が裾をめがけて細くなるペグトップ・スカート。オードリーのスリムなボディーラインをデザインでカバーしたジバンシィの労作だ。「ティファニーで朝食を」のピンクのドレスもこれと同じデザインなのでヒップ周りにボリュームがない人はその着こなし、見え方を要チェック。

「おしゃれ泥棒」

冒頭でヒロインのニコルは白い高めのハットに白いサングラス、白いスーツで颯爽と赤いコンパーティブルのハンドルを握っている。端からこのカラーコントロールには唸るが、オープニングの白ずくめファッションは1960年代にロンドンを起点にブームになったモッズ・ファッションをジバンシィがパリのエスプリでアレンジしたもの。エスプリ=ユーモアはこの映画には必要不可欠な要素なのだった。

「いつも2人で」

イーディス、ジバンシィの両者と決別し、ほぼ場面毎、時代毎に変わる”カラフル・シック”なプレタポルテをオードリー自ら見繕った作品がこの「いつも2人で」だ。ヒロイン・ジョアンナが女子大生時代に着る赤いニットとジーンズ、赤い水着、結婚倦怠期に着るパコ・ラバンヌのメタリックなミニドレス、そして、背景に反応する黒いエナメルのパンツスーツなど。五つの旅を行き来しながら進んでいく物語をどうにか混乱せずに区別できるのは、要するに各時代の服が輝いているから。服が案内人とも言えるのだ。

「華麗なる相続人」

父親が遺した莫大な遺産を相続したヒロイン・エリザベスが着るとしたら、ジバンシィのオートクチュールしかないだろう。大きなモチベーションを得たジバンシィは、スカイブルーのウエディングドレスから黒いベルベットのディナースーツと頭のベール、果ては、オードリーのバストをぎりぎりで覆い隠すシースルーのドレスなど、ゴージャスの限りを尽くしている。セレブライフを絵に描いたような服たちが、まさに映画の魅力でもあるわけで。

文/清藤秀人

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